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174話 『持たざる者』

『ぬー……えぇい! もう少しジッとしておれんのか!』


「そんなこと言って、もしみんなの身に何かあったら……」



 どうして待っているときというのはこうも長く感じる……もうニッグの前を何往復したかもわからない。

 決して信じていないわけじゃないが今回に限っては全員離れ離れ、ましてやシャルはまだ子ども、万が一暴走でもしてたらとんでもないことになってしまう。

 いくらシャルが独り立ちできそうだといっても心配なものは心配なのだ。そろそろ子離れを考えなければならないな……。



「ただいまーーーー!!」


「――おふッ!!」


「みんなはまだかな?」


「や、やぁリリア、二人とも元気そうでよかった」



 一番心配していた二人が戻ってきてくれてまずは一安心だ。飛び込んできたシャルの頭を撫でながら二人の無事を確認する。

 なんとなく雰囲気が変わった気もするが修行の成果というやつだろうか? とにかく怪我もないようで安心した。



「残りはルークとミントか……無事に戻ってきてくれるといいが」


「何かあったの?」


「後から聞いた話だったんだが、この修行はメアさんからの試練でもあって、下手をすると死ぬらしいんだよ」


「そうだったんだ……でも大丈夫だよ! 大変だったけどほら、シャルと私もこうして戻ってこれたんだし!」



 言われてみれば確かに……二人ともこうして無事に戻ってきたわけで、最年長のミントとドラゴンの血を引くルークならよっぽどでない限り大丈夫とみていいだろう。

 メアさんだって無理難題を押し付けてるわけじゃなさそうだしヒュノスが言うにはどこかしらにヒントを置いてるらしい。


 問題はそこに気づくかどうか、そして自分の選択を曲げない信念があるかどうかが大事だと……信念については俺が付け足しただけだが。



「そうだな、ここは信じて待つとするか」


『まったく……その度胸が女子(おなご)の前だけでなければのう』


「どきょーってなぁに?」


「シャルちゃん、度胸っていうのはだな――」



 ヒュノスがシャルに詳しく説明しているが教えてくれる分には止めはしない。だが、もしそこに少しでも俺の威厳を損ねるようなことがあるならば全力で止めさせてもらう。

 しばらくヒュノスの言葉に耳を傾けながら待っているとニッグが出口に反応を示す。



『むっ、この気配は……』


「グウウウゥゥッ」



 声がするとルークとフェンリルが一緒に入ってきた。よく見るとルークの鱗は真っ青に変わっており、フェンリルはテンションが高いのか鼻息荒く、尻尾は振り回されている。

 シャルとリリアがルークの元に駆け寄ると、変わりにフェンリルが俺の元に駆け寄ってきた。



『ちょっと聞いてくれよ、あんなもの初めてみたぞ!』


「近い近いッ!」


『いやーほんとにびっくりした、まさかドラゴンにあんな力があったなんてな。蒼い炎なんて初めてみたぞ』



 蒼い炎? フェンリルは勝手に納得してるけどなんにもわかんないぞ。炎といえば、ニッグの炎は黒だが、ルークは普通の赤だったはず。それが蒼いからって何が違うんだろう。



『まさかあやつの血を引いて……こんなことがあるとはな、まったくお主たちは楽しませてくれる』


「なぁいったいどういうことだ? 俺にも教えてくれよ」


『黒炎はすべてを焼き尽くし、蒼炎はすべての傷を癒す。我が知る限り古い過去に一人だけ扱える竜がいた』



 炎で傷を癒すってすごいな。しかもニッグが古いっていうくらいなんだから随分昔の……あれっ?



「それってまさか、あんたといたあの小さい竜のこと!?」


『知っておるのか』


「知ってるっていうかスキルの影響で過去を視たことがあったんだよ。その、最期は残念だったけど……あんたのことが随分気に入ってたみたいだったから覚えてる」


『…………数少ない友だった。我と違い、奴の使う炎は生ある者たちを癒した。不死の力を持つなどと思われたのもそのせいであろう』



 ……残念だが俺たち人間の思考なんてそんなものだろう。百歩譲って言葉がわかる相手がいれば別だったかもしれないが、それでも権力者や命知らずが押し寄せるのは目に見えている。

 シャルを乗せたルークが楽しそうにしているが、いつか人間に狙われたりするのだろうか。



 まぁいざとなれば俺たち全員で守れば……というか、下手すると相手が滅びる可能性があるんじゃないの。話してわからない相手ならぶっ飛ばすしかないし、それでもくるならまたお城にでも乗り込んで直接言い聞かせるしかない。

 さすがに国が滅びたなんてことになったら洒落にならんだろうから止めさせるだろう。

 とにかくだ、これで残りはミントだけだな。



「あら、思ったよりみんな早かったわね」


「メアさん! 危険なら最初からそういってくれ。一時はどうなるかと……」


「残念ながら最後の一人がまだよ、そして彼の修行が一番辛いでしょうね」


「……何か悪ふざけでもしてるんじゃないだろうな?」



 ミントに何かあったのか、まるで最後に残ることがわかってたようにメアさんは表情変えることなく口を開いた。



「そんな面倒なことしないわ。単純に考えてみなさい、彼があなたたちと同じ力になれるわけないじゃない。普通の中でなら優秀な方だろうけどね」



 それから数日待ってみたがミントが戻る気配はなく≪未来予知≫で探ってみてもその姿はなかった。

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