ざまぁヒロインの攻略対象ミハエル・ロイ・ミレーニアは生き抜きたい②
コロナに負けず
時間を見つけて更新したいです
時間がある方、どうぞお付き合いください
力いっぱいカルラを抱きしめるキリオを見ながら……いや、コリンを見ながらミハエルは考え込んでいた
いくらコリンが神に愛される存在であれ、これまでの人生は彼にとって幸せだったのか
答えを出すには時が何度も廻り過ぎていると
ミハエル自身が彼と一緒に何度もタイムリープしていく中で
思い通りにいかなかった事によっぽど腹が立っていたのだろう
〘バンシーの涙〙で意識が混濁してるさなか
彼女はミハエルの精神の世界の中に現れたのだった
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「其方がミハエルだな?」
そう、問いかけた幼子の姿の彼女は
テュケーと名乗るそれはそれは美しい女神だった
「どんな用件で?」
「其方は私が恐くないのか?」
「まぁ……何度も死んでますし……」
「おかしな人間だな」
呆れた様に笑った彼女はテュケーと名乗り、自分がこの世界の創造主なのだと話した
「創造主ですか?」
「いかにも」
「こんな、何度も何度も人生をやり直すこの世界の?」
「いかにも」
「……どんな思惑があってこんな事を?」
苛立ちと、呆れを込めてテュケーを見つめると
面白くて仕方がないといった感じでミハエルを見つめ返し言い切った
「其方の親友が幸せを掴むまでこの世界は巡る」
何を言われているのか分からず、ポカンと見つめ返すと
真顔になったテュケーが再度言い放つ
「其方の親友が幸せを掴むまでこの世界は巡る」
頭を抱えながら言葉を探す
タイムリープはきっと誰かがキーとなっているとは思ていたが
やはりコリンという事実に
ミハエルは感情がなかなかついて行かなかった
「……コリンの幸せとは?」
恐る恐る質問してみる
テュケーは待ってましたと云わんばかりに話始める
テュケーの話は実にシンプルだった
この世界を作って暫くは見守っていたが
一向に幸せそうな顔を見せないコリンの事が気になり
何時しか、彼自身が幸せと思うエンディングを見たいと思ったそうだ
しかし、何度巡っても彼は心の底から幸せを感じない
だから、途中で試練としてミハエル自身やカルラを殺したという話だった
「所詮、其方は駒なのだよ」
「……駒ですか」
「物語の通り過ぎる通過点だ。アヤツの幸せの為の道具だ」
ミハエルはここ数回のタイムリープを思い起こす
どの時も、懸命に生き、そして運命に抗った
なのにソレを通過点で道具だと言われ静かに怒りがこみ上げた
「……私の記憶が無い場所でも、ずっとそうやってきたんですよね?」
「そうだ、なんなら其方の中に無い記憶も見せてやれるぞ。折角の機会じゃ、サービスしてやろう」
そう言い放ったテュケーは
ミハエルの額を軽く指で触れた
その瞬間、記憶の渦がミハエルの中に押し寄せてきた
走馬灯の様なその景色は
ミハエルの生きて来た証だった
そして、そのすべての記憶の中に
コリンが居た
表情の無いコリン
笑わないコリン
初めて心を揺さぶられたコリン
どんな時も色んな彼の姿が間近にあった
そんな彼を守ろうと、何度も何度もミハエルは心に誓っていた
そして、その中で自分自身も恋を知り、愛を乞い、人生を謳歌していた
カルラとの2人きりの結婚式はその最たるものだった
失われた時の中であっても、ミハエルは確かにその人生に輝きを持って過ごしていたのだ
「……テュケー様は何故こんなものを見せたのですか?」
「だからサービスじゃ」
「違いますよね?これって忠告ですよね?」
「……其方は実に面白い男じゃ」
そう言うとカラカラと大笑いしてジッと此方を見つめてきた
「其方はもう、十分愛を知り、愛を乞い、愛に死んでおるのじゃ……なのに何故、アヤツはそうならぬのじゃ?」
テュケーは心底不思議そうな顔をしていた
しかし、ミハエルは何故なのか予想がついていた
「テュケー様自身は愛をご存じなのですか?」
まさかの質問だったのだろう
テュケーは考え込んでいた
「愛があるから何度も人生を巡らせているのだが……コレは愛ではないのか?」
「恐らく、それは愛ではないです」
「なら、コレは何じゃ?」
「それは、ただの執着です」
「……其方は命知らずじゃな」
楽しそうに笑うテュケーを見て、ミハエルは更に言いつのってみる事にした
「テュケー様はこの世界をどの様にしたいのですか?」
「アヤツの幸せな姿を見れたら満足じゃ。が、私にもタイムリミットがある」
「タイムリミット?」
「あと数回で、私は本物の神になる。この世界に干渉できるのは後数回なのだ」
「……なら、その数回は何度もタイムリープをする可能性が高いと?」
「まぁ。そうなるな」
ミハエルは考え込んだ
出来れば、あんな苦しい思いは何度もしたくない
が、このテュケーという創造主は恐らく感情が欠落している
ここは腕の見せ所と思い、ミハエルはテュケーと時間が許す限り話し合いをする事にした
「あの……折角なので時間の許す限りお話しませんか?」
「……其方は阿保なのか?今、其方は現世では操り人形の様に個人が冒涜されているのだぞ?」
何となく、感じていたが思った以上の最悪な事態に苦笑いするしかなかった
が、此処で何もアクションを起こさないミハエルではない
自分の出来る限り、此処で爪痕を残そうと腹を早々に決めたのだ
「まぁ……私も其れなりに人生を巡ってますんで」
「其方はアヤツと違って妙な考え方をするのだな」
その後は殆どが雑談だった
テュケーの作りたい世界についてとか
コリンに何を望むのかとか
アリアの何がお気に入りなのかとか
テュケーは時間が経つにつれ、その容姿と相違ない言葉遣いとなっていた
ミハエルは何だか目の前の女神が気の毒になってきていた
それは、彼女が〘神になる〙という、大義の前で自分らしさを見失っていた気がしたからだ
神とて目の前の人物には感情があるのだ
彼女はもしかしたら人一倍虚しさを抱えているのかもしれないとも思った
「……テュケー様は何でそんな話し方をするのですか?」
「其方の着眼点はやはり不思議だ。そんな事どうでも良いではないか」
「いやぁ~。容姿と言葉遣いがチグハグで違和感しかないですよ?」
「……そうなのか?」
「はい。子供の姿で尊大な言葉は印象がイマイチです」
テュケーは考え込みだした
そして、指をパチンと鳴らすと幼子から美少女へと形を変えてきた
「コレでどうじゃ?」
「話し方も変えた方が……まだまだチグハグですね」
「コレでどう?」
そう言った瞬間、また幼子に戻った
その変化にミハエルは驚いたが、それ以上にテュケーが驚いていた
「はて……?何故じゃ?」
「……あの、仮説を1つ良いでしょうか?」
「問題ない。話せ」
テュケーの了解を得たミハエルは思ったままに話してみる事にした
「やはり、コリンが愛を知らないように、テュケー様も愛をご存じないのだと思います」
「其方……ワラワの事を馬鹿にしておるのか?」
「いえ。そもそも何年間も……何十年、何百年とテュケー様はその幼子の姿なのではないですか?」
「いかにも」
「それは、恐らく神の試練の1つ。〘愛を知る〙に直結しているのだと思います」
「……続けよ」
「テュケー様はコリンが気になると言っておられますが、そこに愛が無いので心が育ってないのです」
「……手厳しいの」
テュケーは苦笑いをしていた
ミハエルは悩んだが続けることにした
「テュケー様が恐らく、本当の意味で愛を知る事が出来れば、その容姿も更に神に近づくのでは考えたのです」
「つまり、ワラワは世界を作るにはまだまだ赤子レベルという事か?」
「恐らく。そして、テュケー様の姿、形が本当の意味で女神レベルになった時、本物の神になるのではないでしょうか?だから回数うんぬんは関係ないと思われます」
テュケーは考え込む
幼子の姿で
しかし、美少女なのは変わりないが
その姿は弱り果てている様にも見えた
「正直、ワラワはそこまで考えた事が無かった……が、言われてみれば思い当たる節もある。ワラワは今後どうするれば良いのじゃ?」
「コリンの事を一途に愛してみるのです」
簡単な事だが、感情が欠落している相手には難題だと思う
が、コレは必要な事なので言ってみる事にする
どうせ、今世もミハエルは死ぬのであろう
ならば、言いたい事は言わないと割に合わない
「コリンの事はずっと気にかけておる」
「テュケー様、それは愛にまだなっておりません」
「なら、どうすのじゃ?」
「まずは、下界に降りて彼と話してみるのです」
「……ワラワは神ぞ。他の案は?」
「ならば、カルラの真似をするのです」
「……ワラワのお気に入りはアリアなのだが?」
「アリアは貴族の令嬢のトップです。真似するにもハードルが高すぎます」
「……カルラは平民出身だから感情が出やすいという事か?」
「そうです。そして、コリンの一番の心の拠り所でもあります」
テュケーは不満そうに口を尖らせた
ミハエルは面白くなって、思わず声を上げて笑った
「そういった、素直な姿もテュケー様は似合いますね」
「……其方は罪深いの」
「教育の賜物ですよ」
ミハエルがそう言いうや否や
意識が遠のき始めた
テュケーは残念そうな顔をしながら、笑顔でミハエルを見つめた
「其方のアドバイス。よく考えてみる事にする」
「はい。また、お会いできるのを楽しみにしています」
「ミハエル、最後に其方に聞く。其方は何を望む」
ミハエルは満面の笑みでハッキリと伝えた
「私の願いは子供の頃から変わりません。貴方も良くご存じでしょう?」
その言葉を聞いたテュケーは大笑いしながら手を振ってきた
ミハエルはその後、意識を取り戻しカルラを助けに走ったのだが……この時も失敗してしまった
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目の前の姿を改めてよく見る
カルラを抱きしめるコリン
コリンの思うようにさせているカルラ
恐らく、今世で初めて訪れた場面だろう
ミハエルは空を仰ぐ
テュケーはあの後、どんな風に心の機微が育ったのだろうと
「テュケー様は本物の女神になれるのだろうか……」
呟いたその言葉に反応する様に
優しい風が、ミハエルの側を通り過ぎていった