ざまぁヒロインの非攻略対象シェフナイフ・フラーは友人を守りたい!①
話合いの翌日
日曜日にも関わらず猿娘と買物へ城下町へ来ていた
本来なら個人的にはコリンと過ごしてほしかったのだが
コリン自身が混乱していたのでクールダウンしたいと言い出し
結果、カルラのヒロインごっこに付き合う羽目になった
「うわぁ~!見てくださぁい!!!アレ、かわいぃ~♡」
「……そうですね」
「あの綿菓子も雲みたい!フラーも食べたいですかぁ?」
「……それよりカルラ。あそこのカフェの個室の予約がしてあります。一休みしましょう」
「はぁ~い!楽しみぃ!!!」
カルラ自身もヤケクソな感じが否めないが、大分頭の悪い感じが上手くなってきているように感じる
「11時に予約した者だが」
「お待ちしておりました。マダムのご紹介のフラー様、カルラ様ですね?」
案内された部屋は、マダムのコネで急遽用意してもらった人気のカフェの個室だ
カフェの個室などVIPしか使えないのが当たり前なのだが、当日でも直ぐに個室を対応してもらえるとは……部屋は広すぎる気もするが、やはりマダムの影響力は大きいと感じる瞬間だった
「メニューはどれですかぁ?」
「お嬢様。当店のVIPのお客様は此方でコースを用意させていただいております」
「カフェなのにコースですかぁ?」
「はい。当店自慢のサービスですので、一度ご堪能ください」
「わぁ~い!楽しみですぅ!!!」
キャハキャハと笑いながらカルラは給仕と話していた
自分はと言うと……何となく室内を見渡していた
気になる箇所は3か所
そして、もしもの時に使えそうな箇所は2か所だった
「フラー!こっちに来てください!大きな水槽ですよぉ!!!」
手招きされて向かった水槽には、色とりどりの魚が泳いでいた
カルラは実家の仕事柄見慣れているだろうに
心底嬉しそうに眺めていた
「……喉は乾いていませんか?」
「う~ん。ちょっと胡散臭いよね。このカフェ」
「おい。キャラ戻せ」
「大丈夫だよ。肩寄せ合って話してるんだから、イチャイチャしている様に見えるって」
「……アリアお嬢様に顔向けできない」
「カルラお嬢様にも愛想を振りまく可愛げを頂戴よ」
「猿山へ帰れ」
「うっさい根暗」
入り口付近に佇んでいる給仕は肩寄せ合いながら魚を熱心に見る若者2人を微笑ましく思っていた
まさか、悪口合戦など夢にも思わないだろう
「マダムに頼んで今日、この場所をキープしたの?」
「ああ。だけど、マダムにしてはランクが高い場所を用意しすぎな気がするな。あの人がこんな部屋を指定するなんて、性格的に無さそうなんだが……」
「私さぁ……さっきから気になってるんだけどさぁ」
「なんだ?」
「アソコの扉何?」
そう言われてみた先には、壁に埋まる様に同一化した額に入った大きな絵が飾ってあった
しかし、よく見ると扉だ
「……これは一本してやられたな」
「フラー。私恐いですぅ」
「黙れ猿が」
そう言い合いをしていたら、テーブルに料理が用意された
2人で来たはずなのに、テーブルには3人分の食事が並ぶ
いよいよ来たなと思いながら、カルラと2人席へと戻る
「あのぉ。何で2人なのにぃ3人分あるんですかぁ?私ぃ、そんなに食べれません!」
口の前でバッテンを作って話すカルラに対し、給仕は無言でセッティングしていく
カルラは一瞬呆れた顔をしながらも果敢にその後も話しかけ続けていたが、状況は変わらなかった
「お待たせしました」
ついさっきカルラと話していた
壁の絵が扉になっている場所の方向から声がした
振り返ると満面の笑みの男が立っていた
「……貴方は」
言葉にして良いか悩む
そして、この男がいるという事はあまり好い状況では無い事が分かる
「どなたですかぁ?」
「初めましてお嬢様。私はミレーニア王国で皇后付き副補佐官をしている人間です。名前はブライアン・ハイハットと申します」
「ハイハット?それって侯爵家の方ですかぁ?」
「はい。私も三男と言えど一応貴族ですが、今は一臣下として此処へ来ている次第です」
この男の実家は医療系に特化した家紋だ
多くの医療関係者を支援し、王家御用達の有名な宮廷医師の家系だ
恐らく、この男もその関係で皇后付き補佐官となっているのだろう
本能が叫んでいる《早く帰れ》と
「さぁ。楽しいティータイムを始めましょうか」
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フラーは何とも言えないこの空間に居心地の悪さを感じていた
そして、最初言っていた【コース】の中身に正直胸焼けが酷くて早く帰りたくて仕方がなかった
何しろ出てきたものがコースはコースでも【スイーツコース】だったのだ
横に座っているカルラが店を出た瞬間荒れる事が予想された
1品目のサンドイッチは良かったのだ
その後、フルーツポンチ、イチゴのババロア、バナナのオムレットと来て後は紅茶で終わりかと思いきや……
クッキー、チョコレートパフェ、焼き林檎のタルト、チーズケーキ
そして現在、オレンジのゼリーの順番で出されている
目の前のハイハット家のブライアンはどれも2品ずつ食べ進めており
しかも、飲んでいる紅茶には毎度角砂糖を3つ入れている
因みに現在紅茶は4杯目だ
(きっと、腹でも切ったら砂糖が出てくるな……)
そう思いながら、途中で食べるのを止めて、別にスコーンを頼んだ事が正解だったと深く思う
カルラは機械の様に只管食べている
「ご令嬢は甘いモノがお好きですか?」
「はい!幸せにしてくれますよねぇ♡」
(嘘つけ……お前が一番好きなのはソースたっぷりの肉だろ)
フラーが心の中で盛大にツッコんでいると、パッと花が咲いたようにブライアンは笑い「紅茶に合うんだ」と言って薔薇の砂糖漬けをカルラに渡していた
勿論、カルラは素直に受け取って紅茶に入れていたので少し感心もした
自分は、もう1㎜も甘いモノが入らなかったからだ
「ご令嬢は本当に可愛らしいですね。そりゃミハエル殿下も夢中になって追いかけるわけだ」
そう言われて、漸く本題が来たと身を引き締める
カルラも少し緊張している様だが、初対面の人間には分からないだろう
「う~ん。殿下は誰にでも優しいので、私だけじゃぁ無いですよぉ?誰が言ったんですかぁ?」
「いやね、私の姪っ子が学園の2年生にいるんですが、楽しそうに話してくれたんですよ」
「そうなんですかぁ?私には差が分からないですぅ……」
「それだけじゃないですよ!あの【アイビー】の勧誘を受けたそうじゃないですか!一説によれば、ご令嬢は学年3位とも聞きましたよ?」
「えぇ~~~!誰ですかぁ!?そんな適当な事言った人ぉ!!!困っちゃう!プンプン!!!」
フラーは目の前のブライアンの情報源の出所を考えていた
恐らく……学園の教師が正解だろう
皇后の手は確実に伸びてきている
早く退散した方が良いと判断する
「怒った顔も可愛いですね。だから、何人もの生徒を虜にしているんですね。流石です」
「トリコですかぁ?」
「はい。ミハエル殿下以外では、まずアズール・ウェスカー先生。勧誘を言い訳に何度も口説かれているそうですね?」
「知らないですぅ」
「次に現宰相の御子息で、時期宰相有力候補のマルク・ルグローブ君。彼はご令嬢の噂は根も葉もない事だと学園で生徒達に話している姿が何度も目撃されています」
「マルク・ルグローブ君は、挨拶程度の関係ですよぉ?不思議ぃ???」
「最後は、私も信じられなかったのですが現騎士団長の御子息のデニス・ワイズマン君。何でもご令嬢の身を案じ、あらかじめ人気の無い教室で持ち物のチェックをしてるそうですよ?」
「……うわぁ~ストーカー?」
「純粋な片思いに対してソレは可哀想ですね」
そう言うと、ブライアンはクスリと笑った
カルラとフラーは自分達の知らない所でデニスの過保護が発動していた事態に内心驚愕していた
相手によったら、只々恐い話だと思う
「そんなご令嬢だからこそ会いたかったのです。いっその事ミハエル殿下ともっと個人的に時間がとりたかったりしませんか?」
「どーゆー事ですかぁ?」
「いやなに。学園の卒業生が後輩にちょっとした御節介をしたいだけですよ」
「どんなお節介ですかぁ?」
「2人で過ごす時間を増やして、ミハエル殿下の恋心のサポートがしたいのです」
「殿下も望んでいるんですかぁ?」
「勿論です」
ペラペラとよく回る口に感心しながら黙って時を待つ
内心、腹が立つが何故自分に聞かせるのかも知りたかったのでカルラに任せる事にする
「私ぃ何でそんなに応援してもらえるか分かりませぇん」
「君がとても魅力的だからですよ。それ以外の答えは無いです」
「あははは。褒められるの嬉しい!ありがとうございますぅ。でも、難しい話はよく分からないのでぇ今日は頭が痛くなっちゃいましたぁ。もぉ帰りますぅ。ねぇフラー?」
「……そうですね」
困った顔をしながらもブライアンは引き止める事はしなかった
只々、満面の笑みでカルラとフラーを見送った
フラーはその気持ちの悪さにカルラをこれ以上関わらせたくなかった
「それでは、失礼致します。貴重な御時間、ありがとうございました」
「ごちそうさまでしたぁ!」
「おやおや。可愛い後輩の為に、先輩の顔を立ててくれて嬉しいよ。またね」
奢るなんて言われていないが、カルラは当たり前の様に先手をうった
きっと内心、かなりご立腹なのだろう
バイバイと手を振りながらその場をあっさり解放される
精神的にも内臓的にも疲弊していたカルラはあっさり商会の馬車を手配し乗り込んだ
そして帰り道の馬車の中では思いっ切りブツクサと文句を言いまくっていた
そして自分はと言うと……
帰り際に預けていた上着の中にあった小さなメモ用紙を思い出していた
ソコには
《バンシーの涙は後2つ》
と、書かれていた
フラーはもう一度カルラを見る
お腹を擦りながら遠い目をしていた
因みにカルラの中でブライアンは【糖脳野郎】という名前になった
ガラの悪さが天井知らずだ
さて、どうするか
何だかんだ自分はこの友人を守りたいのだと自覚するフラーだったのである