142話 『真相究明②』
精霊を返すと俺たちは椅子に座り直した。ルークは俺が声を出したあのとき、シャルを尻尾で囲み何があってもいいように警戒し、そのおかげもあってシャルは未だにすやすやと眠ったままだ。
「あの場に呪術師でもいたというのか」
「詳しくはわからない、だが教会にいってみるしかないと思う」
「待って、精霊についてたっていう手をあなた以外誰もみてないのよ。それを信じろっていうの」
まぁそうだよな、見えないものを信じろというほうが無理だろう。とりあえずリリアたちの意見を聞いてみるしかないか。
「二人はどうする?」
「うーん、今日はもう休もっか」
「そうだね、明日出発でいいでしょ。君たちはどうする? いったん戻って仲間に知らせたほうがいいんじゃない?」
「ちょ……ちょっと、私の話を聞いてた!?」
「君こそ見てなかったの? こいつの怯えっぷりといい、精霊と同じだったじゃないか」
軽く言うけどマジで怖かったからな!? 多分精神系にくるような作用があったんだろうけど、慣れでもしないとみんなあぁなると思うぞ。下手すればちびる可能性だってある。
今考えると漏らさなかっただけでも自分を褒めてやりたいくらいだ。
「だけど嘘ということも考えられるでしょう?」
「嘘をついて何になるのさ……もう疑いたいなら勝手にすればいい」
面倒くさいと思ったのか、ミントはあくびをするとルークの元へ飛んでいく。疑い深すぎる気もするけど……まぁそれほど人間に良い印象を持っていないということだろう。
フリックさんの意見も聞こうと思ったときリリアが手をあげた。
「お二人は、一人でドラゴンを相手に戦ったことは?」
「そんなことないわよ」
「ドラゴンなんてそこの従魔を見たのが初めてだからな。言い訳がましいが、もし精霊が正常であったならば戦うこともできただろうが」
フリックさんがそのまま言葉を続けようとしたのをリリアは遮った。
「レニ君は、子供の頃みんなを助けるためにルーちゃんの親に一人で立ち向かいました。まだ職業をもらってなかったのにです」
「なっ……」
いや、あれは婆さんにもらった魔法瓶もあったし、なんとかなるんじゃないかなって思ってただけで……それにドラゴンだって見たかったからね。あのときは本気で死んだとしても悔いはないと思ってたかも。
フリックさんたちは顔を合わせ何か考えていたが、最低でもドラゴンを連れているという事実が口からでそうになった言葉を飲み込ませていた。
「そして、レニ君は今まで誰かを助けるとき、虚勢や見栄で動いたりはしませんでした。だからこそ私たちは彼を疑う必要がないんです。それが――それだけで今は信じる理由になりませんか?」
なぜかリリアのなかで俺が聖人のような扱いになっている。ドラゴンの件でいえばリリアだってモンスターに立ち向かったわけだし、俺自身結構やらかしているような気もするんだが……。
何か言える雰囲気というわけでもなく、三人のやりとりをしばらく待つ。
「……わかった。今夜は一度里に戻り明日朝、またここへ来ることにしよう」
「私も仲間が心配してるから今日のところは帰るわ。みんなでどうにか精霊の呪いを解く方法を探しましょう」
なんか信じちゃってくれたんですけど。いや、信じたというかリリアに押し切られたっていったほうがいいような……。もしかして二人共リリアにビビってる?
まぁとにかくうまくいってよかった。今日のところは早めに休むとして明日に備えるとしよう。
「……パパおはよーーーー!!」
「ぐぇッ!?」
久しぶりにシャルのダイブをくらったということは……。目を覚ますとまだ日が昇り始めたばかりだったがフリックさんとジュリネさんはすでにやってきていた。みんなで椅子に座り話をしている。
昨晩は寝つくまでが大変だった……。森で音がするたび、どうにもあの光景と恐怖が蘇り目が覚めてしまっていた。
「お寝坊さんが起きましたー!」
「みんな、遅くなってすまない」
「大丈夫? もう少し休んでから出発する?」
「いや、大丈夫だ」
リリアが心配そうに見つめてくるが酷い疲労感が残ってるわけでもないし問題ないだろう。
「どうやら一番近い教会はここから魔法都市へ向かう途中にあるみたい。結構距離もあるみたいだけどどうする?」
「移動はミントとルークに分けよう。ミントはフリックさんたちを連れて先行しそのあとをルークで俺たちが追うことにする」
ミントが森へ向かい木の獣を作り出すと頭に乗りこちらへやってくる。
「それじゃ二人共乗って」
「ダークエルフと一緒だと!?」
「あら、私は構わないけどエルフは精霊よりも自分のことのほうが大事なのかしら?」
「なっ、なんだと! そんなわけあるか、さっさと乗って出発するぞ!!」
ほんと種族間の問題ってのは面倒くさいな……。走り出すミントをみて俺たちもルークに乗り込むと後を追った。