143話 『真相究明③』
森を抜け街道ができているところをみるといくら魔法都市が滅んだといっても、周辺の村や町では変わらず商人たちが行き来しているようだ。しばらくミントを追っていくと前方に教会が見えてくる。
中に入り神父へ説明、初めは困惑した様子をみせたが解呪の準備を進めた。
「うーん、みたところ精霊に呪いはなさそうですが……しかしこの怯え方は……」
「と、とにかく解呪を頼む!」
「それではそのまま動かないでください」
≪解呪≫
神父の手から光が放たれ精霊を包んでいく……だが、神父は何かに怯えると苦しみだした。
「ぐうぅぅ……や、やめろおおおぉぉ!」
「神父様!?」
精霊に張り付いていた手と同じものが襲っている。シスターたちが急いで駆けつけるが神父は苦しみ精霊も以前変わりはない。神父の首に手の跡がくっきりと浮かび始める。
まさか解呪ができない呪い? 何なんだこれは!
「ま、まずいよ、助けなきゃ!」
「でも何も見えないよ!? いったいどうしたら」
リリアたちが焦るなかキーンという耳鳴りのようなものが聞こえ俺は反射的に剣をみた。もしや使えと言っているのか?
何も手が思いつかない俺はすぐさま剣を抜いた。
「い、いったい何をするつもりですか!?」
「大丈夫です、皆さん離れてください!」
すぐさま神父の首に絡みつく手を剣で斬るとそれは霧散し消えていった。神父は咳き込むとなんとか息を整え始める。
「大丈夫ですか」
「あ、あぁ……」
とりあえずまた襲ってくるとかはないようだ。フリックさんは誰もが考えていたであろうことを口にする。
「し、失敗したのか?」
「すまぬ……しかし、これほど強力でおぞましい呪いなどみたことがない。教会本部の司教様でも果たして解けるかどうか……」
そもそもスキルという絶対的な能力にこの世界で立ち向かえるものなどあるのか? 絶対に解除できない呪いであれば必ずカラクリがあるはず。それにこの剣が通用したということは……。
「フリックさん、失礼します」
俺は後ろに周り込み精霊を直視しないように張り付いた手だけを斬る。手は霧散したかに見えたがうめき声のようなものが聞こえると一瞬で形を取り戻す。
「やっぱりダメか…………みんな、一度外にでよう」
神父もだいぶ参ってるみたいだしこれ以上迷惑はかけれない。外にでるとルークと一緒に留守番をしていたシャルが駆け寄ってくる。
「精霊さんなおったー?」
「いや、ダメだったよ」
さすがにこのままというのも悪いため精霊には戻ってもらうことにした。しかしこれからどうしたものか……。
「で、どうするの? 教会でも無理となるとさすがに解呪の方法はないわよ」
「んーさすがに今は何も思いつかないしなぁ……」
「頼ってばかりいないで少しは君たちも頭を働かせたらどうなの?」
珍しくミントが俺のフォローをしたが、何も見えない呪いを相手にできることなど思いつかないのだろう。ジュリネさんたちは黙ったままだ。
「パパお腹すいたー」
「そういえばまだだったな、とりあえず飯にするか」
「「あ、それなら!」」
声が揃ってしまったフリックさんとジュリネさんはばつが悪そうにしたが、何もできないのを挽回するかのように持っていた小さな鞄から葉っぱで包まれた食料を取り出した。
「エルフの里で食べられているものだ。こういうときはいつでも食べられるように持ち歩いているんだ」
「私のも同じよ、まぁ元々はエルフとダークエルフは一緒だったから違いがないのは当たり前なんだけど……」
エルフたちも一緒に暮らしていたのであれば仲良くやってほしいものだが、種族間の問題なんてそう簡単にいくわけがないということは前世でいっぱいみてきたしな。
元々は一緒だといっても……ん?
「そういえばなんで呪われた精霊と呪われなかった精霊がいるんだろ。魔術戦争が原因であるなら敵対するその場にいた全員を呪っていてもおかしくないと思うんだが」
「呪術師の力不足だったんじゃないの?」
「だからってこんな強力な呪いを、わざわざ精霊だけに呪うなんてことするか?」
「確かに……普通だったら本体に呪いをかけて止めればいいだけなのに」
ジュリネさんの言う通りだ。召喚術師を相手にするのならばよほどの状況でない限り本体を叩いたほうが手っ取り早い。わざわざ召喚されたものを相手に戦うのは、相手の土俵に自分から乗り込んでいくようなもので分が悪すぎる。
徐々に疑問が広がりみんなから不審な点がいくつか挙げられていく。
「むー……パパお腹空いたーーー!!」
「あ、あぁすまん。今準備を」
「シャル、ママと一緒に食べよっか。レニ君邪魔してごめんね」
「やーー! パパと食べるーー!」
こんなときにシャルのわがままが出るとは……最近少し落ち着いたと思っていたがまだまだ子供なんだろう。
今まで自由に生きてきた衝動がそうさせているのかはわからないが、一度わがままを言い出すとそれが通るかそれに見合った以上の何かを見つけないと魔法を行使してでも自分の願いを叶えようとする。
初めてわがままを言ったのはレイラさんのベヒーモスに乗りたいと言い出したときだ。最初は我慢をさせようと何度も説き伏せたが、次第にシャル自身も自分を抑えられなくなったのか、あっという間に魔法陣を描きベヒーモスを強制召喚したのだ。
衝動が収まるとシャルは泣きながら謝ったがまだ子供だ。いずれは自分で抑えられるようになるか、それでもダメなら何か方法を考えてみるということに決まった。
「わかった、一緒に食べよう」
「ごめんね……何か掴めそうだってときに……」
リリアは申し訳なさそうにしているがこれに関しては誰も悪くないとみんなで決めている。ひとまず話を切り上げ、教会から少し離れた場所で朝飯にする。
天気もよく気持ちがいいためピクニック気分のようにみんなで座って食べることにした。
「エルフの食事ってもっと菜食主義だと思ってたけど、なかなか美味しいんだね」
「別に私たちの食事だってあなたたちと変わらないわよ」
「それこそお前たちが勝手に決めた偏見というものだろう」
これに関してはさすがのミントも二人の意見を素直に聞き入れ、なるほどねと納得していた。
「ねぇ、シャルはどうしてパパの横が好きなの?」
「ん-……だってこうやってくっつけるよー」
そういって俺の腕がないほうに座っているシャルは身体をぴったりくっつけてくる。端的に言えば普通あるはずの腕がないため、邪魔がないから楽ということかもしれない。
「ママもするー?」
「わ、わ、私は大丈夫! また今度ね!」
「わかったー、また今度ねー」
そういってシャルあが笑顔で食事を続けると、なぜか安堵したようにホッとしたリリアが話題を変える。
「それにしてもレニ君の剣ってすごいね、まさか呪いも斬れちゃうなんて」
「あぁ俺も驚いたよ。アビスならまだしも」
閃きというのはこういうことを言うのだろうか? 頭に一つの疑問がはっきりと浮かび上がる。リリアの言う通り俺はあれを呪いだと思っていた。いや、思い込んでいた……呪いを斬ったのだと。
「……まさか、ノロイの正体は…………」




