140話 『魔術戦争』
「で、使ってた材料っていうのがこれだよ」
「これは地霊様の果実……!」
「なぜお前がそれを持っている!?」
あら、ノンちゃんはこっちでも作ってたのかな? みんな食べたことあるみたいだったし結構人気なのかもしれない。味も癖がなく美味しいしな。
「知り合いに分けてもらったんだ、美味しいよねこれ」
「な、なにをいっている……?」
「いや~先日もみんなで食べてさ、シャルなんて口いっぱい頬張って大喜びだったよ」
ピザは本当に大好評だった。精霊たちにも人気だったしなによりシャルも積極的に食べてくれたからな。ほら子供って野菜とか嫌いでしょ、だから美味しくないとかいわれたらどうしようってちょっと思ってたんだよ。
すごい勢いで食べるから詰まらせないかと逆にちょっと心配してたけどリリアがちゃんと見てくれてたしな。
「子供に食わせたのか!?」
「シャ、シャルちゃん! 身体は大丈夫!?」
信じられないような顔をしてエルフの男は俺に迫り、ジュリネさんは急いでシャルのもとに駆け寄った。リリアとミントもなんだなんだと心配し騒ぎになっている。
子供に悪いものをノンちゃんが出す訳ないだろう。言ったら怒られるかもしれないが、ノンちゃんだって見た目は子供だったんだぞ。
「いくらなんでも慌てすぎだよ。体に悪いものじゃないんだから」
「お前知らないのか!? 地霊様の果実は人間にとって猛毒なんだぞ!」
「へっ?」
毒だなんて全然言ってなかったしアクアさんも地の魔力がないだけで大丈夫っていってたけど……。何も知らないのかというように男は説明し出した。
「我々エルフの間では、強力な精霊を召喚できた場合、加護をもらうために果実を与えるんだ。そのとき精霊から果実を分けてもらえれば成功、精霊が一人で食べきってしまうと失敗となっているんだが」
「成功したとしても果実を食べた者は三日三晩寝込むことになるわ。そして、人間が食べると魔欠損症になり死に至ることもある」
ジュリネさんが付け足すようにこちらへ歩いてくる。後ろからリリアたちもきたがみんな体に異常はないようだ。魔欠損症って確か魔力を全部使い切ったりする人がなるやつだよな。
この世界の生物は少なからず魔力を持っているわけだが、自分の持つ魔力を使い切った場合、それを補充しようと身体は異常をきたす。だからそうなる前に、身体はこれ以上無理だと報せ具合が悪くなったりするのだが。
「この世界の果実は少し違うのかな?」
「少なからず一緒というわけではないだろうから、何か違いがあるんだろう」
とりあえず今のところは異常があるわけでもないし気にしても仕方がない。
「それより長老さんに話がすんだんだっけ。そろそろ暗くなってきそうだし、向かうのは明日にしてもいいか?」
「それならば問題ない。人間の脚では森の中を通るのは難しいだろうと話しておいたからな」
いや、たぶん俺たち全員あんたらより速いと思うけど……。シャルも魔法さえ自由に解禁させれば移動なんてゲート一つ作ってすませそうな気がするし。
「まさかエルフの集落へいくというのか!?」
「何か問題でも?」
「こいつらは精霊に見放された大罪人だぞ!」
「ふざけるな! 元はといえば貴様らダークエルフが精霊を裏切らなければこんなことにはならなかったのだ!!」
「精霊に頼り切って己では何も解決をしようとしないエルフなどに精霊が力を貸すはずがなかろう!」
犬猿の仲というのはこういうことをいうんだろうな、一つ言葉を交わせば争いが始まりそうだ。とりあえず精霊たちに何かがあるというのは間違いないし俺たちもそれを調べにきたわけだから聞いてみるか。
二人の間に仲裁するように立ち落ち着かせる。
「俺たちは精霊について調べにきたんだ、何があったのか教えてくれ」
「いいだろう、魔術戦争があったのは知っているな?」
「あぁ、だけど詳しくは何も知らないんだ」
「そこからか……仕方ない、長くなるが話そう」
魔術戦争が起こる前、我らエルフ一族は魔法都市と繋がりを持っていた。魔術学校は魔法だけでなく、エルフや精霊との共存にも学びを広げていたからだ。
だがある日突然、魔術学校にいた人間たちは自分以外の種族を攻撃し始めた。それは魔法都市全体から世界に広がり、そして次に起こったのは侵略と侵攻だった。
我らエルフはほかの種族と力を合わせそれを防いだが、人間の拠点となっていた魔法都市はなかなか落ちなかった。
そこで我らは精霊の力を使い対抗したんだが……。
「しばらく経つと精霊は何かに怯え攻撃をしなくなった。精霊の力を使えなくなった我らは身を引くことに決めたのだ」
「そのときよ、私たちダークエルフは戦うことを選び、二つの種族が離れることになったのは。それ以降精霊を召喚しようとしても一部の精霊は怯えたままになってしまったの」
もしかして予言の本でもあったのか? だけどムントゥムさんが出した本はオーランの日記と俺たちをこの時代へ飛ばしたあの本だけだ。
「シャル、魔法都市にいったことはある?」
「ううん、しらなーい」
リリアもやはり気になったのか質問したがシャルは首を振った。
「そっか……あのときはまだ予言の本について聞いたことがなかったよね」
「あぁ、あの頃は魔術学校も平和そのものだったし、おかしい点は何もなかったようにみえたよな」
「そもそも君たちがいた時代に本があったとして、そんなに長い時間がかかると思う?」
確かにミントの言うことも一理ある。それにシャルのような存在が現れたのであれば少しは噂になるはずだし、誰一人として何か異変があるようなことはいってなかった。
となれば予言の本の存在は限りなく無かったといっていいだろう。
「話がかみあってないようだが……お前たちは魔術戦争を知らないのだろう? なぜ魔法都市を知っているようなフリをする」
「あーそれなんだが話すと長くなるしなぁ……」
もう暗くなるしなぁ。どうしようか悩んでいるとシャルが手を挙げた。
「お兄ちゃんお名前は? パパはお前じゃないよー」
「むっ、人間の名など覚える必要はあるまい」
「ちゃんとお名前で呼んであげないとダメなの。シャルはシャルだよー」
そういやこの人の名前知らなかったな、せっかくだし自己紹介しておくか。
俺がみんなを紹介しようと立ち上がるとすかさずジュリネさんが割って入った。
「あら、エルフってのは子供の注意を聞き入れる事もできないほど器が小さくなったのかしら?」
「なんだとッ!? お前こそ名乗っていないだろう!」
「お姉ちゃんはジュリネちゃんだよー」
「覚えててくれたの? シャルちゃんは偉いねー」
そういってシャルの頭を撫でるジュリネさんはドヤ顔だ。話を聞かずに襲ってこようとしたところは、あんたもこの人と変わらないんだが。
「な、名乗ればいいのだろう!? 私の名はフリックだ! 覚えておけ!!」
そういってフリックさんが名乗るとジュリネさんが煽り始めまた喧嘩が始まる。もちろんシャルの手前暴力はできないようで必死に相手の弱点を言い合っているが、シャルの教育にはあまりよくないな。
「僕、エルフってもっと賢いと思ってたんだけど……」
「ほら、喧嘩するほど仲がいいっていうし本当は」
「「誰がこいつなんかとッ!!」」
あんたら漫才でもやったらいいんじゃないの……?




