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145話 『暗闇』

 天というのは空のことだろう、さすがにムントゥムさんでも天の世界を知ってるわけがないだろうからな。



「いったいどういうことかしら?」


「魔法使いというのは魔術師のことだろう。少年の翼っていうのは、妖精のことを指しているのではないだろうか」



 フリックさんが推測しているが、間違いなくこれはムントゥムさんが俺たちに残したメッセージだ。あの頃を元に考えてみるとすぐに、それも子供だった俺たちに限りなくわかりやすくしたものだとわかった。



「魔法使いはリリア、少年は俺のことだろう。そして翼……これはルークだ。あのときミントはまだいなかったからな」


「そうか! ムントゥムさんはルーちゃんがドラゴンだって知ってたから翼があることだってわかってたんだ」



 っとなればあとは『地の獄には地』か。変に考えずそのままとればいいから、空に空があるならば地の獄……地面には地がある……それよりもさらに――――。



「もしかして……この下?」



 リリアが地面を指差すが俺もちょうどそんなことを思っていたところだった。そもそもこんな大きな穴が自然に空いてるわけがない、初めてみたときは宙に浮いているのかとも思ったが……。人の住む場所でわざわざ意味もなく、そんな危険なことをする必要はないだろう。



「ま、まさかこれを降りるのか?」


「ちょ、ちょっと深いようね……」



 ひたすら深いということだけはわかる、問題はどうやって全員で降りるかだ。



「ミントは空を飛べるゴーレムは作れる?」


「作っても地面からの魔力がなくなっちゃうし、飛んでも少しすればすぐ落ちるよ」



 作れないこともないけど無理ということだな……ならいっそルークで運ぶか。



「じゃあルークが運べるくらいの籠を作ってくれ」


「あーなるほどね。それなら形を維持するだけだし僕も楽になるよ」




 * * * * * * * * * * * *



「お先が真っ暗だー」



 シャルがどこで覚えたのかというような言葉を放つ……。俺の前にシャルを座らせ、ルークにはミントが作った籠を持たせてゆっくりと降りてもらっていた。

 リリアの魔法で出した火の鳥が明かり代わりになって先導するがまだまだ底はみえない。



「ぜ、絶対に落とさないでよ!」


「おい、お前の魔力は大丈夫なんだろうな!?」


「もううるさいなぁ、僕の魔力が切れたときは三人仲良く落ちていくだけだよ」



 籠のほうからはまだまだ元気な声が聞こえているから問題はないのだろう。さらに降りていくとリリアが何か見つけたように声をあげた。



「あれ、今何かあったような……」



 先導していた火の鳥が通り過ぎた箇所に戻っていく。照らされたのは水晶のように光を反射するとてつもなく大きな鉱石だった。



「これは魔力石か? それにしてもでかい……」


「もしかしてこれで浮かせていたのかな」



 言われてみてわかったが中央にあるはずの支えが何もない。上は橋で繋がってるくらいだし本当に浮いていたとは……。さすがに落ちてきたりしないよな? ちょっとだけ心配になりつつ続けて下に降りていく。



「あ、底に着いたみたい」



 火の鳥を目印にルークが地面へと降り立つ。



「じ、地面よ……着いたんだわ!」


「よかった……落ちなくて本当によかった……」



 ふらふらとした足取りで二人がでてくる。ミントも元気に出てきたし問題はなさそうだ。



「さすがに真っ暗だね」


「明るくできるよー」



 松明くらいじゃ心もとないと思ってたからここはシャルに任せてみよう。シャルはその場で呪文を描くと広範囲に魔力が広がり空にたくさんの星がでてきた。



「そ、そ、そ、空に星ができた……?」


「よ、夜になったの……?」



 まさか星を作り出して明かり代わりにするとはな。これならかなり視界も見えるし安全だ。



 ……タスケテ…………


「……今、誰か喋った?」


「えっ?」



 確認するが全員が首を横に振った。あぁ完全にあれがいる……。言葉として言いたくないあれが……。



「キャッ!!」



 急にリリアが声をあげると、辺りを確認する。



「い、今……誰か私に触った?」



 リリアが恐る恐る聞くが全員が首を横に振った。そしてなんとなく察したのか徐々に不安が広がっていく。



「ま、ままままさかみんなビビってるの?」


「ミント殿も、こ、こ声が震えているぞ。まさか実在しないものに恐れをなしてるんじゃ」


 ……クルシイ……ダレカ…………


「ひゃッ!?」



 ジュリネさんが小さい悲鳴をあげ、周囲を確認するが何も見えていない。退屈になったのかシャルがかがんで独り言をつぶやいていた。



「痛くないの? みんなに助けてもらおっか。ねーこの子怪我してるよー」



 全員がシャルの指差すほうを見る――そこには顔が血だらけになりこちらを恨めしそうに見つめる幽霊がいた。



「でっ、でたああああああああああああ!!」



 なんでこんなところに幽霊がいるんだよおおおおおぉぉ!!

 あまりの恐怖に魔法と弓矢を放つが一切効いていないどころか、こちらに向き直しゆっくりと近づいてくる。



「あ、ああぁぁぁ足に手がーーーー!!」



 そう叫んだのはジュリネさんだった。尻もちをつき倒れたその足には無数の霊の手が張りついていた。



「レ、レニ君剣! 剣を!!」


「ッ!!」



 そうだ! 俺の剣であれば霊の手を斬ることができていた。あまりの恐怖に動揺していたがすぐさま俺は剣を抜いた。


≪スキル:ものまね(英霊ヴァイス)≫


「悪霊退散ーーーーーッ!!!!」



 そう叫びながら俺は無我夢中で幽霊を斬りまくった……。もう恨まれるかどうかなんて気にしてられない。


 やらなきゃやられる、初めて俺はこの世界にきて生存をかけて戦った気がした。

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