ざまぁヒロインの幼馴染は時を越え思いを叶えたい!⑨
「俺はもう狂っているのかもしれない」
そう呟いた少年は物陰に隠れながら1人の少女を見つめていた
背後には3人の男の子達が行動を共にする
ミハエルは思ったコレは重症な病なんだと
デニスは実感したコレは主に訪れた人生の春なのだと
フラーは辟易したコレは何故アイツをばかりを見つめ続けているのかと
そして、一心不乱に視線を送っているその少年こそ、後の賢王である帝国の小さな太陽コリン・ロキ・リリーベル第2皇子だった
またもや5歳からの再スタートをきった4人はさっさと合流しコリンの熱い希望に辟易しながらも【カモメ商会】の本部前まで来ていた
物陰から入り口を覗いていた少年達は大変目立っていたが、大人達は
「将来あそこで働きたいのねぇ~」とか「男の子達の憧れの仕事よね」とか「誰かへのプレゼントを買いに来たけど気恥ずかしいのかな?」とか思われていた
何時間も待つつもりだったコリンは来てすぐに、入り口の所でチラシ配りをしていたカルラを見つけ発狂した
そして、そんな姿を見てミハエルはドン引きし、デニスは涙目になり、フラーは馬鹿なのかと怒った
そんな友人達の罵声など気にならない程コリンは胸を熱くしていた
そして気が付いた、コレがマキシムが言っていた『彼女の前でだけ人間になれる』という感情なのだと
どうやら現世のカルラはタイムリープをしていな様で記憶が無いみたいだが関係ない
コリンは勇気を出してカルラに話しかけることにした
「あの……チラシを1枚ください」
「……アンタ、それ言うのに何分かかってんの?」
「……えっ?」
「アンタずっとアソコにいたじゃん」
「あ……あの……」
「ふ~ん、ハズカシガリヤなんだね。でもさぁ、時間って『ユウゲン』なんだよ?」
「……ん?」
「だから、ムダな時間をすごすと、おカネにならないってこと」
「……はい」
「いい?だからこれからはチラシくらいさっともらいなよ!」
そう言って、カルラはコリンの背中をバシンと叩いた
コリンは感動した。念願かなって逢えたカルラに喝を入れて貰えたことに
「あの……ありがとう」
「いえいえ~こんごともごひいきに~」
そう言ってカルラはキビキビとチラシ配りを再開した
コリンは宝物の様にチラシを抱きしめながら仲間の下へ帰った
その様子にミハエルは病が重すぎると悟りをひらき、デニスは勇気を出して行動した主に感動し、フラーは偉そうな態度のカルラにプンプン怒っていた
しかし、目の前の【氷結の帝王】とまで呼ばれた男の変わり様に余計な事は言わなかった
そして3人は誓い合った
〘現世ではカルラと多くの時間を過ごせる様に全力でサポートしよう〙と
そうするには何が必要か……
ミハエルは焚きつけた『取り敢えず、ここ2年くらいで皇太子教育を終わらせておこう』と
デニスは提案してみた『それが終わったら商会に潜り込んでみるのは面白いのでは?』と
フラーは囁いた『幼少期を一緒に過ごして思い出をもっと作ってみたら?』と
真剣にアドバイスを聞いていたコリンはその後、予定の2年を大幅に短縮し、1年で皇太子教育を終わらせてしまった
そして、父である皇帝に「商民の暮らしを肌で感じて学びたい」と切望した
皇帝は悩み、一番治安の安定しているミレーニア王国の国王に相談してみた
すると、そんな無理難題に頭を悩ませる国王にミハエル皇子がアドバイスを送る
「最近、急成長している《カモメ商会》は何のしがらみのない商会だから丁度いいのでは?」と
かくして、多くの人の協力を得た帝国の若き太陽は
魔法で茶色の髪と茶色の瞳という地味な容姿に変装させ、偽名でキリオと名乗る事にした
また、従者のルスラン、執事のグレゴリーの2人は共に
カモメ商会へ保護者兼護衛兼見習いとして一緒に社会勉強をする事となった
設定上はグレゴリーは父親、ルスランは従兄となっている
協力者はカルラの父であるカモメ商会の会頭セルゲイのみ
セルゲイはノンビリとした性格でありながらも商売人だった
彼は帝国での流通経路の確保を交換条件に入れたのだ
下準備をしっかりしてドキドキしながら再会したカルラの一言目は強烈だった
「アンタのヘンソウどっちが本物?」
しかし、病に侵されているコリンはそれすらも嬉しかった
「キリオと言います。初めましてカルラお嬢様」
「……ふ~ん。ナイショなんだ。いいよ!私じぶんでコタエみつけるから!」
「最初は何をしたら良いでしょうか?」
「う~ん。たんけん!!!」
カルラに急に手を引かれキリオになったコリンは慌てる
年の近い子供同士が手をつないで探検するなど、今までのコリンの人生では考えた事もなかったのだ
カルラの前ではコリンは《帝国の小さな太陽》ではなく
コリンはコリン、コリンはキリオ、ただそれだけ
つまりは、ただの年の近しい人間なだけであった
ソコには普段当たり前の様に降り注ぐ人々の羨望や期待や嫉妬が一切なかった
ただ時間を共有していく事、そして誰かと利害なく日々の生活に楽しみを見出す事に、今までの人生で初めて心の中がジンワリ温かくなる
そして、この日を境にコリン改めキリオの人生は色づき始めたのだった
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【カモメ商会】で見習いを始めて早6年
11歳のキリオにとって毎日が宝物の様な日々だった
只今10歳のカルラとの毎日は刺激が強く、年相応の遊びを知る事が出来た
カルラは8歳になってから何度も商船にコッソリ乗り込んでは兄のヨハンに怒られていた
また時には、上手く隠れ切って異国の地で相変わらず値切り交渉をして見聞を広めていた
現在3歳の弟のレフは早くに母親を亡くしたためカルラにべったり……かと思いきやキリオに懐いていた、純粋に可愛いと思っている
何時の間にかグレゴリーはセルゲイの右腕になっており
ルスランはヨハンの相棒みたいな感じになっていて
何だか新しい家族のカタチみたいだとキリオは密かに喜んでいる
毎月2度は報告会としてデニスの実家であるワイズマン邸で仲間とも集まっていた
ミハエルはアドバイスとして「聞き上手になれ」といい
デニスは「気配り上手はポイントが高いし、ヨハンも高評価をくれる」といい
フラーは「アイツは食い物与えりゃ誰でも好きになるよ」と投げやりだった
それでも、来る学園生活を考え、何やら水面下で準備していてくれるようだから有難かった
カルラは常にキリオに言う「感謝の無いヤツはクソだ」と
吃驚するほど口が悪い
聞いた側から後でヨハンが頭を殴っていた
ヨハンはハイネリーク家が男爵の爵位を貰った事もあって、言葉遣いに凄く敏感だ
成金と言われてるからこそ最低限のマナーとして必要だと周りに説いている程に
貴族になってもカルラは変らない
少しでも目を離すと何処か遠くへ行きそうで目が離せない日々にキリオは充実感を覚えていた
心配し過ぎてカルラの為に魔具の開発に集中していたら
商会で売り物になる新商品をバンバン開発してしまった
そのお陰なのか、キリオに対する周りの評価は上がっていく一方だった
やりすぎたかなぁ……と心配していたら案の定ミハエルからクレームが入った
それ以来、ちょっとセーブしながら行動している
タイムループを繰り返す中で、キリオは今まで一度も恋愛にしろ、結婚にしろ、感情が必要と考えた事が無かった
しかし、カルラと過ごす中で最初は自分的には《友愛》と思っていた感情は、ゆっくりと《親愛》に変わり、いつの間にか《独占欲》になり、最終的に《恋情》へと変わった
自分以上に彼女の事を理解できる人間など居ないと胸を張って言える自分の事も嫌いじゃない
無意識にキリオはカルラに求めた、自分の事を知って欲しいと
かわりにカルラはキリオに求めた、キリオ自身が己を愛してやる事を
最初は意味を理解できなかったが、キリオは少しずつ、カルラが何故それを求めて来たのか理解できるようになってきた
キリオはカルラと居ると、他の誰もが教えて貰わなくても出来ることが、自分には出来ていなかったという事実を知ったのだ
キリオはやっと人間らしく生きる術を知り、自分の中にもマキシムが居ると実感した
そこからの毎日は更に楽しくなり、もはや帝国へ帰る気など無くなり始めていた
しかし、楽しすぎてキリオは忘れていたのだ
自分はタイムリープしている事を……
そして、アリアローズ・キンドレッド伯爵令嬢との出会いでキリオは自覚する
運命の輪は再び動き出した事を
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アリアローズ・キンドレッド伯爵令嬢との出会いからカルラは少し変わった
正確には高熱を出して倒れてから変わった
商品もやたら革新的な物を提案してきたり
デザインなども拘る様になった
それだけじゃない
話し方も、考え方も、将来の見据え方も……何かを考えては脅えたりもする様になった
キリオは悩んだ
何処まで聞き出していいのか
しかし、カルラはキリオとの時間は以前と変わらず大切にしてくれているので
自分から言いたくなるまで見守る事にした
そんなある日の事だった
「キリオに提案です」
「何?」
午前中の家庭教師による授業を終えたカルラと、2人でノンビリ昼食を食べていた時の事だった
「今後さぁ、商会の商品以外に2人だけのブランドを作ってコッソリお金儲けしない?」
「直ぐにヨハンさんにバレるよ」
「う~ん。でも、私が将来独立したい事は知ってるはずだから、商会の仕事の合間にやってるなら見逃してくれると思うんだよね」
「まぁいいけど。何がしたいの?」
「やる事は普段と変わらないけど、商品に【ロゴマーク】を入れて先ずは存在をアピールしたい」
「……カモメマークに対抗だから……カラスとか?」
「流石にそれは怒られそうだから却下」
「ならどうする?」
そう聞くと、ゴソゴソと紙をカルラは広げた
ソコには【K&K】と書かれていた
「なんで【K&K】なの?何の略?」
「【K&K】は【カルラ&キリオ】の略」
「カルラはCだろ?」
「良いの!ローマ字表記なの!!!」
「なんだそれ?」
「う~ん秘密文字みたいな……この世界では暗号みたいな?」
「……よく分からないけど、気にっているんだな?」
「うん!」
「なら、それを採用しよう」
「キリオ大好き!」
そう言って満面の笑顔を見せるカルラにキリオは心底弱いと改めて自覚する
遅くに開いた初恋の花はこうも狂い咲くのかとミハエルの言葉が脳裏をかすめる
その後、キリオが一足早くウラヌス学園に入学するまで
K&Kはマニアックな商品を多数取り扱うブランドとして知名度を上げていった
新作商品は一緒の時にしか作らないとルールを設けていたのでキリオは安心しきっていたのだ
後に、カルラの好奇心を甘く見ていたツケがその1年後にくる事になって
キリオは本気で反省する事になるのだった……
師走の仕事の都合上、年内完結が難しくなってきました
なので……年度内完結を目指して完走する予定です
もうしばらくお付き合いください
よろしくお願いいたします☆彡