157話 『恋の観測者(1)』
私の名はアイリと申します。モンスターに襲われたとき、リリアお姉ちゃんが助けてくれたおかげでこうして元気に生きることができています。
そしてあのとき、レニお兄ちゃんは泣いてる私に無事でよかったと言ってくれて、すぐにリリアお姉ちゃんを助けにいきました。
あのときの姿はまるでお姫様を助けにいく騎士のようにかっこよく、まるで大人のように安心感がありました。
だからこそリリアお姉ちゃんがレニお兄ちゃんのことを好きだとわかったとき、悔しかった半面、二人ならお似合いだと諦めることができました。
しかし今――――私たちはあの頃の友人と集まっていた。
「ミントさん、それ本当ですか!?」
「僕はこれでも二人のことを考えて野暮な真似はしないようにしてるんだよ? でもこれじゃあ、いつになることやら」
なんと旅を続けて数十年、二人の仲は一向に進展していなかった。ミントさん曰く、リリアお姉さんは何度かそれっぽくアタックはしていたらしいのだが、肝心のレニお兄さんがまったく気づいていないとのこと。
「私だったらとっくにほかの男に流れてるわよ……」
「リリアお姉さんもさすがですね……こうなったら作戦を立てましょう」
「アイリ、あなたもそろそろ自分のことを」
「余計なことはいいの!」
私のことなんかよりもまずは二人のことよ! こんなんじゃいつ悪い虫が付いちゃうかもわからないじゃない!
「君達の恋が進展するときってのはどういうときなんだい?」
「私の場合は仕事で困っていたときに助けてもらったことがきっかけね」
「私はやっぱりこの指輪かなぁ……私のためにここまで尽くしてくれる人ならいいかもって」
「あんた、それって物で釣られただけじゃないのよ」
うーん様々な意見があるわね。旅をしてる二人は困ってるときなんて常に助け合ってるだろうし……確かにプレゼントなんかは良さそうだわ。
「ちなみにプレゼントを渡したことは?」
「僕の知る限りではないと思うよ」
「それです! ちょっとリリアお姉さんに聞いてきますね!」
「あ、ちょっとアイリ待ちなさ――」
確かリリアお姉さんは冒険者の方々とお話中のはず、大事な話の最中であればもちろん邪魔をしてはいけませんが……。
「失礼します」
「あ、アイリちゃん」
「ちょっとお聞きしたいことがありまして。お邪魔ではないでしょうか?」
部屋でリリアお姉さんと一緒に座っている初老に近い男女は、昔モンスターが来た時にきてくれた冒険者だ。あれから何度もこの町に足を運んでくれて、ニールさんもお世話になってるって聞いたわ。
「昔話をしていただけだから大丈夫よ」
「ありがとうございます。お話というのはですね、リリアお姉さん、何かほしいものはありませんか?」
「えっ、急にどうしたの」
「ほら、指輪とかネックレスとか!」
「んー戦いの邪魔になっちゃいそうだしいらないかなぁ」
な、なんてこと……! 女が身につけたくなる装飾品の一つもいらないなんて……ましてや戦闘中のことを真っ先に考えちゃうなんて大変、このままじゃ手遅れになっちゃう!
そうだ、もしかするとこの初老手前の女性も若い頃は男をブイブイ言わせていたのかもしれない。よく見ると妖艶なスタイルは未だに男性を惹きつけるモノがあるようにも思える。
「あの~ご相談なんですが……ごにょごにょごにょ……」
できるだけ協力者は多いほうがいいでしょう。私は女性の耳元で囁くように説明した。
「あらッ! それは一大事じゃない!」
「ソフィアさん何かあったんですか?」
「あ、いやこっちの話よ。タイラー、ちょっと出掛けてくるわ」
よし、一度戻って作戦を練り直そう。ソフィアさんはどうやら昔のお二人にも詳しいらしいからいい意見が聞けそうだわ。
「みなさん戻りました」
「どうだった? あれ、その方は」
みんなに事情を説明し一筋縄ではいかないことを伝える。どうやら私たちが思っている以上に事は深刻だ……しかし二人には幸せになって頂きたい。次第に全員のやる気が上がっていく。
だが、様々な意見がでてもミントさんがいい反応をすることはなかった。
モンスターをけしかけてみようかという恐ろしい案もでたが、今のリリアお姉さんはとても強いらしい。ブラッドベアー程度では片手で倒せてしまうとか……。
あの可愛らしい姿からはとても想像できないが、ミントさんが言うのならば間違いないのだろう。
「きっと、二人とも異性を知らないから、それが当たり前になりすぎちゃってるのよ」
「なるほど、レニさんは昔からお婆さんとも仲がよかったですからね。そういう意味では私たちが思ってる以上に二人の関係は近すぎるのかもしれません」
つまり兄妹のような関係に近いのかも。確かにレニお兄さんは普段から大人顔負けの雰囲気がありましたからね。リリアお姉さんも心のどこかでお兄ちゃんと思っているのかもしれない。
「まずは近すぎる関係にお互いを気づかせることが重要ですね……よし、あの作戦でいきましょう!」




