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123話 『お節介』

 ――――彼の傷つく姿を見続けることになるだろう――――


 ぇ……


 ねぇ……



「ねぇってば!」


「あっごめん、なんだっけ?」



 いけない、またやってしまった。あれから数日……考えてみたものの何も進展はなかった。ずっと頭にもやがかかったように何も手がつかずみんなに心配かけさせてしまっている。早く決めなければいけないのに……。



「もうこれで何度目だよ」


「……ねぇ、ミントはもし自分のせいで誰かが傷ついちゃったりしたらどうする?」


「今度は急に何……もしかして君、自分のせいであいつがあぁなっちゃったと思ってるの?」



 いくら事情があったとしても私という存在が彼を巻き込んだことに変わりはない。何度も仕方のなかったことなのだと……いくら自分に言い聞かせても静かに眠っている彼を見るたび罪悪感が芽生えてくる。


 ミントはため息をつくとそんな私に対してついてくるようにいった。有無を言わせないその一言は迫力があり、大人しくついていく――



「あーママだー!」


「クゥー」



 部屋に入るとシャルがルークと一緒にアリスの座学を受けていた。教えることは学ぶことに等しいとレイラさんからの提案だ。



「邪魔して悪いね、ちょっと僕が変わっていいかい」


「え、えぇ大丈夫ですけど」


「それじゃ二人とも、今から実技をするから鍛錬場に移動してね」


「やったあああああ! アリスちゃん早くいこーーーー!!」


「ちょっとシャル――ごめんなさい、先にいってますね」



 よほど座学がつまらなかったのか元気よくとびだしていったシャルはまるで台風だ。それをみたルークは大きくあくびをするとゆっくり立ち上がり歩き出す。こっちは少し成長したのかな……?



「さてと、今からここにいる特別講師と対決してもらうよ」


「特別講師って……まさかリリアさんとですか」


「ママとー?」



 そのために私を連れてきたのか。急に言われても困るんだけど……対決って何するんだろ。



「時間内に彼女(リリア)を捕まえれば勝ち、もちろん魔法は使っていいけど攻撃は禁止ね。ちなみに――もし捕まえることができたら午後は休み、三人で買い物にでも行っていいよ。社会科見学ってやつだ」


「本当ッ?! よーし頑張るぞー!!」



 な、なんてことを……! シャルはお金のやりとりを覚えたばかりだ。片っ端からお店を見て回ってはやりたい放題で止めるのも一苦労してしまう。アリスがいるとかなりマシにはなるが……。今の私には早く決めなければいけないことがある。



「ミント私は」


「それじゃあいくよー。用意……スタート!」


「お買い物だーーーーー!!」


「リリアさん、よろしくお願いします!」



 まずい、シャルはまだしも勉強熱心なアリスもやる気に満ち溢れている。本来なら負けてあげるところだがこんなことしている場合じゃない。少し本気でやらせてもらおう。



「くッ……速い!」


「もーママずるーい! 逃げるなー!」



 私は魔人(シトリー)の魔力が混ざったおかげで身体能力が飛躍的に上がっていた。動きに関してもシトリーのおかげである程度さまになっている。簡単には捕まらないしあとは時間まで逃げ切ればいい。というかよく見たらミントは手ぶらだ、どうやって時間を計ってるんだろ。



「ほら、二人ともちゃんと協力しないと一生捕まえられないよ」


「むー!」


「シャル、このままじゃ無理よ。いったん作戦を立てましょう」



 何やら二人でごにょごにょやっているが今回ばかりは負けてあげるわけにもいかない。終わったのか、二手に分かれ挟み込む形でこちらに走ってきた。



「いくよシャル!」


「はーい!」



 地面に魔法陣が現れると広範囲に檻のようなものがせり上がってきた。閉じ込められたらまずい――すぐにその場から跳び移動する。その先ではアリスが走ってきたが着地するほうが早かった。



「くそ、もう少しだったのに!!」



 アリスから距離をとりすぐにシャルの姿を探すがどこにも見当たらない。そして突如真後ろに魔法陣が現れる。



「ママ捕まえたーーーー!!」



 魔法陣から跳び出してきたシャルは私に抱き着くと、よほど嬉しかったのかそのまましがみつき足をバタバタさせている。やられた……まさか背後とは……。足元までは注意深く気を張っていたがその分背後はないだろうと心のどこかで油断していた。



「はいそこまでー。まぁ色々と課題は残るけど、約束通り午後は休みにするから三人で外にいってきなよ」


「わーーーーい!!」


「リリアさん、ありがとうございました。まだまだ私は未熟だな……もっと頑張らなきゃ」



 アリスの礼儀正しさを少しはシャルも見習ってほしい……。仕方ない、ミントの無茶ぶりだったとはいえ約束は約束、気分転換と思って外にでよう。


 その日はアリスのおかげでシャルの子守りはかなり楽になった。こうしてみるとよくできたお姉ちゃんだ。相変わらずシャルの暴走は止まらなかったが……母親代わりの私がもっとしっかりしなきゃいけないな。



「ただいまーーー!」


「あら、おかえりなさい。みんなは――ふふ、お疲れのようね」


「はぁはぁはぁ……お姉さま、ただいま戻りました」


「ほらシャル、帰ったらアリスにちゃんとお礼を言う約束でしょ」


「アリスちゃんまたいこーねー!!」


「うふふ、またいこうね」



 そこはありがとうでしょうが……。レイラさんが私の気持ちを察してくれたのか苦笑いしている。



「さ、二人とも、手を洗って晩御飯のお手伝いをしましょう」


「はーい!」


「あ、シャルってば、先に手を洗うのよ!」



 駆け出したシャルをアリスが追いかけていく……本当に申し訳ない。あとでちゃんとお礼を言っておこう。



「そういえばミントが呼んでいたわよ。部屋で待ってるって」


「わかりました、ありがとうございます」



 なんだろう……もしかしてレニ君の目が覚めたとか?!


 そんな小さな希望を抱き部屋を開けたが、彼に変わった様子はなかった。

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