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115話 『タノミゴト②』

 防戦一方……シャル一人に俺たちは完全に封じられていた。すでに魔剣は消え、素手でいるのをみればむしろ遊ばれているといってもいい。完全に俺の剣の間合いは見切られ、リリアは魔法を使う前に攻撃され、それを庇うためアインさんは防御の補助で手一杯になっている。



「しまった……!」



 二人を心配したほんの小さな隙だった――シャルの異様な方向からの攻撃に俺は剣を弾き飛ばされた。



「さっきの一撃は素晴らしかったがお前、剣は立派でもまるで素人だな。つまらん」



 くっ……あぁそうだよ! いくら同じになれたとしてもそこに至るまでの歴史(経験)が違う。どれほど同じ動きをしようが相手によって最適解を選べるかは別だ。前世を生き抜いた頭があるといってもたかが知れている。


 それでも必死にやってきたんだ……俺は、俺なりの最適解を探すしかないんだ!



「だったら、これならどうだ!!」


【ものまね士:状態(魔人)】



 見た目はシャルだからどうなるか不安だった……まさか魔人が取り憑いていたとはな。異常なほどの力が溢れてくる。



「ん~? こいつ急に雰囲気が」


「行くぞオラァ!!」



 案の定、素手通しのぶつかり合いだと手ごたえを感じた。これならばいずれ勝てる。俺が勝てなくともこっちは三人だ、体力を削り切ったら俺もスキルで変更し倒せばいい。


 勝ちパターンに手ごたえを感じた俺は攻めまくった、それが戦況を変えた。



「どうしたさっきまでの余裕は!」


「………………」


「――待てッ?! レニ君、出過ぎだ戻れ!」



 自分自身の攻撃を受けたことがないのか魔人は防御ばかりで動けていない、このまま攻め切れば俺の勝ちだ。そして蹴り飛ばすと奴は膝をつく。チャンス――右手に全身全霊の力を込め殴りかかった。



「状況が見えてねぇな」



 魔人がにやりと笑ったその瞬間、俺の右手は斬り飛ばされ魔人は逆手で持っていた俺の剣をそのままどこかへ投げ飛ばした。


 斬られた衝撃で倒れた俺は徐々にくるであろう出血と痛みに備えた……しかし【ものまね士】が発動してるからなのか出血は起きず大きな痛みもない。そして、半ばパニック状態になった俺の眼に腹を剣で貫かれたリリアの姿が映った――。




「リリアーーーーーーーー!!!!」


「これで邪魔はなくなったな、再戦といくかぁ!」



 くそ、早くこいつを倒して治療しないと!! 焦る俺の気持ちと相まって片腕を失った単調な攻撃は簡単にいなされてしまう。反撃されるもダメージは無視して攻め続けたがすぐに魔人は身を引いた。



「なんだお前、不死身か? 気味わりぃな……あっちの奴らから殺すか」


「ま、待てッ!!」



 アインさんは戦闘職ではない。俺が二人を助けなければ……リリアは……死ぬ! アインさんは前に立ちはだかるが手も足もでずに倒されてしまう。



「ぐッ……お前は何者……」


「冥途の土産に教えてやるよ。俺の名はマグニアルス、魔人さ」


「魔人だと……ッ?!」


「じゃあな」


「させるかぁぁあああああ!!」


「またお前か、鬱陶しい」


〖魔式:封牢〗



 な、なんだこの魔法?! 身体は動いてるはずなのに動けない。いったいどうなってる?!



「さてと――あいつが起きると面倒になりそうだ、さっさと始末するか」



 リリアに近づくな! なぜか出しているはずの声が響いていない。いや、出ていない……俺の周りだけが止まっている? いやそんなことより誰でもいい、こいつを止めろ!! シャル、目を覚ませ!! アインさん立ってくれ!! 頼む…………誰か力をッ!!


〖スキル:ものまね(ローラ)〗


〖スキル:ものまね(ミント)〗


〖スキル:ものまね(魔人)〗


〖スキル:ものまね(ベヒーモス)〗


〖スキル:ものまね(英霊ヴァイス)〗


〖スキル:ものまね(ドラゴン)〗



 色々な力を選択しても身体が動くことはなかった。そして……魔人がリリアに刺さった剣を握り引き抜くと、そこから大量の血液が流れ始めリリアの服を染めていった……。



「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!」


〖スキル:ものまね(ド…ゴン:怒**燃******)〗




 ――――――――――――――――――




『ねぇお兄ちゃん、また人間たちが噂してたよ。地獄からやってきた竜が世界を滅ぼすだって』


『弱き者たちの戯言など聞くな。それよりもお前は小さく力もないのだ。あまり下界にいくではない』


『私が小さいんじゃなくてお兄ちゃんがでかすぎなの。幻獣たちだって、お兄ちゃんがくるとビビって震えてるんだからあまり恐がらせないでよ』


『ふん、我の知ったことではない』


『そんなんだから友達できないんだよ……そういえばお兄ちゃんもそろそろ鱗が変わる時期か~』


『むっ? そんなもの昔からあることだろう』


『今の真っ黒なお兄ちゃんもカッコいいと思うんだけどなぁ。みんななんでわかんないかなぁ』


『見た目など変わったところで中身は何も変わらん』


『人間界では名は体を表すっていう言葉があるんだよ。えっと確か…………中身は身体にあらわれるんだっけ?』


『また余計なことを覚えおって、そんなもの覚えても無意味だ』


『せっかく長生きしてるんだからもっと周りに興味を示さないとダメだぞ~』


『小うるさい奴め……我は先に寝るぞ』


『は~いおやすみ~』



* * *



『幻獣か……何をしにきた』


『た、大変です! 帝国の奴らが竜の血肉には不死の力があるって……******様の妹様が捕らえられました!』


『なんだと……?』



* * *



『こ、黒竜が来た……! 総員構えーーーー!!』


『…………なんと……憐れな姿になったものだ……』



 ――みんな勘違いしてるんだよ。お兄ちゃんは立派な竜なんだから、もっとみんなに知ってもらわなくちゃ!――



『弱き者たちよ、幻獣たちよ、我は今どうみえている』


『来るぞ! 全員恐れるな、俺たちならやれる! あの竜を倒せたんだ!!』


『惨めに見えるか、弱き者に見えるか………………ならば教えてやる』


『突撃部隊、いけーーーーー!!!!』



 ――――我が名はニーズヘッグ、世界のすべてを狩る者なり――――



〖スキル:ものまね(ニーズヘッグ)〗

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