ざまぁヒロインは拳で語り合いたい!
『ざまぁヒロイン4日目』は朝から散々だった
そもそも、私の居る女子寮は下級貴族と平民の子が多い寮で
食事も食堂で食べる
眠い目を擦りながら朝食をとりに行くと視線が痛い
何だか不思議に思ったが、腹ペコが勝ってどうでも良くなってしまい見逃してしまったのだ
この後が大変だというのに……
朝食後は1人で学園の校舎へと向かう
新1年生はAクラス~Eクラスまであり、私は平民が多いEクラス
アリアは高位貴族の子が多いAクラスとなっている
因みに成績優秀者もAクラスに所属する
奨学金を貰っている人間でEクラスは本当は前代未聞のはずなのだが
学園長も今回の作戦のグルなので、動きやすいクラスにしてくれたのだろう
ルンルンと鼻歌を歌いながら学園へ向い歩いていると、一瞬でずぶ濡れになった
呆然としていると、周りからクスクス笑い声がする
「あらぁこんな所に雑巾が落ちているわ。月曜日の朝が台無しですわね」
「あらぁ何だか臭いませんこと?」
「まぁ本当だわ!斬新な香水ですこと」
クスクスと笑い声が強くなる
通りすがりの学園の生徒も何人か様子を見て一緒に笑っているのだろう
成程、これが虐めってヤツか。ちょっと驚いたよ
どうするかなぁと考えていると空から何かが降ってきた
ガコン!と音を立ててすぐ側の地面に叩きつけられたのはバケツだった
やりすぎだなぁ……低俗すぎる
何て考えていたら反応を示さない私にイライラしたように
最初に話しかけてきた3人組の令嬢が言葉を続ける
「ちょっと貴女!まだ寝ているのかしら?」
「媚びうる事しか芸の無い下級貴族が!神経疑うわ!!!」
「元々平民上がりの成金令嬢ですから、貴族の品格など持ち合わせていないのですわ」
「あら!そうとは知らず……生き恥を晒しているなんてお気の毒ね」
「そうそう、自分の立ち位置を見直すことをお勧めしますわ」
「奨学生らしいですけどEクラスなのでしょう?可笑しな話ですわよね」
「お金にモノを言わせたのではなくて?」
「まぁ!成金って恐いわぁ」
「品格なんて一生身につかないでしょうね……」
オホホホホッと笑い声をあげている姿を見ながら、本気でどうするか悩んでいた
選択肢は2つだ
1,涙を流す
2,拳で語り合う
まぁ、性格的には2番なのだが【王命】だからな……不本意ながら1番を選択する事にした
「……ヒック……ヒックッ……酷いですぅ」
涙を出すなんてお手の物
フラーの扱きに堪えた私は最早女優魂の塊なのだ
「私が何したって言うんですかぁ?」
頭の悪い話し方で問いかけてみると、相手は目を輝かせながら声高らかに話し始めた
「何でしょうか。この頭の悪い話し方は!仮にも貴族なのに信じられませんわ!!!」
「同じクラスじゃなくて本当に良かったわ。同じ空気を吸うのも嫌ですもの」
「学園に抗議した方が良いかもしれませんわね」
何だこいつら……とも思ったが、ちょっと可哀想になってきた
このやり取りは、王家の影の皆さんが記録していて
国の中枢部に全て報告されるのだ
上から水とバケツを降らせたヤツも漏れなく報告されるだろう
「クスン……クスン……ずぶ濡れになっちゃたので、私は保健室に行かせてもらいますぅ」
さっさと退散しようと思っていたら、いきなり髪の毛を引っ張られた
「この耳のピアスは何かしら?」
「……ピアス?」
「そう、昨日とある店でアンタがイチャツキながら耳に着けて貰っていたって証言があるのよ」
「……店?……あぁ~カフェの事ですかぁ?」
「普通に話せないの!?」
「すいませぇん。これが通常なんですぅ」
「ムカつくわね!アンタ!!フラー様に媚び売って何するつもり!?」
「……フラー様?媚びうる?」
ポカンとしながら見つめると瞬間、思いっ切り頬を平手打ちされた
「いったっ……。このっ」
「君達。何をしているのですか?」
キレそうになった瞬間、耳馴染みのある声が私を包んだ
正確には私を包んだ人と前に出て盾になった人がいたのだが……
目の前に立ちはだかっているフラーは珍しく怒っていた
そして、私を抱きしめているキリオは恐ろしいほど感情が読み取れなかった
コレ……ヤバいパターンだな
何処から聞いていたのか分からないけど
明らかに嫌な展開になりそうな雰囲気だ
どうにかエンカウントを阻止せねばならない
「フラー様。私達はただ、その女に学園のルールを教えていただけですわ」
「ルール?どんな?」
「私達は貴族ですのよ?そんな格下がのさばっていては品格が傷付くのです」
「品格ねぇ……」
「それに、フラー様にも問題がありますわ。高位貴族で皇太子の婚約者候補のアリア様の従者が卑しい出の娘に夢中になっているなんて……目をお覚ましになって!」
「……フラー?どういう事かな?」
「……キリオ、後でちゃんと説明するので待ってください。刺すのは無しです」
「……キリオ。私風邪ひいちゃいそうですぅ」
「……カルラ?……何拾い食いしたの?」
はぁと、フラーが短く溜息をつく
さっさと終わらせたいのだろう
ヤバいっと思った瞬間、剣を構えて件の令嬢の方へ一歩踏み出そうとした
「そこまで!!!」
声がした方を向くと、皇太子殿下が居た
「何だか大変なことになっているね?品格とか学園のルールとか聞こえたけど私にも教えてくれるだろうか?」
「皇太子殿下!」
周りにいた生徒達が皆、顔を青くさせる
皇太子は現生徒会の生徒会長でもあるのだ
皆、挨拶の礼をしながら下を向いて震えている
「フラー。この場は私に免じて剣を納めてくれないだろうか?」
「……殿下の御心のままに」
安堵の空気が流れる
さぁ、それでは私も保健室に……と思っていたら殿下と目が合ってしまった
「入学式ぶりだね。大丈夫かい?ずぶ濡れだよ?」
「大丈夫です」
フラーが一瞬、殺気を私に向ける
だって!この空気であの話し方は無理だって!!!
はっ!女優魂ね!!死にたくないから頑張ります!!!
「後はこちらでやるから、君は保健室へ行くと良い」
「お気遣い、ありがとうございますぅ」
「それで……あの……君のなま……」
「くちゅん!すいません!寒いのでコレで失礼致しますぅ」
「……また今度ゆっくり話そうね」
そう声をかけてから殿下は、チラリと私を抱きしめているキリオに視線を向ける
キリオは平然と笑顔で黙礼する
(何だかめっちゃ恐いんですけど……保健室行きたい……)
結局その場は殿下に任せて
私、キリオ、フラーは保健室へ向った
朝に起こった出来事にしてはヘビー過ぎるがコレが私の仕事なのだと思えば仕方がない
ただ、保健室に行くまでずっと強く手を握っていたキリオにどう説明するか
考えるだけで憂鬱な気持ちになるなと思っていたのは事実で
この事はフラーに丸投げしようと心に決める私だったのである