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101話 『お呼び出し』

 魔界といえば何が思い浮かぶだろう? 暗雲立ち込める空に雷鳴が轟き、辺りでは魑魅魍魎に似たモンスターが己の欲望のままに暴れ回る…………魔王率いる魔族の軍勢がモンスターの大群を連れ人間界へと進行。いくらレイラさんたちに会ってると言っても前世で培ってしまったそんなイメージは拭い切れていなかった。



「ミントーこのお花は何に使うのー?」


「どれどれ……おっこれは珍しい、ヒラヒトツと言って滅多に見つからない花だよ。薬に混ぜれば効果を高めてくれるから大事にしまっておいたら?」


「へ~綺麗なだけじゃないんだね。ルーちゃんの鞄にいれておこうっと」


「クゥー」



 色濃い木々と花に囲まれ遠足気分のリリアは楽しそうにしている。どことなく果ての大地と同じ雰囲気を感じるのはそれくらい魔素が濃いということだろう。今のところ狂暴なモンスターに出くわしてはいないが注意しておくに越したことはない。


 そういえばリリアが新しい魔法を覚えたと言っていたな。なんでも他人の過去を映すと言う破格の性能。使い方を間違えると危険だが確実に過去を知れるという点では、今の世界事情を詳しく知らない俺たちにはうってつけだ。


 そしてマフィーが最後にあったという女の子……今のところ誰なのか皆目見当もつかないが先駆者ならば何か知っているかもしれない。



「ねぇ、レニ君が会ったレイラさんとアリスちゃんってどんな人なの?」


「そうだな……レイラさんは怒ると恐いが面倒見のいいお姉さんってところだな。アリスはまだ俺たちより小さいが自分なりに色々と考えて賢い子だよ」


「へ~早く会ってみたいなぁ」


「きっと気が合うと思うぞ」


「クゥー!」



 何年もたったわけじゃないが早くこの剣の報告もしたい。あのとき一緒に悔いていたと……そしてローラさんが鍛え直したらなぜかこんなヤバそうな剣で自己成長する機能が付きました……と。



「あ、誰かこっちに走ってくる」


「魔族みたいだな。何かあったのか?」


「僕は念のため隠れておくよ」


「あぁ、まだ妖精をよく思っていない魔族もいるかもしれないからな」



 いくら協定が結ばれたといっても日は浅い。妖精側がそうだったように、お互いをよく思っていないのは当たり前のことだ。俺たちがそのまま歩いているとやはり魔族の兵士はこちらに向かっていた。



「そこの旅の方、もしやレニ殿と見受けられるが間違いないだろうか?」



 気のせいだろうか? この男……面倒ごとを待ってきている予感がビンビンする。同時に姿の見えないミントから視線を感じるが。待て、まだそうと決まったわけじゃない。俺を誰かと間違えてる可能性だってある。



「人にものを尋ねるときは自分からってのを知らない?」


「これは失礼した、私の名はリッド。あなた方がくるのをお待ちしておりました」


「待て待て、俺があんたの探してる人間とは限らないだろ」


「いえいえ、ドラゴンを連れた人間の少年といえば二人としているはずがない。すぐにわかります」


「人違いだろ、こいつはドラゴンじゃなくリザード種だ」


「クゥー」



 リッドさんは何か考えるようにルークをみていると膝を降り顔を合わせた。羽はちゃんと隠れている。爪や牙はリザード種のなかでも鋭い部類と言っておけば問題ない、最悪亜種とでも言ってごり押せばいい。



「うーむ、本当に素晴らしい鱗です。君が話に聞いていたルーク殿ですね」


「クゥー!」



 あっバカ……元気に返事したルークからリッドさんが振り返る。その顔は笑顔だった。



「た、たまたま同じ名前だったのかな~」


「あるお方がお呼びでして、来て頂けますね? お間違いであればすぐにお詫び致しますので」



 これではさすがに断れない。まぁしかしだ、ルークの名前を知っているとなればこの人はレイラさんとアリスの知り合いか親族だろう。なぜか二人の名前を出さないのが気になるが、俺からすればバレバレもいいところ。


 きっと秘密裏に呼び出して驚かそうとしているのだろう……だが残念ながらサプライズを悉く何かの伝説と勘違いし潰した俺には通用しない。華を求め常にフル稼働させていた思考はこういうときにこそキレがいいのだ。



 近くの町に着くと立派な馬車が用意されており、そこから更に揺られること小一時間――大勢の魔族が賑わう街中を馬車は走り抜け停車し外からドアが開けられる。



「到着致しました。こちらでお降りください」



 地面に伸びた階段を降りると遠くから懐かしい声が聞こえてきた。



「レニさん! ようこそいらっしゃいました!!」


「お~アリス、久しぶり――ってそんなに経っていないか」


「ふふふ、だけどなんだか昔のように懐かしいです。ルークちゃんも元気そうでよかった」


「クゥ~」



 最近濃すぎる事案に巻き込まれ過ぎて昔あったことが遠い出来事に思えてしまう。しかし今回は予想通りだったな。



「そうだアリス、紹介するよ。俺と一緒に旅をしている仲間だ」


「リリアといいます。アリスちゃん、これからよろしくね」


「はい! よろしくお願いします!」



 うん、アリスもリリアも問題なさそうだな。お互いの自己紹介を終えるとリッドがこちらに寄ってくる。



「ここでもなんです、中に入られては? レイラ様もお待ちでしょう」


「あっそうだ、お姉さまを待たせているのでした」


「私は馬車を片付けてから参ります。彼らをお任せしてもよろしいでしょうか」


「えぇ。みなさん、どうぞ中へお入りください」



 そういって俺たちの目の前に佇んでいる城を指す。王都とはまた違った形状をしているが城であることには間違いないだろう……なんとなく、俺の頭によぎった不安をリリアがひそひそと小さな声で口にした。



「レニ君……アリスってお姫様なの?」


「わからない……どっかの貴族くらいだと思ってた」



 いや、魔族では位の高い家柄はこういう家に住んでるのかもしれない。人間の常識は通用しないことだってあるだろうからな。


 手慣れた様子で城へ入るアリスのあとをついていく。すれ違う兵士や給仕らしき人たちがアリスへと頭を下げている……よっぽど位の高い貴族なのかもしれない。



「お姉さま、皆様をお連れしました」


「ありがとう、入ってもらって」



 もう一つの聞きなれた声が部屋の中から聞こえるとアリスは扉をあけ俺たちを中に手招きした。



「お久しぶりですねレイラさん」


「あなたも元気そうでよかったわ。あとは……新顔かしら」


「は、初めまして。リリアといいます」



 アリスとはまた違い、クールな雰囲気のレイラさんにリリアは若干緊張気味のようだ。



「無事に合流できたのね。よかったわ」


「えぇ、一時はどうなるかと思いましたが。リリア、彼女はレイラさんでアリスのお姉さんだ」


「よろしくね、リリアちゃん」


「は、はい!」



 ソフィアさんのときは結構リラックスしてたからいけると思ったが。ちょっとお姉さんタイプが違ったか? まぁすぐに打ち解けてくれるだろう。



「で、別に急いでるわけではないんだが俺に何か用でもあった?」


「そうだったわ。ちょっと困ったことがね……長くなるから座ってちょうだい」



 なんでこの短期間でまた問題が起きてるんだよ。解決してたんじゃないのかよ。溢れそうな心の声をしまい俺は椅子に座った。

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