150話 『再会』
何度か休憩を挟みついにドラゴンの住処だった山がみえてきた。季節の違いからか以前とはちょっと違う感じもする。
懐かしい…………すべてはここから始まったんだ。あの大きなドラゴンの背に乗り、まさかいきなり吹雪のど真ん中に連れていかれるとは思いもしなかったが、今思えばルークのことを考えた最善の結果だったな。
「おーい、いるかー!」
巣穴付近で声をあげるが気配を感じない。むしろ俺たちがここまで近づいてきたら察知して出てくると思ったんだが……中を見てみるか。
「みた感じ随分長い間戻ってないようだね」
「ん? 何か落ちてる」
リリアは何かに気づいたがそれを手に取ることはなくすぐに俺たちを呼んだ。
これは予言の本? いや、それはないか。
以前、予言の本がほかにもないか聞いたときシャルは『全部壊れたよー』と言っていた。
あの魔人はシャルの身体を乗っ取ると同時にシャルが残した魔法を全て解除し、魔力を戻したからこそ思う存分力を使えていたとシトリーに聞いている。
それと目の前に落ちているこの本、どこかでみたような気がする……。古ぼけており表紙には何も書かれていない。何より怪しいのは本は古ぼけているように見えるがこの場所だけ誰かがさっきまでいたように新しい。
「この不自然さ……誰かが意図的に置いたということも考えられるな」
「君に出会ってから本にろくな思い出がないような気がするんだけど」
「普段読書なんてしてたのか?」
「そりゃあするわけないよ」
ミントはさも当然とばかりに首を振った。精霊ってもっと歴史に興味を持ってると思ったんだが……ミントが読まないだけなんだろうか。とりあえずほかにも怪しい場所がないか探してみよう。
――――
――
「みたところ怪しいのはこれくらいだね」
「もしかして、ドラゴンさんは何かに巻き込まれてるのかも……」
「もしくはすでに俺たちが巻き込まれてる……ってところか」
今更何かを注意したところで向こうからやってくるんだから仕方ない。俺にやれることといえばできる限り片っ端から解決していくことくらいである。
そう、茨の道しかないのであれば茨の道を進んでいくしかないのだ。
「念のため視てみるか」
≪スキル:ものまね(占い師)≫
≪未来予知≫
――――燃え広がる大地、真っ赤な空に映る竜……もしかしてあいつか、しかしなんでこんなことになっている。
「あくまで現時点での予知だが、この本を読んだ先は争いが起きていた。そしてあいつもいた。みんなの安全は保証できないが……どうする?」
まさかとは思うが夢でみたあれが現実にならないとも言い切れない。あのときは別のパーティが現れたし間違いなく俺たちではなかったが……。
変化球を交えた正夢という可能性もある。そんな不安が過ぎるが、真っ先に口を開いたのはミントだった。
「なんだ、やっぱりいつも通りじゃん」
「シャル、教わったことちゃんと覚えてる?」
「前にでない、油断しない、周りをよく見る、危ないと思ったらすぐ逃げる、あとはー……」
指を一つずつ折りながら確認していく。本当であれば子供を争いのなかに連れ込みたくはない。
しかしシャルの持つ力と境遇を考えればいっそのこと世界をみせたほうがいいと――これは俺が眠りから覚めたとき、リリアとミントがみんなに相談し決めていたことだった。もちろんそれに関しては俺も賛成している。
シャルが自身のぶっとんだ力の使い方を覚えるためには自分の眼で世界をみて考えるしかない。もちろん、俺たちが正せる部分は正したいと思うが、それはあくまで倫理観という基準を教えるためだ。
五つ目を思い出したのかシャルが拳を振り上げる。
「敵だとわかったらぶっ飛ばすー!」
「ちゃんと覚えてたみたいだね、僕も教えた甲斐があったよ」
「ちょっとミント! いつの間にそんなこと教えてたの!?」
たぶん……ミントも何か考えがあってそう教えたはず……。まぁ前世の子供たちなんて、死ねーとか殺せーとか普通に言いまくってたし、それに比べれば全然マシだろう。
相変わらず俺の質問からどんどんそれていったが、まぁそういうことだ。
「よし、それじゃあみんな、気を引き締めろよ」
「僕がそんなヘマをすると思う?」
「ルーちゃん、何が起きるかわからないからシャルと一緒に近くに来て」
全員が揃ったのを確認し俺は本を開く。そして見覚えがある文字が書かれていた。
『真実を求めし者よ、世界をワタレ。』
思い出した……これは魔術学校にあった本と一緒だ!
本が光出し大きな魔法陣が足元に展開される。
「全員俺に掴まれ! とばされるぞ!!」
みんなが一斉に俺に触れると光が強まり視界が消えていった。
* * * * * * * * * * * *
前回よりも意識ははっきりしている。目を開け辺りの状況を確認すると全員揃っておりすぐにみんなも目を開けた。
「みんな、体に異常はないか?」
「大丈夫、ここはどこだろう」
辺りをみる限り何もないような森と平原、だが空は赤茶色のような異様な色をしていた。何時なのかいつの時代なのか……何か手掛かりを探そうとしていると、道沿いからフードを被った人物が歩いてくる。腰には一本の剣を差し、十分な距離まで近づいてくると声をかけてきた。
「お前ら、どうやってここへきた?」
「えーっと話せばややこしくなっちゃうんですけど……」
声を聞くに男性であろうその人物は俺たちをじっくりと見渡す。さすがにドラゴンに妖精に子供を連れてちゃ怪しいか。
しかしこの男、ルークをみても動揺一つしていない……相当腕の立つ人物のようだ。
「……もしかして、お前レニか!?」
「えっ、なんで俺のこと知って」
「やっぱりそうか! 俺だ――って、これじゃわからんか」
そういってフードを取った男性の顔は、しわが多くも威厳のある顔つきをしており、俺はすぐにある人物と記憶を重ねる。
「まさか……タイラーさん!?」
「覚えててくれたか、嬢ちゃんも大きくなったな」
「タイラーさんもお元気そうでなによりです! あの、ソフィアさんはご一緒じゃないんですか?」
リリアの言葉にタイラーさんは少しばつが悪そうにした。
「この辺りは危険だ、歩きながら話そう」