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161話 『オーランの遺産』

 なんだかんだ数日村で休みを取った俺たちはいよいよ旅を再開することにした。村の出口ではみんなが集まってくれている。



「リリアちゃん頑張るのよ……応援してるわ!」



 なぜか父さんと母さんがしつこくリリアの手を握っているが、もうリリアは独り立ちできるくらい成長している。



「二人とも、これ以上プレッシャーを与えないでくれ」


「レニッ……お、お、お前ッ……」


「僕がちゃんと見届けるさ。ことが動いたらすぐに知らせるから」


「ミントちゃん、頼んだわよ!」



 あのミントが責任をもつだと……ミントまでも成長していたとは、ライムがみたら驚くだろうな。



「みんなまたねー!」


「あーーーんシャルちゃん、お姉ちゃん達の子にならなーい!?」



「ルークちゃんいっちゃやだあああああああ!!!!」


「グルルルルルルル…………」


「ほらあんたたち、離れなっ――さい!!」



 あっちではシャルが誘拐されそうになっており、もう一方ではルークに群がった子ども達を親御さん方が引きはがしている。

 随分村のみんなに気に入ってもらえたようだし……次はもう少し早めに帰ってくるか。



「さぁみんな、遅くなるからそろそろ出発だ」


「うん! シャル、ルーク、行くよ!」


「はーーーい!」




 次はお土産でも買ってくるとしよう。

 みんなに惜しまれながら次に俺達が向かったのはドラゴンの住む山だった。



『時間通りだな』


「だからいったでしょ、くるって」



 なぜかミアさんがドラゴンの前で椅子に座り飲み物をすすっている。いったい何なんだこの人は……敵ではないようだが、ドラゴンの記憶のようなものに現れたってことは相当前から生きていることになる。

 見た目はどうみてもまだ二十代から三十代、しかしドラゴンが生きてる時代からでいえば間違いなく数百年はくだらないだろう。



「ミアさんはいったい何者なんですか」


「それよりもまずはニッグに聞くことがあるんじゃない?」



 ニッグって……やっぱりあんたか。すぐさまドラゴンの顔を見ると大きなため息を吐いていた。

 ニーズヘッグと呼ぶのも長いから略したのかな。まぁ呼びやすいし俺達もそう呼ばせてもらおう。



「なぁ、オーランの遺産って知ってる?」


『ほう、また懐かしいものを……』


「何なのか教えてくれないか。ここに来る前、精霊にとり憑いたアビスを倒すために壊しちゃってさ」


「パパがぶっ壊したのー! ずどーーーんって、すごかったよー!」


「真似はしなくていいんだよ」



 シャルが木の枝を拾ってあのときの再現をしようと振り回す。ミントの視線を感じるがあれは仕方のないことだったんだ……だって怖かったし。

 ニッグもそんな目でシャルを見つめないで、この子は純粋なだけなんだ。



『この娘、もしやあのとき(魔女狩り)の生き残りか』


「知っているのか? 俺達、あの出来事以外は何も知らないんだ」


『ほう……まさか、こんなことがあるとは』


「ねっ? だからいったでしょ、長生きも暇つぶしにはなるって」



 ドラゴンは軽く笑い魔女狩りの後、何があったのかを話し始めた。




 オーランは己が招いた民衆の愚行を嘆いていた。しかし、それとは裏腹に人々はますます魔術を信仰、オーランの立場を不動のものへと押し上げた。

 あの一族を探し出して謝罪するか? いや、そんなことをしても何の意味もない。それどころか下手をすれば民衆の怒りを買い自分の身が危うくなってしまう…………。



 賢者とはいえ所詮人の身、命一つ掛けたところで何も事態は変わらないことをあやつは知っていた。ならばどうやって己の罪を償うか、考えた末に出した答えは友の子を未来へ送り出すことだった。



「それでなんで封印術を学ぶのさ。君達が僕のところに飛ばされたようにすればいいんじゃないの」


「あれは特例中の特例だろう、未来へ飛ばすなんて到底無理な話としか思えない。俺達だってなんでこの時代にこれたのかは知らないが……そもそもそういう考えにならないと思う」


『いい機会だ、ゆっくり考えてみるがいい』



 いくらなんでもタイムマシーンを作ろうなんて、よっぽど頭がおかしくなければ考えないと思うし、アニメで見たような青い狸型ロボットでもいなければ不可能だろう。



「もしかして、外の世界から隔離することが目的だったってことじゃない?」


「どういうこと?」


「詳しくはわからないけど、もし封印することでその対象の時間を止めることができるとしたら……ほら、シャルのときみたいに」



 なるほど。そして時間が経ち封印が解けたとき、封印されていた人はまったく違う時代を生きるってことか。



「でも友の子って誰を封印するつもりだったんだろう」


『あやつの日記になんと書いてあったか覚えているか』


「えぇーなんだったっけかなぁ。確か希望を繋ぐだったか」


「誰かを託された――って……、ま、まさかッ!?」



 リリアは何かわかったのか声をあげるとニッグは怪しくニヤリと笑った。


 

『魔法といっても無限であるはずがない、いつかどこかへ現れるはず――そう思ったあやつは子どもを見つけ次第保護、封印し後の未来へ託そうと計画した。ま、それは徒労に終わったようだがな』


「……そういうことだったのか」



 あの日記の後半に書いてあった、友が残した希望っていうのは、魔女狩りの生き残りだったわけだ。もしかすれば何人かいるのかもしれないが、その中にはあの子も入っているのだろう。


 シャルの両親は死ぬ直前、万が一何かあればオーランに頼るしかないと思い力になってくれるよう言っていたのかも。そこでオーランは考えた末、シャルを見つけ出し封印、いつかわからない遠い未来で生きてもらおうと考えたんだろう。



 結局シャルはこの時代でもずっとあの中(次元回廊)にいたからそれはうまく叶わなかったわけだが……。まぁ一時的にとはいえアビスを封印するのには役立ったわけだし、無駄になったわけでもないだろう。


 自分のことだとはつゆ知らず、シャルはミアさんの横に座り足をぶらぶらさせていた。



「話は終わったようね、それじゃ本題に入りましょう。あなた達をこの時代に送ったのは――私よ」

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