表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/200

122話 『課せられた宿命』

 いったい話ってなんだろう。もし予言の本がまだあるって言われたら……私たちだけで……いや、無理だ。今まで全部レニ君がいたからこそやってこれたのであって、三人だけじゃ……。



「大変なときにすまない。適当に座ってくれ、今お茶を淹れる」


「あ、いえ、ありがとうございます……」



 正直何を言われるのかまったくわからないが予言の本でないことを祈ろう。



「……お婆さんは元気にしてたかい?」


「えっ、お婆ちゃんのこと知って」



 そうだ、さっきから鼻腔をくすぐるこの匂い……。確認するようにお茶を飲んでみるが、やはり若干の違いはあるもののそれは間違いなく、お婆ちゃんが淹れてくれていたお茶……。



「あ、あなたはいったい……」


「大きくなったね、リリア」


「ッ!!!」



 まさかッ………………いや、根拠は何もない。私の両親は鞄だけ置いて旅立った。それを知っているのはお婆ちゃんと村のみんなと――――



「まさか…………お父……さん……?」



 アインさんはしっかりと目を合わせゆっくりと頷いた。その瞬間、様々な感情が波のように押し寄せてくる。探し求めた父を見つけたという嬉しさの半面、顔も声も知らないはずの父を父とみられるのか、みていいのかという疑念、そして……。




 会えば、きっと泣いて抱き着くのだろうと思っていた。村や町の子どもたちがしていたように……。いつもお婆ちゃんにしていたように……。だけど今は、どうしてだろう…………彼の、レニ君の顔が浮かぶ…………。




 時間だけが過ぎ去り何か言わなければと言葉を探し始めた私を目の前の父は制止した。



「遅くなってすまなかった……そして、彼を助けてやれずすまない」


「ッ! あ、頭をあげてください! ア……お、お父さん…………」



 しまった……アインさんと認識してしまった頭がすぐにお父さんという言葉を選んでくれない……。会えて嬉しいはずなのに、どうして……。


 しばらく頭を下げ、戻した父の顔はどことなく悲し気だったが、その顔はやはりどこか私と似ている。



「無理に私を父と呼ばなくてもいい。今更だろうからな……ただ、これから話す真実だけは聞いてほしい。なぜ私たちがお前をおいて旅に出たのか」



 ずっと思っていた……私は捨てられたのだと。お婆ちゃんはそうじゃないと言ってくれたけど、私もその言葉を信じたけど、やっぱり心のどこかではそう思っている私がいた。だからそれほど聞きたいと言う気持ちにはならなかった。まるで言い訳を聞かされるような気がして――だけど、これは私の問題……知らなくてはいけない。


 お父さんはまるで自分を落ち着かせるようにゆっくりとお茶を飲むと私の目をみた。



「私の職業は【占い師】、対象の未来を視ることができる。そしてお前が生まれる少し前に見た私たちの未来には……お前が存在していなかった」




 いるはずの子どもがいない。それは何を意味するか……。どこまで先を見てもお前はいなかった。どこかで生きているのかもしれないが、私たちからすればそんなことは到底受け入れることなどできない。


 だから私たちは抗うことを選んだ。運命というのであればそれを変えるための僅かな希望を探し歩き続けた。そして唯一の可能性を見つけたのがあの場所――。



 あの家で視た私たちの未来は何も(・・)映らなかったが……。お婆さんだけにはお前を抱いている姿が視えた。


 何かが起こるきっかけというのが私たちであるのならばと、私たちは去ることを選んだ。そしていつかお前が私たちのことを知らぬまま旅にでれば、きっとどこかで私の占いに映るだろうという可能性にかけた。




「未来が視えるといったがそれは現時点での話だ。運命というのは自分のほんの些細なことが大きな変動を起こすこともある。私はずっとそれを恐れていた。だがある日、ずっと映ることのなかった私の未来にそれは映った。私たちが置いていった鞄を持ち歩くお前の姿と――そしてお前を救い、お前の未来を切り開いたであろう人物」


「ッ!!」



 もしかしてそれって…………。あまりにも唐突に言われたその言葉にうまく返すことができず口だけが開く。



「そう、(レニ君)の存在だよ。不思議なことに彼自身の未来は何も視えない。だがお前の映る未来には必ず彼がいたんだ」



 思い返すと村に初めていったときから始まっていた……。レニ君はいざというとき当たり前のように何度も私を助けてくれた。だけど、もしどれか一つでも違っていたなら……私は死んでいたかもしれない。



「運命というのはわからないものだな……。母さんが言った通りだったよ」


「そうだ、お母さんは?! お母さんならレニ君を助けられるんじゃッ!!」



 同じ魔法使いなら助けられる方法を知っているかもしれない。そんな希望にすがろうとした私に対し父は首を横に振った。



「母さんは今、時乃回廊にいる。シャルがいた場所と似たようなところだ。行くことは不可能」


「そ、そんな……」



 レニ君がいなければ私は死んでいた。だけど、私がいなければレニ君はこうならなくて済んでいた……。一緒に……一緒に旅をしていなければこんなことには…………。彼が傷つきあんなことになったのは、全部私の――――



「一つだけ、彼を助ける方法がある」


「ほ、本当ですか?!」


「だが助ければお前は彼の傷つく姿を見続けることになるだろう。その覚悟はあるか?」



 ……また……私のせいで…………



「私は母さんを助けるためにしばらくしたら旅を続ける。一緒に来るという選択もあるが…………それまで考えてみなさい」



 選ぶのは誰でもない、リリアお前自身だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ