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ざまぁヒロインじゃない正ヒロインはもどかしい!①

あの日から全てが変わった


学園の図書室

人気の無い窓際でアリア・キンドレッド伯爵令嬢は独り溜息を付いた

思い浮かぶのは3か月前の城下で有名なブティックに乗り込んだあの日の事だ


あの日は、親友のカルラ・ハイネリーク男爵令嬢がこっそり寮を出る所を偶然見たマルク・ルグローブがアリアに報告した事が切っ掛けだった

通信機で何とか連絡を取ろうとした結果、何かに遮られ応答してもらえなかった

しかし、通信が途絶える直前に居場所だけは感知できていたのでカルラの居場所は分かっていた

その後は、迷う事無く馬車でブティックまで直行し乗り込んだわけだ


ただ、その時に独りで乗り込む勇気が無かったので

近くに居たマルク・ルグローブを巻き込んでしまったのは後々頭痛の種にもなった

マルクは何が起こっているのか執拗に聞き出そうとしてきたのだ

しかし、アリア自身何が起こっているか把握が出来ていないので答える事が難しく

どうするか悩んでいる内に、カルラの休学届が出された


カルラの休学届はキリオも知らなかったらしく

慌てて彼女の寮の部屋へ行ったらもぬけの殻だった

その時のキリオの光の無い目は最早言葉に出来ない恐怖があった


その後のキリオの話では、実家の商会にも連絡が無い状態での休学届だったことが判明

足取りも掴めず、水面下でキリオが知り合いに頼んで捜索していた様だが未だ行方は分かっていないのが現実だ


学園では、殿下の婚約者がもう決まるという話で連日持ちきりである

相手は誰なのか?

筆頭候補は自分なのに何だか他人事の様に感じてしまう


「こちらに居たんですね」


振り向くと、ソコにはデニス・ワイズマンがいた

彼はここ数日、何かと気にかけて声をかけてくれる

脳筋の癖に意外と気が利くところもあると内心感心している


「ここは静かだから心地いいのよ」

「筆頭婚約者候補ですからね。周りの目も気になりますよね」


本音はそんな事処ではなかったのだが、曖昧に微笑んでおく


アリアはふと思い出す

幼い頃に初めて4人でお茶会をしたあの日の事を

そして、キリオが嬉しそうに4人に通信機のアクセサリーをくれた日の事を

あの日のカルラはキリオの気持ちに気が付いていない様だったし

あの日のフラーはキリオとの心の距離は親友レベルだと内心感じていた

そしてアリア自身、この友情はお互いの思いが成就しなくとも変わらないという確信に似た感覚があった

でも、何か引っかかるのだ

アリアだけ、何か仲間外れにされている様な妙な感覚がずっと付いて回っているのだ


「そういえば、先程職員室が騒がしかったですよ」

「それがどうかしたの?」

「気晴らしに覗きに行ってみませんか?」

「……暇人ね」

「貴女もたまにはくだらない事に時間を割いてみる事を知るべきですよ」


何となく、この男の口車に乗ってみるのも悪くないと思い

アリアは散歩がてら職員棟を目指す事にした


***********************


「失礼しました」


アリアが間もなく目的地に到着しそうになった時、誰かが丁度出てくるところだった

ボンヤリと声を聴いていたので反応が遅れたが、一緒に居たデニスが微かに緊張した様な気がした

何となく視線を声の方向に向けるとソコには意外な人物がいた


茶色の髪に、深緑色の目

髪の毛は肩にかかるくらいの長さで、笑うと口角がグッと上がる

そう、カルラだ


「???」


動揺して声を出せずに見つめていると、カルラが此方に気が付いた


「お久しぶりですぅ。アリアローズ・キンドレッド伯爵令嬢ぉ!」

「……お久しぶりね。しばらく休んでいたみたいだけれども、体調はもう大丈夫なの?」

「はいぃ!もぉバッチリですぅ!!!」

「……そうなの?」


何だか矢鱈距離が近く、グイグイくる

以前のカルラでは考えられない程の距離の取り方に戸惑いが隠せない


「ゴホン。ご実家の方がハイネリーク男爵令嬢の事を探していると風の噂で聞きましたが……」


デニスが間に入って距離を作りながらカルラに話しかける


「あぁ!ワイズマン君!!!そうなんですぅ。何か行き違いがあってゴチャゴチャしてたみたいですぅ」

「……行き違い?」

「はいぃ!私ぃ、ちょっとボォ~っとしてたみたいでぇ、連絡ミス?的な?だからもう大丈夫ですぅ」


そう言いながら、カルラは急にデニスの腕に絡みつき始めた

困惑するデニスと、情報の処理に対応しきれないアリア

ニッコリ微笑みながらカルラはデニスの顔を覗き込むように話しかける


「あのぉ、ワイズマン君この後暇ですかぁ?」

「……あの……ご令嬢っ」

「暇なら一緒に散歩しませんかぁ?私ぃ、久しぶりの学校なんでぇ思いだしがてら見て回りたいなぁっと思っててぇ」

「……ハイネリーク男爵令嬢近いですっ」

「えぇ!そんなぁ!!!私ぃ、もっと仲良くお話したかっただけなのにぃ。ビックリさせちゃいました?ごめんなさぁい!!!」


サッと離れたカルラは目をウルウルさせながらデニスに謝った

アリアは只々ポカンとする事しか出来ず、デニスも困惑が隠せない様だった

何か話しかけないとと思い声をかけようと思った瞬間、カルラは何かに気が付いた様に後方に視線を向ける


「すいませぇん。家の者の迎えが来た様ですぅ。私、今後は寮では無くて家から通うんで、今日の所は失礼しますねぇ?」

「えっ?通う?」

「はいぃ!ではでは御機嫌よう」


そう言って、滅茶苦茶な作法のカテーシーをしてその場を去っていった

走り去る姿を慌てて追うと、校門の前で従者の男性と一緒に馬車に乗り込む姿が見えた


「……!?」


デニスが息を吞む姿が見えたので恐らく知り合いだったのだろう

アリアには遠すぎてよく見えなかったが、白髪の背の高い男性だった

新しく雇った従者だろうか?キリオは知っているのだろうか?

疑問は次々浮かんでくる


「ハイネリーク男爵令嬢!ちょっとお話を……」


珍しく大きな声を上げたデニスはアリアの存在など忘れて加速していく

アリアは息も絶え絶えにその状況を見ていたが

グングン離されていく距離を我武者羅になって追いかけるしかなかった


しかし、当のカルラはそんな声が聞こえていなかったのか

従者と一緒にあっさり馬車に乗って出発してしまった


出発地点に立って馬車を見送るデニスの顔は困惑を極めており

追いついたアリアに一言詫びた後、何処かへ急いで向っていった

デニスの様子も気になるが、酷く他人行儀なカルラの姿を思い出して無意識にアクセサリーを撫でるアリアの心は不安に押しつぶされそうになっていた


「私はやっぱり何も知らないのね」


親友の様子の変化、信頼していた従者の失踪、残った仲間の光の無い目

【完璧令嬢】何て呼ばれて生きてきたアリアにとって

現状は真っ黒な海の中にポツンと浮かぶ船の様な感覚になった事は言うまでもなかった

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