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135話 『師への挑戦』

 よし、炉は大丈夫そうだな。ピザを焼くために作った窯の前で準備を始める。

 サラさんもいるし火には困らないだろう、あとは鉱石があるかどうか……。



『素材はこれを使うといい』


『そ、それは素霊石ではありませんか!?』



 机に置かれた石は不純物が一切ないように透き通っており、反対側の景色もみえるほどだった。集まったアクアさん達も驚いているし普通ではないということだろう。



「だいたい予想はついたけど……これってどのくらいすごい石なの」


『素霊石は器であり、精霊王様だけが作れると聞いているわ』



 もっと使い捨てていいような石はなかったのだろうか。鉄鉱石みたいなものとかさ、なんでわざわざそんな貴重なものを持ってくるんだ。



「もっと簡単な石でいいんですけど」


『このような機会、普通は出会えぬからな。足りぬのであればもっと用意するぞ』



 絶対にほいほい出していいような石じゃないだろ……。まぁ俺たちが使う武器を作るってわけじゃないし、この世界に恥ずかしくないものを作るにはちょうどいいか。



「問題は地の魔力を持った素材か。鉱石なんて持ち歩いていないしなぁ」


「ちょっと鞄の中を探してみよっか」



 食料、回復薬に野営セット……さすがに食器を武器に変えるなんて微妙すぎるし……。



「これは何かな?」


「あぁそれは」



 懐かしいな、トス爺にもらったあの木の板だ。使う機会なんてそんなにないから忘れていた。



『地の魔力をかなり有しているようだが、それではダメなのか?』


「うーん……大事な物といえば大事だしな……」



 でも地の魔力が高くて使えそうなのってそれくらいしかないしなぁ。いっか、使ってしまおう!

 怒られはするだろうけど精霊王が握る武器になったといえば納得してもらえるだろう。存在を信じてもらえるかは別だが。


 リリアがしまおうとしてるのを止めると持ってきてもらう。



「本当に使っちゃっていいの?」


「あぁ、今から作るのはこの世界に関わるものだし妥協はしたくないからな」



 それに師匠なら喜んで使えと言うだろう。むしろ悩みすらしないかもしれない。



「何か希望の形はある?」


『武器など知らぬからな。お主の好きなように作ってくれればそれでいい』



 俺が持っている剣と同じなんてことをすれば明らかに腕の未熟さがでてしまう。それに素材もそれほどないから大きなものは作れそうにない。

 うーん、何かいい武器は――フレイルのように先端に魔力の塊を付けるか? でも万が一破損したら大変だろう。拳で戦えっていうのは危険すぎるし、弓矢じゃ矢を何本も作るなんて無理だ。


 短剣じゃ地味すぎるし爪のようなタイプは使い勝手が難しそうだからな。槍ならよさそうだが、精霊王やシルフさんが持ってる姿を想像するといまいちピントこない……。



「ねぇ、そんなに考えすぎもよくないと思うんだけど」


「みんなが使う武器だし妥協はしたくないんだ」



 そして悩み続けるとあっという間に一日が経ってしまった。精霊たちにとって時間などあってないような概念らしいから平気だったし、みんなは急ぐ用があるわけでもないからゆっくり考えなよと応援してくれた。

 ローラさんやリビアは何度もこうやって悩み、鍛冶師という道を歩き続けてきたのか……。たったこれだけでと笑われるかもしれないが、俺も少しだけ鍛冶師としての二人に近づけたような気がする。



「どう、何か決まりそう?」


「うーんいまいちピンとくるものがなくてな……リリアが使うならどんな武器が扱いやすいと思う?」


「そうだなぁ、やっぱり大きいのは大変だしレニ君のその剣が一番使いやすいかな」



 そういえばこの剣もヴァイスさんとレイラさんが二人で使えるようにって考えた末にできたものだったな。女性であるレイラさんでも十分取り回しが利くように作られているわけだ。

 何かヒントでもないものかと剣を眺める。


 普通の剣よりもほんの若干だけだが刀身の幅が狭い、だが剣として使える絶妙なバランスが匠の技を感じさせている。ヴァイスさんは魔力と技で攻めるのに対してレイラさんは動きの機敏さが主体だったな。前世でも動きの速い競技があったが、あそこまで機敏なのといえばあれ(・・)くらいで――



「あ……あった。一つだけ剣の形をしていて精霊たちにも似合うであろう剣が」



 俺はすぐさま地面へ頭に浮かんでいる剣を描きリリアに見せた。



「これ……本当に剣として大丈夫なの?」


「あぁ、アビスは屈強な身体を持っているわけでもないし、思ってるほど耐久がないわけじゃない」



 それにこの武器は相手の攻撃を正面から受けるのではなく受け流すことが重要だ。精霊たちの力を考えればそれくらいはできるだろう。


 こうして俺はみんなを集めると製作にとりかかった。デザインに関しては俺よりも使う精霊達の考えを参考に、あとは製作中は遠慮なく精霊王から補助をしてもらった。



 火の調整から水の温度、素霊石と木の素材を混ぜる際のバランスをひたすら相談しあい、丸一日が経つ頃にそれは完成した。

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