144話 『手掛かり』
懐かしい思い出と共に俺たちの目に映ったのは崩壊した魔法都市だった。大きな橋は崩れかけ町や学校もほとんど姿形を残しておらず瓦礫の山が散乱している。
「酷い……」
生徒たちがいた面影は何も残っておらず、みんなの憩いだったはずの大きな噴水は半壊し水が枯れ果てていた。
「本当にここにあるの」
「確信はない、だが必ず結果には何かしらの原因があるはずだ」
「それじゃあ僕らはここで待ってるから早くその原因ってのを見つけてきてよ」
「あぁ、すまないがシャルを頼む」
広場だった場所にミントとルークとシャルを残し俺たちは歩き出す。荒らされた形跡が稀に見られたが、フリックさんたちの見解では単なる墓荒らしのようなものだろうと言っている。
戦争から何十年と経った今では金目の物などあるはずもなく、更地に近い都市を歩き続けると見慣れた場所に辿り着く。
「ここは魔術学校か」
「あぁ、俺たちがみたのと随分変わり果ててしまったが……」
中に入りそのまま歩いていく。ムントゥムさんやコルターさんはどうしているだろうか……。戦争で死んだということも考えられるが、せめて何か手掛かりの一つでも見つかればいいのだが。
校長室と書かれた部屋の前につくと扉だけは立派に残されており、開けて中に入るとすでに荒らされ本や装飾品の破片が散乱していた。
「特に目新しいものはなさそうね」
しばらく手掛かりを探したが何も見つけられなかったため、外に出ようとしたとのとき、フリックさんがみんなを呼び止めた。
「待て、何かある……これは……鍵?」
壊れた机の隙間から取り出したのは特徴的な鍵だった。どこか見覚えがある……。
「その鍵って確か図書館の地下に入るときのやつじゃないかな?」
「俺たちがとばされた場所か」
何かあるとふんだ俺たちは図書館へ向かった。そして奥に進むと頑丈な鍵を付けられた扉を見つけ、さきほど見つけた鍵で扉を開けると以前降りたことのある地下への階段が残っていた。
「……いこう」
明かりを手に先を進むと前にもあった本棚がそのまま残されていた。オーランの日記と……もう一つは違う本に入れ替わっている。
「何が起きるかわからない、念のため先に俺が読むからみんなは待っていてくれ」
オーランの日記を先に開いてみるが中身に変化はない。次にもう一冊のほうを手に取る。まだ新しくもみえる本の表紙を読み、そこで俺はこれが安全だと確信を得た。
本の表紙には『未来の魔法使いへ』と書かれている。
「リリア、これはムントゥムさんが残したものに間違いない」
問題がないということを確認したリリアは横にきて一緒にページを見ていく。
君たちが魔法陣で飛ばされてからもう何年も経つ。この世界のどこかにおらぬか探したが噂一つ見つけることができなかった。儂も歳じゃから記録の一つとして、そしていつかこれを読む者が現れてくれることを祈って残そうと思う。
さっそくじゃがコルターの娘もすっかり大きくなり、もうすぐここを離れると言っておった。いつかお主たちに会えればと楽しみにしておるし、そのうち地図でも残しておこうかの。
「メユちゃん元気になったんだね、よかったぁ」
「あぁ、いつか会ってみたいな」
最近何やら不穏な風を感じる……。異常な行動を起こすモンスターも増え街や学校でも黒い影の噂が絶えない。何か不吉なことでも起きる予兆だろうか……万が一を考えここに記しておこう。コルターにはすぐにここを去るように伝えねば。
「やっぱり、何かがあったんだ……」
「この日記の主はいったい誰なのだ?」
「この学校の校長だった人だよ」
フリックさんとジュリネさんは本当に過去から来たのかというように再確認していた。まぁ信じきれないのも仕方がない、とりあえず先を読もう。
なんだあの人間は……いや、人間にすら見えない。おとぎ話の魔王の類か? まずいと思いすぐさまここへ逃げたが外は酷い有り様だ。人間たちは正気を失いまるですべての種族を恨んでいるように攻撃を始めている。できる限り子供たちは避難させたがこのままでは大変なことに……かくなるうえはオーランが残した遺産を使うしかない。
「ここも何かに襲われてたんだ……」
「そうだな……とりあえず今はオーランの遺産について探してみるか。二人は聞いたこととかない?」
「オーランが来る相手に備え、隠したと言われる伝説の魔道具のことだろうか」
「確かここの創設者が作った謎を解いた者だけが知ってると聞いたことはあるけど……この有り様じゃあね」
伝説の魔道具!? しかも来る相手に備えてって……最終決戦用の兵器かなんかなのか? どうしようロボットでも出てきたら……!! 絶対に見つけたい……。
「その伝説――オーランの謎については何かわからないのか?」
「ここが滅びてなければヒントとかあっただろうけどこれじゃあさすがに無理だわ」
くそ……さすがにリリアの≪真実の鏡≫も建物の過去を読み取るわけじゃないし……。
なんとか方法はないかとしつこく考えているとリリアが隅に置いてあった木箱を開けた。
「あ、もしかしてこれがメユちゃんたちがいる場所の地図かな」
「そういえばそんなことも書いてあったな。あとで読んでみよう」
「これ以上は何もなさそうだしそろそろでましょうか」
「そうだな、探索はこれくらいにしていったん広場へ戻ろう」
広場へ戻ると三人は暇だったのか日向ぼっこをして休んでいた。ドラゴンに精霊に人間の子供が仲良く欠伸か、できればムントゥムさんにも見せてあげたかったな。
「パパおかえりー! それなぁに?」
「これは昔のお友達がいる地図だよ」
といってもまだ開いてすらいないんだけどね。そもそも地図をどう読むのかまともに知らないから、誰かに聞いてみないとな。
「それ以外には何もなかったようだね」
「一応情報はあったんだが直接的なものはみつけられなかった」
一応ということでミントにも、ここが襲われたときの状態とオーランの遺産について報告をする。
「あとはその地図の友達が何か知っていないか聞いてみるしかないんじゃない?」
「いや、この子は多分何も知らされていないだろう。事が起こる前にはすでにここからいなくなってるみたいだし」
「ママーこれなんて読むのー?」
地図を両手いっぱいに開いたシャルがリリアの元へ歩いていく。まぁ文字くらいであればリリアだってわかってるだろうし大丈夫だろう。
「えーっと、『天に天あらば、地の獄には地が、恐れを知らぬ者のみが真実を知る。魔法使いよ、少年の翼を使え。遺産はそこに在る』……って、これ何かのメッセージじゃない!?」




