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159話 『恋の観測者(3)』

 ついに私たちはここまできました。一時はどうなることかと思いましたがとても大きな飛躍です。

 思い返せば昔から二人は普通と思えないアクシデントばかり……そんななかで恋などしてる余裕などなかったのでしょう。


 しかし、だからこそ二人は幸せになるべきなのです!



「あれ、どうしてあなた達がここに?」


「アイリこそ……どうしてここにいるのよ」



 なぜか先に出ていったはずのグループが木の陰に隠れている。リリアお姉さんが先にどこかへ向かったため先行して後をつけてもらい、私達は一度家へ戻って再度出てきたレニお兄さんを監視していた。


 今は隠れる場所がなかったため、先回りをしていたところだ。



「あ、二人がきたわ、もう少し詰めて!」


「ちょ、ちょっと押さないでよ!」



 全員が急いで草木に隠れるとすぐに左右から二人の姿が見えてくる――二人の手にはまったく同じ一輪の花が握られていた。


 こんな奇跡があるのでしょうか! ……こんな偶然まるで絵本のよう……全員が固唾を呑んでジッと見守っていると二人はお互いの存在に気づく。



「んっ? リリアか、どうしてここに」


「レ二君こそ……あれ、そのお花」


「あぁこれは――って、まさかリリアも?」



 二人はお互いの考えが読めたのか何も言わず揃って歩き出した。特に何か言う訳でもなく進んでいき、着いた先は共同墓地だった。



「婆さん、改めてだけど……今までありがとう」



 ……そんなことってあるのでしょうか。このタイミングで互いが同じことを思うなんて、奇跡としか……いいえ、もはや運命よ。

 昔を懐かしむように二人はしばらくお墓を見つめていた。



「でも、よく気がついたね」


「庭に咲いてたのを思い出してな、きっと好きだったんだろうって」


「うふふ、このお花は私が子供の頃、お婆ちゃんが寂しくないようにって植えてくれたんだ。窓から見るとお花畑みたいに見えて綺麗だったんだよ」



 二人の仲はすでに恋とかそういうもの以上のようね……。覗いてる私達にソフィアさんが小さく囁く。



「さ、これ以上は野暮というものよ、みんな戻りましょう」


「気配をおってきてみりゃ、お前らここで何してんだ?」


「ッ!!」



 こんなときに背後から声を掛けないでください! そういえば誰か連れてくるって言ってましたが、わざわざこのタイミングじゃなくても。



「あれ、みんな揃ってそんなところで何してんだ?」



 どうやって誤魔化しましょう。それにタイラーさんの横にいる人はいったい……どこかで見たような。



「二人揃って墓参りとは感心だ。すまんがこれから空いてるか?」


「えっ、えぇ別に大丈夫ですけど。その方は……」


「久しぶりだな」



 なかなか立派な騎士のようですが……あれ~どこかで…………



「あーッ! まさかニールさん!?」


「えッ!? お前、あのニールか!?」



 二人もわからなかったのか驚いてますが無理もありません。ニールさんといえばお二人が旅に出てしまってすぐ、タイラーさんに弟子入りし、今では王都で有名な騎士団の一人に選ばれたはず。


 普段は滅多に村へ戻ってきませんし、帰ってくるときはいつもラフな服装だったから気づきませんでした!



「いや~随分立派になっちゃって……昔とは大違いだな!」


「ガキの頃の話はよしてくれ。お前には散々迷惑をかけちまった。それに、君にも」



 ニールさんは昔やんちゃでしたからね。まぁそれをいったらみんな混じってバカをやったりしてましたが、あの頃からレニお兄さんとニールさんは何かしらぶつかることが多かったです。


 子供達のリーダーであるニールさん、どこか大人で常識を語るレニお兄さん、ぶつかるのは必然といえば必然だったのかもしれません。



「レニ、ちょっくらこいつと勝負してやってくれ」


「な、なんでですか!?」


「腕比べだとでも思ってくれ。確かこの先にちょうどいい岩場があったな、そこなら広いしちょうどいいだろう。お前らもせっかくだから来い」


「師匠、見世物じゃ……」


「はっはっは、何を今更言う。お前は今まで何のために剣を握ってきた?」



 どうやらニールさんにも訳があるようですね。ソフィアさんに促され場所を変えると二人は向かい合って立つ。



「あの子ね……リリアちゃんがモンスターに襲われてから、自分にもっと力があればってずっと後悔してたのよ」


「あのときはみんな子供でしたし仕方ありませんよ」



 その通りです。何も恥ずかしいことではありませんし、今更悔しがる必要もないと思いますが。



「ニールさんは努力して立派な騎士になれたのですから、もう十分ではないのですか?」


「男ってのはね、いつまでも引きずるものなの。あのとき――立ち向かっていったのが(レニ君)じゃなく自分だったら、もしかしたら……ってね」



 うーん、どういうことでしょうか? リリアさんもよくわかってないようですし私自身もいまいちわかりません。



「ですがこの勝負、レニお兄さんのほうが不利じゃないですか。いくらなんでも片腕では……それにこれで勝ってもニールさんが納得できるとは思えません」


「それに関しては大丈夫よ、レニ君は絶対に負けないから」



 笑顔でそういったリリアさんの姿は自信に溢れ一切疑ってないことがわかる。そしていよいよ試合の合図が始まろうとしていた。



「さっき説明したように一発入れたほうが勝ちだ。訓練用の剣だが当たればくそ痛いからな、注意しろよ」


「わかりました、ニールよろしく頼むよ」


「あ、ああ……お前はそのままでいいのか? 何かハンデでも」


「ニール、一つ言い忘れた。こいつには全力でいけ」

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