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139話 『問題②』

「いいかい、本当にこちらの誤解だったんだ。この通り謝罪するから縄を解くけど絶対に暴れないでね? 約束できる?」



 目の前で必死にエルフが頷いている。本当に大丈夫だろうな……。解いた瞬間攻撃とかやめてくれよ、ちょっと念には念をいれておこう。



「君を信じるからね? もし騙そうとしたって俺たちには通用しないし、さっきのエルフたちみたいに子供を狙ったりしたら君の身が危ないんだからね?」



 リリアの動きといい、シャルを狙われたあとのルークの怒りっぷりといい子供だけはやめてくれよ。

 シャルが反撃だーなんていった日には君の身体がどうなるかわかったもんじゃないんだから……俺の腕なんか見てないでちゃんと目をみて話を聞きなさい。

 約束通り縄を解くとエルフはジッと動かずに大人しくしていた。



「君はさっきやってきたエルフの仲間かい?」


「わ、私はダークエルフだ……信仰に頼ってばかりのエルフなどと一緒にするな」



 この声は女性か。エルフって映画でみるように美形だから、ぱっと見だと性別がわかんないんだよな。



「お姉ちゃんお名前はー? シャルはシャルだよー」


「……ジュリネ」



 お~さすがに子供相手には強く当たることはないか。ならこのまま俺たちも挨拶をしておこう。



「俺はレニ、彼女はリリアで妖精のミント、んでドラゴンのルークだ」


「……あんたたちは何をしにここへきたの……また戦争でも起こす気?」



 何と誤解されてるんだ。どうみたって俺たちは普通の子連れパーティにしか見えないだろ。



「そっちから先に仕掛けてきたってのに言いがかりはやめてほしいね。それともなんだい、返り討ちにあったからって僕たちのせいにしようとしてるわけ?」


「ミント言いすぎよ。でも先に攻撃をしてきたのはあなたたちで、私たちは一度忠告したわよね」



 今度は珍しくミントとリリアが言い返した。それほどさっきのエルフたちに怒っていたのか? ジュリネさんもさすがに言い返す言葉がないのか目をそらしている。



「まぁまぁ二人共、きっと何か勘違いしてるんだよ」


「魔術戦争を始めておきながら……なんと愚かな種族なのかしら……」


「俺たち魔術戦争について何も知らないんだ。よかったら教えてもらえないか」


「……いいわよ。二十年前、魔術学校で」


「ちょっとまって、それ長くなりそうならまずご飯にしない?」



 あ、そういえばリリアが作ったソースとシャルがせっかくこねた生地が置きっぱなしだ。早く調理しないと悪くなってしまう。



「それもそうだな、途中だったしまず飯にするか。ジュリネさんも食べる?」


「えっ、いや私は……」


「パパの料理美味しいよーお姉ちゃんもどうぞ!」


「……わ、わかった。いただくよ」



 とりあえずあとは細く切って茹でるだけだし、手伝いはリリアにお願いしてほかのみんなには椅子と机を準備してもらおう。

 そして完成する間近、先ほどのエルフが戻ってきた。



「おい、長老に話を通して――なぜここにダークエルフがいる!?」


「それはこちらのセリフだ! この辺りは私たちの森、今すぐここから出て行け!」


「何を言っている! 昔からこの辺り一帯は我らエルフの森、ダークエルフなどに渡すものか!」



 まさかこんなに早く戻ってくるとは……しかも最高にタイミングが悪い。もうすぐ日も暮れそうだし明日だろうと思ってたんだけどなぁ。

 あっという間に言い争いがヒートアップし戦いが始まろうとしている。エルフって俺があった種族で一番好戦的かもしれない。



「二人とも仲良くしないとダメだよー」


「シャルちゃん、危ないわ。こんな危険なエルフに近づいちゃダメ」


「むっ、なんだ貴様。人間の子供まで利用して何を企んでる!」



 これはまずい、シャルが巻き添えを食らう前に二人を落ち着かせないと!



「レニ君、ちょっといってくるね」


「えっ、あ、おう……」



 リリアが二人の元に歩いていく。そしてミントまでなぜかついていっている。もしかしてシャルのために二人を止めてくれるのか。



「今から僕たちご飯を食べるんだ。邪魔をするなら他所でやってくれないかな」


「ダークエルフと食事など何を考えて」


「お兄ちゃんも一緒に食べるー?」


「誰が人間が作った飯なぞ!」



 その瞬間、リリアが地面に拳を振り下ろし大きな衝撃と共に亀裂が起きる。森から鳥たちが飛び去ると辺りは静かになった。魔人の力ってすごいんだな……。



「レニ君がせっかく作ってくれた料理が冷めちゃうわ。さっ、ジュリネさんも食べるなら席に座って」



 なぜか敬語になったジュリネさんが歩いて戻ってくる。そしてもう一人のエルフにシャルとミントが近づく。



「ねーお兄ちゃんは食べるー?」


「よく考えて答えて。もし間違えると僕の魔法が早いか彼女の手が早いかの違いになるよ」


「…………せっかくだから頂くとしよう」



 おぉ、見事解決した。拳で語れというがこういうことだろうか。あとは食事を共にすればみんな仲良くなれるはずだ。さぁ俺が作ったパスタよ! 世界を繋いでくれ!



「にょろにょろ~」


「こら、遊ばないの」


「いいかい、これはこうやって食べるんだよ」



 皿に盛りつけられたパスタをフォークで巻いて口に運ぶ。うん、素晴らしいほど美味い! 地の精霊であるノンちゃんにもらった材料だし間違いないのは当たり前なんだけどね。

肉は入れてないし万が一エルフが菜食主義だったとしても問題はない。


 俺をみてみんなが食べ始める。ぶっちゃけ巻いて食べなきゃいけないなんてないんだけど、巻くとソースが絡むんだっけ……? まぁ美味しければなんでもいいんじゃないだろうか。



「んー美味しいー!」


「そりゃあよかった、見てたと思うけど調理自体は簡単だからリリアにもすぐできるよ」



 まぁ生地を準備するまでが面倒くさいんだけどね……。そのうちミントに魔法でこねる方法でも考えてもらうか。そう思ってミントをみると相変わらず無言で食べまくっている。

 隣にいるルークに関してはでかいきし麺みたいになってしまったが仕方ない。がっついてるあたり問題はないだろう。



「くるくるくる……ぱくっ」



 シャルに関しては慣れないフォークを両手で使い一生懸命だった。上手に小さく巻けたパスタを食べると脚をパタパタしてまた巻き始める。なんとも微笑ましい姿だ。



「この味どこかで……」



 そしてエルフの二人に関しては一応席は離しておいたがまったく同じ感想をいっている。



「これはいったい何を使っているんだ?」


「せっかくだし食べ終わったら教えるよ。今はゆっくり味わってくれ」



 精霊からもらったものですなんていったらまたうるさくなりそうだしな。せっかく落ち着いたんだから今はゆっくり食事を楽しもう。

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