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ざまぁヒロインはそんな喋り方をしたくない!

「フラァ~。私疲れちゃいましたぁ」

「なら、後であそこのカフェで一休みしますか?」

「あれれれぇ?あそこのカフェってパンケーキのお店なんじゃないですかぁ?」

「そうですね。()()()()()()()()パンケーキの店です」

「糖尿になって死ぬわボケェ……」

「おい。喋り方直せ」


『ざまぁヒロイン3日目』本日は課外授業である

フラーに軍資金を貰い、【頭が悪いマスコットガール男爵令嬢】の練習と買い物に来ている

本来なら、キリオと一緒に実家の商会で新作の石鹸作りをする予定だったのに

父と伯爵から「何事も形から整えるべき」と言われ

フラーと2人渋々買い物へ来ている


個人的には、本屋や材木店や金物屋へ行って漁りたいのだが

フラーはその一切を許さず

演技指導もしながらの道中となっている


「マジで殿下って頭悪いんじゃない?この話し方、鼻の中にマスタード詰めて目を覚ましてやりたくなるじゃん」

「隣で聞いてる俺だって本当は気分悪いんだぞ。きっと特殊な性癖なんだろう」

「うっわぁ~。アリアが居ないと本当に言葉が凄いね。性癖だって」

「そろそろ喋り方戻せ」

「はぁ~い」


こんなやり取りをしながらやって来たのが城下町一番のブティックである

我々はココでドレスとワンピースと数着買うつもりなのだが……お金足りるのか?


「お客様此方は?」

「お客様の髪の色でしたら黄色のドレスがよろしいのでは?」

「薄い水色も素敵ですわ」

「リボンとフリルは気持ち多めにと宰相閣下からオーダー頂いています。後他に桃色のドレスもいりますね」

「……ありがとうございますぅ」

「ぶぶぶっ!」


死にそうな顔をしながら着せ替え人形になっている私の後ろにフラーは肩を震わせながら控えている

いや……下着なんすけど……

と、最初は思ったが

コイツに何言っても無駄だから無視することにした

実はこの城下町一番のブティックのオーナー兼デザイナーのマダム・エリスは宰相閣下の妹なのだとか

で、今回の作戦のメンバーに急遽入れられたようだ

元々高位貴族御用達の店で守秘義務もしっかりしている事も選ばれた理由だろう

しかし、値段がエライ事になっているがマダム曰く

「無茶させられてるんだから、10着作ってその内の2着を貴女の好きな感じにしてあげる」

と耳元でこっそり囁いてくれた

優しさに泣ける

お代は宰相閣下にいく様で、だから遠慮なく盛っていくと宣言していた

財布の心配も無くなって少し肩の荷が下りる


「マダム・エリスゥ」

「何かしらお嬢様?」

「こんなぁフリルい~~~っぱいのドレスやワンピースって頼む人って居るんですかぁ?」

「うふふふ。可愛らしい質問ね。答えは『ひみつ』よ」

「わっ……わぁ~ドキドキしちゃいますぅ」

「ふふふ。アナタ結構好い性格しているわね。私、気に入ったわ」

「あんまりカルラを褒めないでください。調子に乗るので」

「……後ろに平然と立ってるけど、あれ彼氏?」

「あんな悪魔みたいな彼氏嫌です」

「おい。俺だってお前みたいな猿娘嫌だぞ」

「……王命って大変なのね」


マダムは楽しそうに笑いながら採寸を終わらせていく

数日後には学園の寮に搬入してくれると約束してもらう


「今度は魔法で姿を変えていらっしゃい。ノンビリお茶でもしましょう」

「マダム!大好き!!!」

「俺もですか?」

「当たり前でしょ?」


ニコニコしながら逃さないオーラを放つマダムにフラーも口答えはできないようだ

いい気味だとニンマリしていると視線が刺さる。恐い


「フラー君ってウラヌス学園の高等部3年生よね?」

「はい。そうです」

「貴方が噂のフラー君ね。シェフナイフのフラーでしょう?」

「……シェフナイフ?」

「そうそう、どんな肉の塊も調理してしまう。良くも悪くもね」

「マダム……そのくらいで勘弁してください」

「お・ちゃ・か・い」

「喜んで馳せ参じます。お土産はいかがいたしますか?」

「貴方の手作りが良いわ。特別なスパイスは【敬愛】にしてくれるかしら?」

「……かしこまりました」

「ねぇ……シェフナイフってなに?」

「……口縫い付けるぞ」


もぉヤダぁっと思いながら思いっ切り首を左右に振る

マダムは心底楽しそうだった

そんなマダムに1ヵ月後に顔を出す約束をさせられ、やっと店を後にする

出た瞬間、感情の一切を切捨てた様な顔をしたフラーが遠い目をしていたのが印象的だった

触らぬフラーに祟りなし

私達は気分転換にカフェへ行く事にした


件のカフェはパステルカラーに彩られた店内だった

「目がチカチカしますぅ」

「ココで男一人で食べるのは精神的にくるな」

「私、女の子だけどきちゃってますぅ。帰りたいですぅ」

「嫌、話題作りの為にもパンケーキを食べて帰るぞ」

「サンドイッチが良いですぅ」

「お前の大好きな()()()()()な」

「マジかー」


仕方なしに2人でテーブルに座る

フラーの独断と偏見で

私は【海と陸のマーメイドパンケーキ綿雲を添えて】になり

フラーは【イノシシ肉のキコリスパイス仕立て】を選んでいた

肉が羨ましい


待っている間、フラーはマダムの店で買った髪飾りを私にあわせていた

学園で演出するための小道具なのだがキリオに見られたらどんな顔をされるか

高等部2年生のクラスにはあまり近寄らないでおこうと心に決める

そんなことを思っていたら、フラーが耳に手を当て私のピアスの穴を確認し始める

手には伯爵様支給の魔具がある


「これ、穴がふさがってる?」

「う~ん。綺麗に空いてたから今でも使えるとは思うよ。何にもしなくなって4ヵ月くらいだから」


実は、両耳にピアスの穴があるのだが、試験勉強の時に邪魔で外していて、そのままになっていたのだ


「なら、録音機能の付いた魔具でも着けとくか、証拠は1つでも多い方がいい」

「お願い、少しはプライバシーが欲しい」

「……確かに可哀想だな。なら、俺との緊急連絡のツールでも着けとくか」

「今使ってるキリオの魔具じゃダメなの?」

「お前がキリオの事を凄く信用しているのは分かるけど、アイツお前が思う程純粋な人間じゃないぞ」

「それは分かってるけど……魔具ってそんなに沢山身に着けるものなの?」

「お前のバングルが純粋なバングルなら要らなかったんだけどな」

「……?どういう意味?」

「キリオは本当に恐ろしいな。やっぱりピアスはヤバいかな」

「必要なら着けるよ。仕事だし」

「……うん。まぁ、聞かれても『父親に護身用に渡された』とでも言えよ」

「分かった」


会話していると、パンケーキと肉が運ばれてきた。私達は食べながら感想の文言をいくつも考える

決して「歯が溶けそうですぅ」とか「歯磨き必須ですね!」とか「チェンジプリーズ」なんて言ってはいけない

ただ只管に仕事の話を突き詰めていく

メモ帳に書き込んでいたら、フラーが自分の魔力を込めた菱形のピアスを右耳に着けてくれる

色はフラーの目の色と同じ藍色だ

私は私で、自分の魔力を入れた菱形のピアスをフラーに渡す

濃い緑色なのでちょっと目立っている気もする


「うん。地味な容姿に藍色だから目立ちにくくて良いな」

「うるさいなぁ。でも、目立たないのは有難いから良いや。フラーの耳もOKだね」


その時の私達は傍から見たらどう思われているかなど考えてもいなかった

長年の友人関係の中でスキンシップが当たり前だったので気が付かなかったと言い訳させて欲しい

しかし、お洒落なカフェで2人して軽口を叩きながらコソコソと会話をしている姿は多くの人に目撃されていたワケで

その上に、耳にピアスを着け合いっこしているわけだ。悪目立ち必須だ


「ねぇ……シェフナイフが女の子とイチャイチャしてるんだけど気のせい?」

「いや、シェフナイフが笑ってるよ。明日槍でも降るんじゃない?」

「早く皆に教えなきゃ!大スクープだよ!」


ここは人気のカフェなのだ。そんなことが失念している私は相当にヤバい奴なんだろう

次の日の登校で地獄を見ることになるなんて思いつきもしないまま

作戦会議後、女子寮へ帰って爆睡したのだった

私の『ざまぁヒロイン3日目』は余計な爆弾を量産して終わったのだった



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