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138話 『問題①』

 えーっと矢が落ちない場所は……あそこか。のんびり歩き出すと、矢はまるで俺を避けるように地面へと刺さり、すぐに第二波がきたがまた少し動くと俺には当たらなかった。

 これはすごい、というかある意味無敵なんじゃないか。


 俺がしていたのはなんてことはない、ただ(・・)の≪未来予知≫だ。

 アインさんが持つ職業【占い師】が使えるスキルであり、数秒先と、あとは時間をかければ遠い未来をみることもできる。ただし未来といってもいくらでも変わる可能性があるため当てにならないことが多いらしいが。


 だといっても数秒先がわかるだけでも異常な強さだ。魔人クラスの強敵だとこんな暇はないかもしれないが、あれほど強い敵だってそんなにはいないだろう。



「俺たちは敵じゃない、話を聞いてくれ」



 といっても大人しく出てきてくれるわけないよなぁ……。案の定しばらく待ってみても反応がない。このまま攻撃されるのも癪だし少し強引にいかせてもらうか。



「攻撃を続ける気ならこちらも反撃するしかないがどうする? 面倒だし森ごと焼いてもいいんだが、判断はそちらに任せるよ。最後の機会(ラストチャンス)だ」



 またしばらく待っていると森の中から弓を持った細身の男性が歩いてきた。

 こいつは……エルフか。昔、婆さんの話で聞いたことがある。大森林に住んでおり他種族との交流を拒み続け侵入者には容赦しない。別名、森の狩人だ。



「今すぐここから出て行け」



 こいつ……まさかここまで拒絶するとは。男が手を動かそうとした先は、またしてもみんなに向かって矢が放たれる未来だ。もちろん、誰も怪我をすることなく無事なんだが……。万が一ということもある、来ると分かってる危険なら事前に備える必要がある。



「もしその合図をすればただではすまないことになるぞ」



 俺が剣に手を掛けるとルークが敵意をむき出しにして威嚇するように翼を広げた。それに合わせみんなも臨戦態勢になる。

 男は分が悪いとわかったのか手を止めるとゆっくりと弓を持ち換え敵意がないことを示した。



「少しは話を聞く気になってくれたか」


「……何をしにここへきた」



 剣から手を放すとみんなが構えを解きルークもゆっくりとその場に座る。



「知り合いに精霊たちの様子がおかしいからみてきてくれって頼まれてね、この辺りで何か異変はなかったか?」


「知らんな」



 まぁあったとしてもいう訳ないよな、こういう種族ってのは己の力だけで生きてきた強さとプライドがある。



「それじゃあ質問を変えよう。精霊術師であるあんたはなぜその力を使わなかった?」


「ッ!!」



 俺をごまかすことはできない。この男が持っている職業は【精霊術師】、本当に戦う気があったのであれば目に見えて勝てない相手に力を使うのが普通だ。ここまでやっておいて使わないということは、使えないかほかに何か理由があるということ。



「別に恩をうりたいわけじゃない。すべては精霊たちに何が起きているのか、それを知りたいだけだ」


「長老へ相談する……ここで待っていろ」



 さすがにエルフの知り合いはいないし大人しく待つとするか。男が森の中へ戻ると複数あった気配もなくなった。

 さてと、日が暮れるまではもう少し時間はありそうだが――。



「それじゃあ待てと言われたのでいったんここで飯にしようと思います!」


「やったーご飯だー!」


「どうしたの急に……いや、別に夕飯が早くなろうと文句はないんだけどさ」



 なぜこんなにもテンションが高いかというと食事にある。前回作ったピザ、あのとき余った材料を頂いたのだがその中にパスタに合いそうな食材がいくつかあった。

 それ以降、俺はパスタ欲が止まらなくなっている。パスタソースもピザソースも似たようなもんだしなんとかなるだろう。



「今日はちょっと新しい料理をしてみようと思っててな」


「な、なんだって!?」


「そのかわり色々と手伝ってほしいんだが」


「よし何からすればいい? ほら君たちもボーっとしてないで動いて!」


「もうミントってば……シャル、荷物を降ろすから手伝って」


「はーい!」



 あのエルフだって長老に話してどうするか決めるまでの時間を考えれば、すぐにやって来るなんてことはないだろう。むしろここで一泊するくらいの気持ちでいたほうがいい。



「うんしょ、よいしょ……できた……パパ、みて―!」


「どれどれ」



 シャルと一緒に生地をこねているとシャルが微妙に歪んだ丸い生地をおいた。これはなんだろう……。団子かもしれないがこの世界に団子があるのかわからないし、それにこの絶妙な歪み具合は何か意図がある気がする。

 こういうときこそ真剣に考え、子供の目線に立つというのが子育てでは重要だと、テレビか何かでいっていたな。



「ねぇまたお客さんだよ」



 真剣に考えているとミントが耳元で喋る。あのエルフ、もうきたのか? だが俺はそんなことに構っている余裕などない。もしこれで答えを間違えようものならシャルが悲しんでしまう……。いや、下手をすれば『パパなんて大っ嫌い!』と反抗期のような対応をされてしまう可能性だってあるんだ。



「こっちは今忙しいんだ、適当に相手してやっててくれ」


「了解~、君の手は煩わせないよ」



 なぜか遠くでミントとリリアが声を上げているがそれどころじゃない。くそ……まったくわからないぞこれは……! ただの丸ならまだしもこの微妙な歪み加減はいったい何を表現しているんだ……。

 シャルが悲し気な顔をした(ようにみえた)とき、ルークの大きな咆哮が聞こえ突風が吹いてくる。生地が転がると俺が片手で必死にこねた生地の塊へぶつかった。

 そのとき、俺の第六感は反応し走馬灯のように昔の記憶を蘇らせた。



「わかったぞ……! これは、攻撃を受けたスライムだな!」



 そういってシャルを見ると嬉しそうに口が開いていく。



「すごーい、パパ大正解ー!」


「はっはっは、シャルは作るのが上手いなぁ」



 よし、無事に難関を乗り越えることもできたしそろそろリリアに頼んでいたソースもできた頃だろう。あとはこの生地を細く切って茹でれば完成だ!



「リリアーそっちのほうは」


「あ、レニ君。こっちももうすぐ終わるよ」



 そういって笑顔で応えるリリアの先ではなぜかルークとミントが暴れていた。何かが終わったのか二人が戻ってくるとルークの口からは、縛られ口を塞がれたエルフらしき人物が垂れ下がっていた。



「僕としたことがほとんど逃げられちゃったよ」


「グルルルルルルルル」


「二人とも、怪我をさせたりしてないわね?」



 リリアの言葉に対しミントとルークは当然だよと自信満々に頷いて見せる。

 いやその前になんで捕らえてるの? さっきのエルフと見た目が違うし初対面の相手を縛っちゃダメでしょ……。



「ンーッ!!」



 ほら、こんなに怒ってるし……。今すぐ縄を解いてあげたいが暴れられても困るしまずは誤解を解かないと。



「パパ―早く食べよー!」



 なんでそんな目で俺を睨むの、エルフなんて食べないよ!!

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