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172話 『開錠②(シャル編)』

 パパーかたぐるま―!


 いいぞ、おっ、少し重くなったか?



「……きなさい、シャル、起きるのよ」


「んー……ママ?」



 なんだかわからないが幸せな夢から目を覚まし、視界に入ってきたのは真っ暗闇のなか光を放つ大きな扉だった。見たことのあるハートの模様が刻まれてある。



「お別れの時間よ」


「さ、目を覚ますんだ」



 眼をこすりながらも、いつの間にか顔もわからない二人に対し、修行のことよりも離れたくないという思いが芽生えていた。



「やー、ここにいるー」


「そういうわけにはいかないわ」


「君の大事なパパとママが待っているんだ、いってあげなさい」



 両親ならここにいるじゃないか。それを疑う余地もないシャルの頭にまた夢のように映像が浮かぶ。



 こらシャルッ! ちゃんと挨拶はしたの!?



 これは――いつも厳しくて優しい、私と同じくらいパパを大好きな人だ……。



 まぁまぁ、リ**落ち着いて。ほらシャル、会ったらまずはちゃんと挨拶をするんだ。本日はお日柄もよく――



 この人は、みんなに好かれて、みんなを大切にしてる……だけど一番はママを大事にして……でもシャル(わたし)も大好きな人。



「しゅぎょー、終わらせて帰らないと……」


「そうだ、みんな待っている。早く戻ってあげなさい」


「そうだ、一緒にいこー」



 自分としてはいい案だと思った。二人も連れて行けばいい――それならずっと一緒にいることもできるし、あの人たちにも紹介できる。

 選ばないといけないなら二つ取ればいい。



「それは無理よ」


「なんでー?」


「私たちはもうあなたの中にいるから」


「今なら大丈夫、きっと受け止められる」



 二人が頭に手を掲げると頭が割れるように痛み出す。そして脳裏に蘇るのは、幸せに暮らしてた日々と――目の前で誰かが殺される瞬間だった。



「あッ……ぁ……やあああああああああああああ!!」



 思い出した――自分の幸せはあのとき唐突に奪われ、死ぬはずだった自分は両親によって生かされ、そして忘れていた。とても大事なことなのに、なぜ今まで思い出すことすらできなかったのか。



「あ、あいつら……許さないッ!」



 魔法が使えたらすぐにでも殺してやる。全員同じ目にあわせて、いやそれ以上にしてや――――いいかシャル、なんでもかんでもやり返せばいいってものじゃないんだ。



「はぁはぁはぁ……だ、だれ……?」



 まだずきずきと痛む頭に知らない――いや、知ってるはずの人影が映る。この人は……誰っ……。




 パパはね、昔ママが危険な目にあったとき怒っちゃったことがあってね……みんながいなかったら道を踏み外してたかもしれないんだ。


 道は踏み外しても戻ればいいんだよー? パパおバカさんー!


 あっはっはっは! 確かにそうだね。でも戻れない道っていうのもあるんだよ、シャルにはまだ難しいかな。




 ママー戻れない道ってなぁにー?


 急にどうしたの?


 パパがねー……。


 うーん…………シャルはね、ママが悪い人になったらどう思う?


 別に―? ママはママだよー。


 そうね、でもシャルが悪い人になったら、ママとパパだけじゃなく、きっとみんなが悲しむわ。


 なんでー?


 それはね、シャルのことが大切だからよ。




 大切……そうだ、パパとママがよく言っていた言葉。


『幸せになるのよ、私たちの大切な――』



 あのとき最後に聞いた声は目の前にいる二人の声と同じだった。そしてもう一つの大切な両親と、色々なことを教えてくれた人たちが自分にはいる。



「シャル、今までの生活はどうだった?」


「楽しかった……大きな竜に乗って、みんなで冒険して、美味しいモノ食べて、騒いで怒られて……危ないときもあったけど、それでもみんなと一緒でぇ……楽しかったよぉ……っ」



 シャルの目からはボロボロと涙が零れていた。一つの人生は最悪な結末だったが、思い返せば新たに始まったもう一つの人生は幸せの連続だった。そしてそれはこれからも続くであろう人生――。



「それじゃあそんな仲間たちを悲しませちゃいけないね?」


「ッ……うん…………」



 なんとなく予感はしている、ここで別れればもう二度と会えない。



「さぁ、時間だ。パパとママの言うことをちゃんと聞くんだぞ」



 背中を押されるように扉の前に立つ。お別れというのは何度も経験してきた。

 アリスちゃんともバイバイしたし精霊のみんなとも、この人たちともちゃんとお別れをしないと……ママに叱られちゃう。



「シャル、パパにみんなのこと頼まれたんだ」


「そうか! 立派になったな」


「パパとママの子だから、シャルがしっかりしないといけないの!!」


「うふふ、偉いわね」


「パパとママのこと、みんなにいってもいい?」


「もちろんよ、みんなも喜んでくれるわ」


「いっぱい……いっぱい話すね! だからパパとママも元気でね!!」


「えぇ、あなたは私たちの子よ、いつも一緒にいるわ」



 何度拭っても溢れる涙を抑えきれず扉を両手で押し出す。扉の中はこちらに来たときと同じように光で満たされていた。



「それじゃあバイバイッ!!!」



 走り出し、後ろで扉の閉まり始める音が聞こえた瞬間、呼ばれた気がしてすぐに振り返る。



 ずっと愛してるよ――



 そういった二人の顔は、はっきりとシャルの眼に映し出されていた。




 * * * * *




「ただいまー!」


「おかえりなさいませ」



 相変わらず何を考えてるのかもわからないノルンが出迎える。すでにシャルがでてきた扉は消え、もう一つの扉だけが残っていた。



「すぐお戻りになられますか?」


「ママはー?」


「リリアさまはまだお戻りになられてません」


「じゃあここで待ってる!」


「かしこまりました」



 頭の中がすっきりしていたシャルは試しに簡単な魔法を使ってみた。あっという間に椅子が出来上がり、そこに座るとシャルはすぐに記憶のイメージを絵におこす。


 脚をぷらぷらさせ笑顔で見ているその手には三人の家族写真があった。

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