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171話 『開錠①(シャル編)』

「あら、あなた、こんなところでどうしたノ?」


「迷子? ご両親ハ?」


「いるよー、今はしゅぎょーちゅー」



 歩いていると小さな花たちが声をかけてきた。本能で誰かの魔法だからとわかっていたというのもあるが、シャルからすれば何が喋ろうと関係はなかった。



「嘘でしょ、きっと捨てられたのよ」


「そうよそうに違いないわ。可哀そうな子ね」


「パパとママはそんなことしないもんッ!」



 けたけたと花たちの笑い声が広がっていくと奥からガサガサと大きなカエルのモンスターが現れた。丸々と太ったその姿にカラフルな気味の悪い模様がすぐに敵だと認識させた。



「大変、捨てられた子が食べられちゃウ」


「逃げロ逃げろー」


「誰も助けにこないワ、誰も助け――」



 そこまで言いかけた花は急にその場からいなくなり、カエルの口がもぐもぐと動いている。足元には花びらが散っていた。シャルはすぐに魔法を使おうとしたが発動しない。

 シャルにとってこんなことは初めてだった――呆然としているとモンスターの口が徐々に開いていく。



「危ないッ!!」



 その声と同時だった。身体が誰かに引き抱かれると目の前をモンスターの長い舌が勢いよく通り過ぎる。自分を抱えたのが男性だとわかると後ろから女性の声が聞こえてきた。



「逃げるわよ!」



 抱きかかえられ森を走る男性の腕の中で、シャルは初めて聞いたはずのその声に疑問を覚えジッとしていた。



「よし、もう大丈夫だ。怪我はないかい?」


「う、うんー。えっと、助けていただいてありがとうございました」



 森を抜け一軒家に辿り着くとシャルは椅子に座らされていた。助けてもらったら礼をいう――これはリリアやミントに口を酸っぱくして教えられていたことだった。

 目の前にいる男女は驚くように顔を合わせると声をあげて笑う。しかしシャルの目に二人の顔はノイズが走るように認識できていなかった。



「どうしてあんなところにいたんだい?」


「しゅぎょーしてるのー」


「……あなた、もしかして」



 女性が何か悟り男性を見ると二人はひそひそと何かを話す。顔は見えないが何かを話す声は悲しそうにしていた。



「シャルはシャルです。あなたたちはー?」


「あら、挨拶ができて偉いわねぇ。私は*****、よろしくね」


「俺は*****、外は危ないから今日のところは泊まっていきなさい」


「……はーい」



 魔法の使えない今、安全を確保しなければというのもあったが、それよりも二人の声と、認識できないその顔にシャルは既視感を覚えていた。




 * * * * *




「そろそろいかなきゃー」


「どこに行くの?」


「うーん、わかんない」


「一人じゃ危険だろう、俺もついていこう」


「大丈夫ーシャルしゅぎょーちゅーだから!」



 家は居心地がよかったが、だからこそ修行を早く終わらせようとシャルは焦り始めていた。



「ママ、パパ、あの子一人ダよー」


「捨てられタんだわ」


「可哀そうニなぁ」



 感情のない言葉で会話をする花たちを脇目に、どんどん歩いていくと小さなトカゲのようなモンスターが現れた。チョロチョロと動き回り辺りを見渡している。



「あなたはなにをしてるのー?」



 モンスターは反応したがすぐに茂みへ向かって走っていく。そして、突然影が通り過ぎるとその姿はなくなっていた。

 空から声が聞こえ上を見ると鳥に鷲掴みにされたモンスターがいた。



「その子をはなしなさーい!」



 魔法を使おうとするが発動しないため石を拾って投げるもまったく届かない。そのまま鳥はどこかへと飛んでいった。その姿を嘲笑うかのように花たちはお喋りを始める。



「次はあノ子の番よ」


「かワいそー」



 魔法が使えればあんなモンスター……目的もわからない修行はどうすれば終わるのか、そんなことを思い始めたときだった。隠れてついてきていた男性がシャルの元へ出ていく。



「シャルちゃん、行く当てがないなら家に戻らないか?」


「……しゅぎょーしなきゃー」


「あぁ、俺たちも協力するから、一度戻ろう」



 一人で何もできない今は助けてもらうしかない――しかし本心はこのまま早く修行を終わらせたい半面、二人のことが気になって仕方なかった。



「さ、迷子にならないように手を繋ぎましょう」


「はーい!」



 一度家に戻ると今度は三人で家を出る。初めてのはずなのに三人で一緒に歩くシャルはなんだか懐かしい気分だった。モンスターに遭遇することもなくひたすら歩き続ける。

 どこに向かうまでもなく――脇でうるさかった花も何も言わず綺麗な花を揺らしていた。



「そろそろ暗くなってくるわ」


「この辺りで休憩するか」



 野宿の準備を始めるとあっという間に辺りは暗くなっていった。




 ――こら、シャル! 走り回らないの!


「……ママ?」



 ハッと目を覚ますと毛布が掛けられている。いつの間にか寝てしまっていたようだ。懐かしい夢、でも知らない夢……まだまだ眠気が抜けないまま、気づけば女性に頭を撫でられていた。



「時がきたら起こしてあげるわ」


「ゆっくり寝なさい」


「……はーい……ママ、パパ、おやすみなさいっ……」



 頭がぼーっとしたままのシャルはもう一度深い眠りについた。

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