表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/200

173話 『過日の夢(リリア編)』

 もう嫌っ…………


 耳を塞ぎ暗い部屋の片隅で座り込む。痛む身体だけでなく、まったく魔力のない身体がこれほど頼りなく感じるなんて思いもしなかった。外の世界と隔離された空間が一層不安を駆り立てていく。


 レニ君はこんな状態でいつも? どうしてあんなに平気でいられるの……私は、どうしたらいいの……。


 時間だけが過ぎていくなか少しでも解決策を考えようと家を見渡す。中央に置かれた鏡以外はお婆ちゃんと過ごした家に似ており武器の一つもない。



 一緒にお茶を飲みながら過ごした日々、そのなかでも大好きだったのはお婆ちゃんが毎日ちょっとずつ聞かせてくれた『勇者と魔法使いの冒険』という話だった。


 その内容は、今思えば退屈だった私のためにお婆ちゃんが考えてくれた作り話だったんだろう。それを私は疑うことなく聞きそして信じていた。

 それから初めて職業をもらい大喜びした日、私は魔法を使おうと外にでたが何も起きる事はなかった。



 子どもの頃をふと思い出した瞬間、中央に置かれていた鏡が一瞬だけ光る。

 気のせいだったのかもしれない……だけど誰かが呼んでいるような気もした。このままでは何も解決しないと心を奮い立たせると鏡の前に立つ。


 そして鏡をジッと見つめていると映像が浮かびあがっていく。低い視線の主はどこかに向かって大急ぎで走っているようだった。




 * * * * *



『はぁはぁはぁ……お婆ちゃんッ! 今ね、神様から祝福があったの!!』


『おやおや、そりゃあめでたいねぇ。何をもらったんだい?』


『えっと、えっと、魔法使いだって!!』


『魔法使い? 魔術師じゃないのかい?』


『違うよ! これで私にも勇者さまが来てくれるかなぁ?』


『……良い子にしてればきっときてくれるよ。どれ、ここじゃ危ないから外で魔法をみせておくれ』



 これは私が初めて職業をもらったときだ、このあと私は……。

 記憶を辿るように鏡の私はお婆ちゃんの手を引き外にでていく。そして、まだ小さいその腕を目一杯広げる。



『…………お婆ちゃん、魔法ってどうやって使うの?』



 そういって振り返ろうとした一瞬だった。見逃しそうなほんの一瞬――天高くに魔法陣が薄っすらでると空一杯に広がり消えていった。

 お婆ちゃんも気づいておらず、二人で笑いながら家に戻っていくとそこで映像は切れた。



 * * * * *



 今のは間違いなく魔法……杖も持っていないのになんで……。



「そういえば、シャルは杖を持っていないのに魔法を使っていた――」



 それどころかメアさんだって杖もないのに魔法を使っていた。ソフィアさんやミントだって杖がなくても魔法を使えている。



「もしかして……あのときすでに成功していた?」



 万が一にも成功していたと考えるならば、その後魔法を使えなかったのはなぜ? ……いや、それよりもあのとき私が使った……願った魔法はなんだった!?


 必死に記憶を辿っていく。確か、祝福を受けた私は嬉しさのあまり無我夢中であることを願っていた。



 『早く勇者さまが来てくれますように!』




 それはお婆ちゃんが聞かせてくれた『勇者と魔法使いの冒険』で、魔法使いは一人で暮らしていたが勇者になるという少年と旅に出るという話から、私がみた夢だった。


 話の中で魔法使いの少女は少年と旅をしながら魔法を覚え成長していく。魔法使いは杖を持ち――もしかして、シャルの予言の本みたいに私の魔法がずっと影響を与えていた?



 それが本当なのであれば私は初めから自分で魔法を使えなくしていた可能性もでてくる。それにシャルとメアさんが使う魔法には名前がないようだったが、私には魔術師のように付いていた……一つ一つ疑問が解決していく。


 そしてすべてが繋がったとき、目の前に小さな魔法陣の球体が現れた。



「これは……」



 私が初めて使った名前のない自由な魔法。今まで気づかなかった――いや、心のどこかで気づかないフリをしていたのかもしれない。これを解けば『勇者と魔法使いの冒険』が終わる。でも、もういいんだ。




 魔法陣をゆっくり手で包み込むと体の中に魔力が戻ってくるのがわかる。幼かった自分が作った魔法は、私から勇気を奪う変わりに勇者(レニ君)を連れてきてくれた。


 だけどこれからは勇者の後ろをついていく魔法使いじゃいられない、勇者の隣に立つ仲間になるんだ。



 外に出ていくとボロボロになった騎士が倒れている。すぐさま駆け寄り抱きかかえると必死に立ち上がろうと動き出す。



「……大丈夫、あとは任せて」



 家の壁に休ませるように静かに置くと剣を拾いモンスターたちを前に立つ。



「あなたたちは私の弱い心、倒させてもらう!!」


「ゲレレエエレエレ!」



 走り出し爪を振りかぶるモンスターの懐に入り込むと深く斬りつける。モンスターは叫び声をあげると消えていった。

 それをみた鳥のようなモンスターはこちらに来るのをやめ方向を変えた。



「ギャギャギャギャッ!!」


「逃がさないわ!」



 片手を突き出し強くイメージをすると上空に魔法陣が現れ、中から炎の竜が飛び出ていく。竜はモンスターを丸飲みにすると消えていった。

 モンスターを倒したのを確認したのか、目の前に扉が現れる。これで修行は終わりということだろう。



「今までありがとう」



 動かなくなった騎士の横に剣を置き、壊れた身体を戻す。この騎士は今まで守ってくれていた勇者であり私の願いが形になったモノ。


 そんな魔法という存在をジッと考えると私は扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ