ざまぁヒロインは女優になりたい!
とんでもない入学初日が終わった翌日、学校は2日間休みだった
新入生の心を落ち着かせるためと
いきなりの寮生活に馴染めない生徒のために考えられた手法なのだろう
我がミレーニア王国肝いりの学園【ウラヌス】は小・中・高等部がある大規模な学園だ
基本的に才能があれば誰でも入れるが
建設当初の方針からは若干歪みが出来ている
現在は初等部から入っているのは基本的に上位貴族のみ
中等部からは下級貴族や新興貴族
高等部から入ってくるのは基本的に平民となっている
貴族は基本的に結婚相手を探しに来ている人が多く
平民はそもそも入学者に数が少ないので少ない就職口を何とか得ようと奮闘する
下級貴族もそう変りなく同じ感じだ
まぁ、スクールカーストがあるので
思うように就職できる人等一握りしか居ないのが現状なのだが……
新興貴族の手前、国としては認め難いところなのだろう
入学前は『友達100人できるかしら?』等と夢見がちな事もひと頃は思っていたが
初等部から通っていたアリアから軽くレクチャーを受けていた私は
早々に家業のための人脈作りに切り替えることにしていた
ただ、我が家は今でこそ国内トップ3に入る商会になったのだが
基本的に父も兄も『簡単に金を出すと思うな』精神の人間である
お金を出してほしければ、自分の存在価値やセールスポイントをしっかりと提示し
お金を借り入れて学園に通うしか方法が無かった
その上、利子も付くってんだから血も涙もない
私は実家を頼ることも諦め、結局一足先に奨学生として学園に通っていたキリオにアドバイスを貰い地道に勉強しまくった
その努力が実り、今年の新入生の奨学生枠5人の中に選ばれることになった時は泣いて喜んだ
勿論、ズル等はしていない
文字通り血を吐くほどの勉強をしたのだ……
背に腹は代えられないと鬼の様な家庭教師で2つ上の先輩であるフラーにみっちり扱かれただけだ
寝ても覚めてもメトロノームの様な御小言が耳に張り付いて
勉強しないのが恐ろしく感じたのは貴重な経験ともいえる
キリオは遠い目をしながら「俺の時も一緒だったよ」と何度も慰めてくれた
さすが、私のバディだ
まぁ、下級貴族の私が高校から入学なのは勉強しないといけなかったからが理由なのだが……
色々言ってくる人は思った以上に多かった
入学初日の洗礼だったのかもしれない
アリアは学園と御妃教育に忙しく
そして分かりやすく荒んでいった
毎週行われ続けていたお茶会で伯爵令嬢らしからぬ暴言の嵐に
フラーに睨まれたのは仕方のない話だ
高等部に私が入った事により、漸く近くに4人が揃ったので学園で初の秘密のお茶会をする事になった
場所は勿論、アリアの部屋だ
「ここに通って1年経つけど、女子寮に入るのは初めてだよ」
「フラーは出入りしてるんでしょ?」
「ここは、貴族専用の寮な上、高位貴族のみ使用可能となっていますからね。それに私は従者ですから」
「私的には嫌な作りともいえるわ」
「嫌な作り?」
「後宮に似ているのよ」
アリアはサラリと学園の闇を指摘する
国王の肝いりと言えども妥協する所はしているようだ
「まぁでもお陰でノンビリできるスペースがあるくらい広い部屋なのは俺達的にはラッキーだよな」
さすが、私のバディは言う事が素晴らしい
アリアの目尻も一瞬で緩む
高位貴族しか使えない寮に私達の様な出自がバラバラなメンバーが集めれるのにはワケがある
それは、高等部2年生に所属しているキリオのお陰なのだ
そもそも、奨学生は基本的にある程度のスペックの高さを有するのだが
キリオの場合は国の上位魔法技師レベルの魔法が使えた
その事は学園に入るまで私は全然知らなかったのだが
アリアやフラーは気が付いていたらしい
元々、身内を大切にするキリオは4人の友情をそれはそれは愛していた
いや……愛しすぎていた
私が遅れて入ってきた事にテンションが上がりすぎてしまったらしく
4人それぞれに魔具を作ってプレゼントしてきたのだ
満面の笑顔で【友情の証】なる魔具を渡された日は
長い付き合いの私でもフリーズした
しかもその魔具はかなりのレアアイテムだった
手に巻き付くような曲線が蔦の様にウニャウニャと広がって出来たバングルなのだが
蔦の様な模様の合間に色とりどりの小さな石が7つ埋められている
色々な効果が有るらしいのだけれども
「取り敢えず今使うのは赤色の石だけだから気にしないで」と笑顔で押し切られてすべての石について把握できていない
しかも解せないのが、私はバングル、アリアはネックレス、フラーはチェーンベルト、キリオは片耳の縁を覆う耳飾りと形や大きさがそれぞれ違うのだ
蔦の様なデザインは一緒だけど、明らかに私のだけがデカい
文句を言っていたらアリアに「お黙りなさい」と怒られ
フラーは「甘やかしすぎは良くないぞ」とキリオに注意していた
さて、赤い石だが
実はこれ、テレポートが出来る装置で
登録をしておくと事前に指定しておいた場所へ移動できる
最大3ヵ所登録できるらしいが
記念すべき1ヵ所目をアリアの部屋にしたというワケだ
アリアの部屋に集まってお茶会は嬉しいがプライバシーの心配をしていると
彼女はあっさりとOKを出してきた
信頼してくれているのは嬉しいが、若干心配にもなる
「だって、私の部屋に下手に正面から出入りして勘ぐられる方がよっぽど面倒臭いですわ」
「そんなに目を光らせてるの?」
「私は幸運にも殿下の婚約者候補№1ですのよ。想像以上に学園内に居て監視の目が厳しいのよ。それをいつ揚げ足取りに使われるか……困ったものだわ」
「フラーは従者だから大丈夫なの?」
「基本的には大丈夫ですが、やはりキリオのアイテムは有難いですね。有事の際にもアリアを守れますから」
「部屋の中までは監視の目が無いから、よっぽどの事が無い限りバレはしないわ」
「それに、部屋にはキリオの作った結界の魔具もありますからね。空間をちゃんと遮断してあります。こんな上位魔具を作るなんて、本当に凄いですよ」
何だか自分が褒められたみたいで嬉しくなってニヤニヤしているとアリアとフラーが残念そうな目でこちらを見ていた。なんだよ!やんのか!!!
「それより、カルラは災難だったね。まさか殿下の目に留まるなんて」
「キリオが早く迎えに来なかったからじゃない!」
「俺はアリアと一緒に待ち合わせ場所にいたよ。部屋まで迎えに行くってのを断って迷子になっていたカルラが悪い」
「だって!似たような場所が多すぎるんだもん!」
「言い訳しない。因みに黄色の石は通信機能になってるから、俺達の誰かの名前を触りながら呼ぶと話せる仕様だよ」
「めっちゃラッキーじゃん!」
「濫用しそうで恐いわね」
「カルラはお調子者ですからね」
著しく皆の評価が低い
けど、私はこの入学を機に【密命】があるのだ
何が何でもやり遂げたい
理由は死にたくないから
タダより高いモノは無かったのだと身を持って知っているしね
チラリとフラーを見ると時計を2回軽く叩いた
『後で呼び出し』の合図だ
無視したいが、後からの報復が恐くて仕方なく頷く
この案件はアリアとキリオを巻き込まないことが最重要課題でもある
ポーカーフェイスが苦手な私が
何事もなく笑えるようになったのは
間違いなくフラーのお陰だろう
本音は今後の事を思うともう少し女優スキルが欲しいのだけれど……
何故、私に白羽の矢がたったのか
物語の強制力なのかもしれないと思いながらも
私はフラーの提案を拒む事は無かっただろう
その後お茶会は和やかに進んでいき
1週間後にまた会う約束をしてわかれた