134話 『妙案』
『魔力を持たぬ人間とはな』
「普通は少なからずみんな持っているらしいんだけどね」
俺たちは精霊王と話をするため社の中にいた。精霊たちはさすがに入るわけにはいかないということだったので、ルークと共に外でアビスの気配がないか警戒している。
そして珍しくミントが質問を始めた。
「ちょっと聞きたいんだけど【精霊使い】が呼んでいる精霊っていうのはこっちから来てるの?」
『そうだ、地の世界の契約者には力をかすことになっている』
「その契約って誰がなんのために?」
『わからぬ、神という存在が職業を与える際に作ったのかもしれんな』
なるほど……契約して力をかす変わりに地の世界にいくことが可能になるとかかな。利点が今一つわからないが、こっちの世界からすれば俺たちの世界は面白いのかもしれない。
「ちなみに、俺みたいに加護をもらった人は?」
『精霊使いであれば何人かはいるぞ。地の魔力が邪魔をして我らの力は使えぬが、加護をもらった精霊をいつでも召喚できるようにはなる』
ということは俺も精霊使いの職業をものまねできれば、あの四人のうち誰かを呼ぶことができるということか。これはいい情報を知ることができたぞ。
ある程度質問も終わったところで精霊王が本題を口にした。
『お前たちはあのアビスという存在をどこまで知っている?』
「俺たちもあれがどこから生まれ、やってきているのかまではわからないんだ」
『ふむ、倒す方法は?』
「本来なら人間や生き物の影にとり憑くみたいだから、魔法や魔力を持った武器で影を攻撃すればいい。だけど精霊たちは身体が水や火だからか直接とり憑かれてしまうみたいだ」
だからこそ精霊たちの持つ身体と同じものがあれば取り除くことも可能だったわけだが。そのおかげで一つわかったことは、アビスは物体だけでなく精霊など意識を持った存在にもとり憑くという点だ。
『我らではヤツを倒すことができぬというわけか』
そこなんだよなぁ……。どうやら精霊の使う魔法は純粋な火や水のためか、アビスに効果はないようだった。
「パパの剣、もう一個ないのー?」
「これはさすがにないかなぁ」
そもそもこんなヤバい剣が二つもあったら戦争が起きると思う。国が二本所有すれば天下をとれるとか言われてそうだ。
『お主の剣、もう一度見せてはもらえぬか』
「いいですよ」
そういえばアクアさんを助けたとき成長したんだったな。
まるで聖剣といっていいような見た目だ。これなら装飾だけ立派な普通の剣ですと言ってもごまかせる気がする。
「綺麗……でも、前よりなんか変な感じがする」
『これは……失礼する』
精霊王は剣を持ち刀身へ手を当てる。そしてなぞるように自分の手を切るとスッパリと線が入り元に戻らなかった。
「ちょっと何をして!?」
『やはりな』
そういうと剣を置き切れたままの手をみせてきた。
『この剣は精霊の力と魔力の二つを持っているようだ。こうして物質として存在はしているが、我ら精霊にも干渉することができる』
もしかして、あのとき倒せなかったアビスを倒せるようになろうと成長したのか? 剣が変わった直後にアクアさんからアビスを切り離したから気にはしなかったけど。
「あれ、でもそれってつまり……」
『そうだ、この剣はこの世で唯一、我ら精霊を殺すことができる』
ローラさん――あなたの剣は聖剣でも魔剣でもなく、よくわからないヤバい剣に成長しました。どうしよう……封印でも施したほうがいいんじゃないのこれ。
「ってことはさ、もしこいつがその気になればこの世界と戦えるってこと?」
「おいミント、恐いことをいうな」
『そのときは我も全力で抵抗せざるをえないな』
「微塵もそんなこと考えてないって……」
精霊王とミントが怪しく笑っているが本当にシャレになんないから。絶対に変な気は起こさないようにしよ……。
『しかしそのような剣を作れる者が地の世界にいるとはな』
「こっちに鍛冶ができる人はいないのか?」
『我らにそのような物は必要なかったからな、技術も存在せぬ』
言われてみれば、確かにみんなが使っていた各属性の攻撃はかなり強力だったからな。武器という曖昧な物に頼る必要もなかったんだろう。
「レニ君の武器を作ってくれた人に会えたらなぁ」
「行ったところでここに戻ってこれるか保証はないんだ、さすがに無理ってもんだよ」
さすがにこの広い空の中で同じ場所などわかるわけがないし入り口が同じようにあるという保証もない。
だけど、このままじゃまた精霊がアビスにとり憑かれて
「ねーパパはつくれないのー?」
「パパもさすがにそればっかりはなー……あっ」
あれ、俺なら作れるんじゃ……そうだ、ないなら作ればいいんだ。
ローラさんは言っていた。錬金術の力――それは、この世にないものを生み出せること。
――真似できるならしてくれて結構よ――
師匠…………弟子として、今こそ力をお借りします!!
〖スキル:ものまね(ローラ:錬金術師)〗