107話 『捜索①』
「レイラさん、予言の本を探すの、私たちも手伝います!」
「どうしたのよ急に。あなたたちは先駆者を探しに行くんじゃなかったの?」
俺たちは相談した結果、予言の本を見つけ壊してから先駆者を探すことにした。もちろん全員危険を承知の上でだ。レイラさんたちがもし犠牲になり万が一の事が起きれば目覚めが悪くなる。きっかけはその一言だった――要は完全に俺たち側の気持ちの問題で決定した。
「レイラさんたちには世話になってるし、俺たちも何か力に慣れると思いまして」
「気持ちだけで十分よ。これは私たちの問題、あなたたちを巻き込みでもしたらヴァイスに笑われちゃうわ」
「そうです。それにお二人は先駆者を探しているんですよね? 早く探さないと……どこかに行ってしまっては大変ですよ」
それもそうなんだけどさ。うーん……なんとか説得したいが。
「それに明日には父上も戻るはず。あなたに聞いた予言の本について相談してみるわ」
「それなら尚更俺たちがいたほうが話も早いんじゃないでしょうか」
「国に絡むと面倒になるわよ。気持ちは嬉しいけどこれ以上首を突っ込むのはやめなさい」
もうすでに、あちこちの国に突っ込んでるんだよなぁ。だけどそう言ったとしても、自分たちでなんとかしようと腹をくくってるだろうし……俺たちに気を遣ってくれているのもあるんだろうけど。
「わかりました。それじゃ明日の朝には出ていきますので最後にもう一泊だけさせてもらっていいですか?」
「えぇもちろん、街にもいくつか宿があるから明日以降はそっちを取っておくといいわよ」
そしてその夜、俺たちは部屋に集まり作戦会議をした。レイラさんもアリスも首を縦に振ることはないだろう。ならばどうするか……。
「レイラさんたちは完全に俺たちを巻き込まないようにしたいみたいだな」
「だけどあの本の力はかなり危険だよ……何かあったら……」
「あぁ、意地でも首を突っ込んでやろうじゃないかって思ってる」
「君、反抗期でもきたのかい?」
そうかもしれない。反抗期は一度くるとしっかり収まるまで顔を覗かせるからな。
だが一つだけ懸念していることもある――魔界というなら伝説の一つでもあるだろうにその話をまだ聞いてない。自分から聞くのも悪くないんだが、俺としては風の噂で聞くほうが信憑性が高い気がしている。そしてここ最近、予言の本のせいなのかわからないが、伝説の話に全く遭遇していないのだ。
――このなんとも言えない不満を予言の本に八つ当たりしてやろうと思う。
「まぁそういうわけでね――本当にみんなは俺に任せていいのか」
「レニ君……!」
「また始まった、いちいち確認しなくていいって。僕らだって何かあれば口出しするんだから」
「ククゥ~」
「悪い悪い、それじゃあいっちょ好き勝手させてもらうか!」
覚悟してろよ、予言の本……リリアと、そして伝説との遭遇の機会を減らした罪は重いぞ。
* * * * * * * * * * * *
「お姉さま……本当によかったのですか?」
「えぇ、これ以上迷惑はかけられないわ。彼らには彼らの冒険があるのよ」
「確かにそうですね、皆さんに会えただけでもよかったです!」
アリスは嬉しそうにしているが予言の本はアリスにも影響を及ぼす可能性がある。いざとなればせめてこの子だけは逃がさなければ……アリスだけでも逃がしてほしいとお願いしたかったが、そんな都合のいいことだけ言えるはずがない。
「さぁそろそろ父上が戻る頃よ、出迎えにいきましょう」
「はい!」
あなただけでも逃げなさいといってもこの子は聞かないだろう。私が守らなければ……ヴァイスの分まで。
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――――
――
「お父様おかえりなさい!」
「おーーーアリスよ! 元気にしておったか!」
父上はいつも通り変わりなさそうね。アリスを可愛がりすぎる節があったがそれは愛情の裏返し――ヴァイスの件以来、アリスが自立しようと頑張っているのを応援してくれていた。
「父上、お疲れ様でした」
「うむ、留守の番ご苦労であった。何か変わったことはなかったか?」
「一つ気になる話があります。先日きた先駆者が言い残していった本についてです」
「何……? 話を聞こう。リッドよ、すまぬがあとのことは頼んだ」
「お任せください」
昔は本当に父上が王など勤まるのかと思うところはあったが……。疲れをみせることなく、父上は私の話を聞くため移動した。
「なるほど……その少年らに頼らなかったのはいい判断だ」
「えぇ、彼らには返しきれぬ恩がありますので」
「しかし予言の本か。本当にそんなものがあるとはな」
「対策も先ほどお伝えしましたがかなり曖昧――そして気づけば周りに影響を及ぼすという無差別性、下手をすれば国家を揺るがす可能性もありますね」
「大至急捜索せねばならんな」
そう、まずは本を見つけないことには何も進まない。だけどどうやって探せばいいのか……。私たちが悩むなかアリスが何か思いついたように手を挙げた。
「あの、よろしいでしょうか」
「むっ? どうした、何かあれば言ってみなさい」
「預言の本というのは書かれた内容通りに力が働くとお聞きしました」
「そうだな、中身がわからないことには対策もできん。まったく、モンスターであればどれほど楽だったか」
「であれば、街で最近変わったことがないか話を集めてみてはいかがでしょうか? もし周りに影響がでているのであれば、一つの噂と行動、意見が集中するところがあるはずです」
「面白い考えね……地図に書き記していけば何かわかるかもしれないわ。父上、事が起きてしまえば当事者は判断がつかなくなると聞いております。今は少しでも動いてみるべきかと」
「…………そうだな。よかろう、兵を使うことを許可する。情報整理はお主たちに頼むがやれそうか?」
「はい。アリスはリッドにこのことを伝えて、私は準備を進めるわ」
「わかりました!」
私の後ろにくっついて父上にも母上にもあまり口を開かなかったアリスが意見をいうとは……母上が聞いたら跳ねて喜びそうだ。安心して帰ってこれるように私たちでこの国を守らないとね。




