103話 『線引き』
「皆様、まことに申し訳ありませんでしたあああぁぁ!!」
「クゥ~~~」
俺はみんなの前で頭をさげ土下座をしていた。もちろん強要されたわけではない、ただ単純に俺が勝手にやっているだけだ。ルークが何か勘違いして隣で同じように伏せをしているが……そんな俺に追撃をするようにミントが口を開く。
「ねぇどうすんの? もうこんな時間だよ、僕たち泊まる場所もまだ決めてないんだよ?」
「はい……本当に面目次第もございません」
「ミントってば! レニ君、私たちなら大丈夫だよ。野宿なんていつも通りだし!」
「僕は別にいいけどさ、女の子を自分の都合で野宿にさせるのは違うと思うんだー」
「ぐッ……本当にその通りです……」
「あの、よろしければですが今日のところはこちらで休んでいかれては?」
「リッド、それはいいわね。父上も母上も今日は帰ってこないし、アリスもそれでいいかしら?」
「はい、皆様でしたら大歓迎です!」
「あ、いやそんなに気を遣ってもらわなくても」
「いいのよ。あなたには返せないほどの恩があるもの。それに楽しい話もまだまだ聞けそうだしね」
「まったく、彼女たちに感謝しなよ」
天使だ……ミントという悪魔の横に天使がいる。大人ならではの余裕ある笑みが慈愛に満ち溢れてみえる……。
「それじゃあ今回はお言葉に甘えさせていただいて……リリアも問題ないね?」
「うん、ところでお二人の両親って何をしてる人なんですか?」
「何を……うーん、国を守っているといえばいいのかしら」
「そうですね、一応あれでも王ですし……」
レイラさんとアリスがはっきりしない口調でいうが……王? 今、王って言わなかった? 冷静に考えようとする俺の前にリリアが手を上げる。
「あの、王様って……? ってことはお二人はお姫様なんですか?」
「そうなるわね。私は第一王女でアリスが第二王女よ。あれ、言ってなかったかしら?」
「…………数々の無礼、失礼致しましたああああぁぁ!!」
俺は再度土下座して頭を下げた。サーニャさんといい、なんで王族がほいほいその辺にいるんだよ! ほんと勘弁してよ! もう国絡みの事件はこりごりなの!
「あなたは命の恩人でもあるし、普段通りにしてもらっていいのよ」
「そうです! レニさんがいなかったら私たちは今頃こうしていなかったのですから」
あれは成り行きでなっただけで……いや、今更二人に礼儀正しくなんて難しいし諦めよう。レイラさんに至っては戦った仲だし、別に俺はどこかの国に属してる状態でもないからな。こういうときは諦めが肝心だ。
「お姫さまかぁ~素敵だなぁ~」
「君は呑気だなー。彼女たちも裏では苦労してるんだから表面ばかりみないほうがいいよ」
おいおい変なこというなよ。どこで聞かれてるかもわかんないんだぞ、さすがに魔族相手に喧嘩は売りたくない。城で世話になることになった俺は改めて頭を下げた。
そして夕食までしばらく時間が空いたため、俺は今更ながら話を戻すことにした。
「あの、さっきの話ですが、先駆者ってどこにいったんでしょうか」
「最近までこの辺りにいたんだけど今は行方がわからないわ」
「私たちは予言の本がまだ残っていると言われたんです。なんのことかわからずにいたら私たちの恩人が魔界へもうすぐ来るから彼らに聞けといって去ってしまわれて……」
どこにいるかはわからないがとりあえず今は本の対策をしなければ……あの力は強大だ……。
「本の在処はわかっているんですか?」
「それがね……検討もつかないのよ」
「でも、私たちが必ず見つけ出して壊して見せます!」
アリスは現状の不安を払拭するようにいった。しかしあれはそんなに簡単なものじゃない……。俺の顔で何かを感じたのかレイラさんがすぐにアリスのフォローに入った。
「最初に言ったけど、あなたたちを巻き込むつもりは一切ないから安心して。自分たちの国のことだもの、自分たちで守ってみせるわ。だけど何も情報がない今は、少しでも確実な情報がほしいのよ」
確かにあの本はリリアの一族しか知らないようだった。最初にレイラさんから聞いたときは一刻も早く本の力の範囲外にいかなければと思ったが……今はまだ二人とも本の力に惑わされたりはしていないようだ。
「わかりました。本については――ほぼ不可能に近いですが対策も含めて知っている限りすべてお話します」
「本当ですか?!」
アリスが喜びの声をあげる……が、俺は忠告した。
「ただし、俺が協力するのは本についての情報提供だけ。それ以外は自分の身を優先し場合によってはすぐに魔界から逃げさせてもらいます」
「レニ君?! それじゃあ二人を見捨てることに……!」
「リリア、今までのことをよく思い出してみろ。もし何か一つでも遅れていたら俺たちはどうなっていた?」
「そ、それは……っ」
「薄情と思うのならそれでもいい。だけど俺はみんなと旅をしている。これ以上誰かのために仲間が犠牲になるのはこりごりだ」
吐き捨てるように言い切ると反論する声は上がらず沈黙が訪れる。空気を変えようとアリスが明るい声でリリアに声をかけた。
「リリアさん大丈夫ですよ。お姉さまは強いですしいざとなれば召喚術も使えます! 私もまだまだですが何かの力になれるはず!」
「でも……」
「君は人の心配よりまず自分の心配をすることだね。僕たちはあの本に二度もやられかけてるんだ」
ミントに現実を突きつけられたが、どうしても納得がいかないのかリリアはうつむき口を噤んだままだった。助けたいという気持ちは俺も分かる。だがその感情一つで動いて誰かが犠牲になったらどうする。万が一そうなったら……俺は、その選択をした俺自身を許せなくなるだろう。
「リリアちゃん、彼らの言う通り何かあってからでは遅いのよ」
レイラさんが諭そうとするがリリアは返事を返さなかった。レイラさんは何か閃いたのかぽんと手を打つ。
「よし、それじゃあリリアちゃんにはあとで大事な話をしてあげましょう」
「話……ですか?」
「今のあなたにはとても大事な話よ。アリスも一緒にくるといいわ」
そういうと、レイラさんは俺をみて任せなさいというように軽くウィンクをした。