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ざまぁヒロインの幼馴染は時を越え思いを叶えたい!④

前回のタイムリープから今世に来て早2週間になる

現在のコリンの年齢は5歳である


今世でも、自分の能力は隠し第1皇子の支持に回る予定をしているが

前回の事を考えると正直な所、心がポッキリ折れていた

幸せな時間が多すぎた余波なのは分かっていたが

上手く気持ちが切り替えられなかった


今日は自分の末の妹である第3皇女のお披露目会だ

先日産まれたばかりの妹は、自分と同じ黒髪・黒目をしていた

皇帝はその事に殊更喜び『第2皇子は不義の子』と囁いていた者を追加で粛清していた

結局、自分が言いつけなくても死人は必ず出ていたのだと今世で初めて知った


「どうしたのですかロキ?」


母に尋ねられて、此処が祝賀会の真っ最中だった事を思い出す


「……少し疲れたみたいです。申し訳ありませんが御先に失礼しても宜しいでしょうか?」


そう聞くと、母と皇帝陛下は心配そうな顔をし、直ぐに許可してくれた

側に居た正妃と第1側妃には呆れた視線を貰ったが

正直、子供相手に大人気無いとしか言いようがない


城の中にある庭園を通って自分達第2側妃家族の住む離宮へ行くのだが

コリンはその道を密かに気に入っていた

見上げた先の夜空には沢山の星が輝き

花の香りに誘われて少しだけ夢見心地な気分になった


「殿下。誰かいますので立ち止まってください」


そう、小声で話しかけてきたのは従者のルスランだった

ハッとして前方を見ると、子供の様な影が見えた

緊張していると、妙な調子っぱずれな歌が聞こえた


『指切り拳万 嘘ついたら針千本のます 指切った』


その瞬間、コリンは走ってその相手に飛び掛かった


「殿下!」


ルスランの声が静かな闇夜の庭園に吸い込まれていく

掴みかかったその肩を強引に引っ張ると同い年位の子供だと分かった


「いてぇよ。お前って意外と馬鹿力だったんだな」

「……お前……もしかして記憶が」

「……久しぶりだな!コリンは今は5歳か?私がそうだから合ってるよな?」


ソコに居たのは、金髪・碧眼の王子様

ミレーニア王国の皇太子・ミハエル・ロイ・ミレーニアだった


「なんで……?だって今までは一度もこの祝賀会には参加していなかったじゃないか」

「うん。でも、コリンの術式のお陰で記憶が私の中に残ったのだ。だからコリン独りに頑張らせるのではなく、私も頑張ってみようと思って一か八かで今日来てみたんだ」


へへへと笑う彼に、コリンはボロボロと涙を零した

未だかつて、これ程までに自分の事を信じて心を預けてくれた人間は居たのだろうか?

背後に居たルスランは何が何やらという顔をしていたが、コリンがミハエルを離宮に一緒に連れてくと言うと訝しげにしながらも承諾した

道中で彼がミレーニア王国の皇太子として、口をあんぐりとしたのは此処だけの話だ



++++++++++++++++++++++++


離宮にあるコリンの部屋はかなり豪華な部屋だった

正直、この部屋を見る限り

前の世界でも皇帝が最初からコリンを時期皇帝にするのは既定路線だったのではないかと思うし、実際の所、前回も最終的にコリンが皇帝になった

もしかしたら、前回の留学も可愛い我が子の最後の思い出作りの為にさせてくれた可能性も高いとみている

ミハエルも何か思う処があった様だが、苦笑いをするだけにとどめてくれた


2人だけの部屋にお茶やお菓子が用意され、人払いをしてからミハエルの親へ伝言を頼む

帝国の第2皇子と仲良くなったので今夜は離宮に泊まると事前に言っておいたのだ

因みに、既に2人は寝間着姿

子供らしくフワフワな装いに、中身は大人な2人は少々気恥ずかしかった


「さて、タイムリープをしてみて思ったけど、コレ思った以上にストレスが多いね」


ミハエルは事も無げに話しながらお菓子を頬張る


「何か不都合でも?」

「う~ん。中身が大人のまんまじゃん?天才扱いがちょっと辛いかなぁ」

「俺はずっとそうだから、その苦労は分からないな」

「うわぁ~感じわりぃ」


そう言って笑う彼の様子に頬が緩む

その後は軽い近況報告をし、前回の2人の死後の話をする


「そっか……フラーはミレーニア王国へ行ったきり帰ってこなかったか」

「ああ。因みに前回は、アリアローズ令嬢はミレーニア王国の隣の国【ザハルト王国】の皇太子と結婚した。子宝にも恵まれ幸せそうだったのは最初だけで、その後国王になった夫の愛人に刺されて死んだよ」

「……それって今までと違ったって事?」

「そうだな。お前も気が付いていたのだろう?今までのアリアローズ令嬢の夫は誰か?」

「……正直。私じゃないならコリンだろうね」

「そうだ。俺は何度も彼女と家族になっている。しかし、俺は彼女を最後まで幸せにする事は出来なかった。だから前回は違う道も良いと思っていたのだが……なかなか難しいものだな」


ミハエルは考え込みながらコリンを見る


「聞いても良い?」

「何だ?」

「アリアローズ令嬢の事は好き?」

「お前の言っている好きが恋情ならば該当しない。所詮は政略結婚だ」

「本当に?何度も結婚してきたのに?」

「残念ながら、彼女の心には他の人間が居た。しかし……教育の賜物なのだろうな。アリアは誰よりも貴族である事に誇りを持っていた。貴族以外との結婚は彼女という人生を考えると選択するのは難しいだろう」

「……結婚後に愛を知るというパターンだな」

「我々とてそうだろう。もっとも、お前は違ったがな」

「そうなの?」


苦笑いをする。薬のせいで正気を失っていたとはいえ、ミハエルがカルラと何度も心を通わせていたのは事実だったからだ

実際、過去の何度かには学園内にあった教会で2人がひっそりと2人だけの結婚式を挙げていた話をアリアから聞いていた

アリアが知っている理由は、後にミハエルの弟である第2皇子がカルラのベールを用意したのだと彼女に話したからだそうだ

アリアは寂しそうに、そして少し羨ましそうにその話をしていた


ミハエルは本物の愛を知ってから死んでいる

それに比べ、自分は今まで本物愛を一度も手にしたことが無いのだ

その日が来る事は無いのではないかと此処までくると本気で思う


「ふ~ん。誰とかは聞かないけど今世では私は一味違う人生を目指すよ」

「と言うと?」


何を言い出すのかと思いながらミハエルを見ると、真顔でコリンを見つめて言った


「今世こそ。お前にお前らしい人生を過ごさせてやるよ。これは私の決意だ」


そんな事を言ってくれた親友にコリンは必ず一緒に生き残るのだと心に決めたのだった



++++++++++++++++++++++++++++



それからの数年間

コリンとミハエルは更に中を深め、積極的にお互いの国を行き来した

そして来るべき未来に備え、事前に前回関わりのあったカルラとフラーの状態の確認もした

残念ながら、2人はミハエルとは違い記憶を持っていなかったが

コリンとミハエルはそれでいいと判断した

2人で今回は未来を変える事にしたのだ


その為に、コリンとミハエルは早々に皇太子の座を得て教育もさっさと終わらせた

そして、勉強と称し外遊し、他国の情勢や秘密、秘薬などの情報を片っ端から集めた

毒殺されそうになっても特効薬があればいい

暗殺されそうなら組織を解体すればいい

利益にならない関係は切捨て、時には粛清すればいい


若き2人の獅子は誰もが憧れる存在になった

両国の王は喜び、最後の思い出にとミレーニア王国での学園生活をプレゼントしてくれた

今世では確かに今までにない風が吹いている……

コリンは肌で感じていた


しかし、やはり難題にもぶつかった

そこで、2人は不本意ではあったが学園に入学したばかりのカルラと改めて接触した

今世での初めての接触はカルラが16歳になる前のこの時だった

学園の中の古びた教会跡地の中で3人は魔法陣の術式の書き換えの話合いをした

カルラには仕事と称してアドバイザーとして参加してもらった

本人は「割のいい仕事」と喜んでいた


学園生活の大半を3人で教会で過ごしていた

術式を書き換える中、ある日カルラがやけに神妙な顔をしてコリンに話しかけてきた


「ミハエルは今日は来ないって」

「カルラは何で難しい顔をしているの?」

「うん。この術式さぁ危険だけど魔法陣を媒体に入れて持ち歩くと効果が強いかもしれない」

「どんな?」

「例えば……舌とか?」

「何で舌?」

「人目に付きにくいでしょう?多少、魔法陣の後が残るかもしれないから念のためね」

「カルラならどこに入れたい?」

「私?私なら瞳かな」

「……危ないって言ってたのに何で?」

「確実に持っていたいからかなぁ」


ワハハと笑ったカルラはその後もコリンとミハエルの卒業間近まで熱心に魔法陣の術式研究をつづけた

カルラは学園に馴染めなかったようで教会にもっぱら入り浸っていた

心配したミハエルは自分の魔力を磨き、空間遮断の魔法でカルラの為に安息の地を用意してやった

この魔法は優れた魔法で、血の契約があるため簡単に人が入れないようになっていた

どうしても入るとしたら術者より魔力の強い者が魔法で壊す事しか無理な仕様だ


安寧の地を得たカルラは更にイキイキし始め

将来は、商会も良いけど副業で魔法陣のアドバイザーなんかも良いかもとホクホクした顔をしながら楽しそうに過ごしていた


そんな中不可解な事が起こった

学園の文化祭の余興で後夜祭があったのだが

皆がタキシードとウエディングドレスを着て参加するという事になったのだ

勿論、どっちを着るかは個人の好きな方で良い

しかし、正装なので必ず着る必要があった


コリンとミハエルは首を傾げた

今までに無かった展開だったからだ

今世でコリンとミハエルは生徒会長と副会長を2年生までしていた

だが、3年生になり交代し、現生徒会はミハエルの弟が務めていたのだ

本人に確認した所「ファンの生徒達に貴方達のタキシード姿が見たいと懇願され仕方なく苦肉の策を出したんですよ」と溜息を付きながら言われた


「コリン……私の心配し過ぎかなぁ?」

「ミハエルも変だと思うか?」

「でも……私達がちゃんと対処すれば乗り越えられるよな!」

「おう!今度こそ、皆で幸せになろう」


若い2人の獅子はその後、この事を酷く後悔する事になる











後夜祭当日のことだった

コリンはミハエルと1日行動を共にするはずだったのに予告もなく帝国からの使者が来たのだ

しかも一緒に婚約者まで連れて来たものだから1日エスコートをする羽目になってしまった

ミハエルは巻き込まれるのは御免だとばかりに、さっさと会場から逃げ出し何処かに避難しにいった

カルラは最初だけ後夜祭に参加していたが、気分が悪くなったと言って途中から姿を消した

恐らく、教会に籠って研究でもしているのだろう

後夜祭でクタクタになったコリンはその日

寮の自室にまっすぐ帰り、朝方までぐっすり熟睡したのだった


翌朝

ミハエルの姿が無いと学園中が大騒ぎになっていた

王城から兵士がやってきて、寮や学園内での捜索が始まった

ミハエルの姿が無い事に気が付いたのは第2皇子である弟の従者だった

朝、昨日の後夜祭の事で確認があったので第2皇子の部屋へ来るように使いをやったそうだ

そしたら、部屋からは返事がなく、寮長に頼んで開けて貰ったら蛻の殻

そして、現在に至るワケだ


胸騒ぎがしたコリンは自分も捜索に加わると宣言し

マルクとデニス、アリアの寮から引っ張て来たフラーの3人と一緒に捜索する事になった

コリンは最初から行き先を決めていた

居るとしたらあの場所しかないからだ

3人を引き連れて向ったのは教会の跡地だった

血の契約者であるコリンが居るならば3人も一緒に入れる……最初からそのつもりだったので途中でついてきていた密偵も撒いてきた


古ぼけた教会を見上げた3人は「此処が秘密基地かぁ」と呑気に笑っていた

実はマルクやデニスは今まで、何度もミハエルに居場所を聞いていたのだが教えてもらえなかったらしい

フラーは卒業生だったので教会の存在は知っていたが、アリアに関係の無い事だったからスルーしていた様だ


「でも、こんな所にあるなんてビックリ!しかも、何でコリンにしか開けられないんだ?」

「血の契約者だけが開けれる様になってるんだ」

「血?」

「そう。登録してある血液に反応するんだよ」


そう言って、ポタリと親指から血を落とす

反応した扉は青く光るとドアノブが現れた

マルクはその様子に興奮していた

いつもの様に扉を開けると大声がした


「コリン!来るな!!!」


その声に4人共笑みが消える

視線の先には真っ白なドレスを血に染めたカルラと支える血に染まったタキシードのミハエルが居た

その2人の先に居たのは暗器を持った5人の影だった


一番に動いたのはフラーだった。彼は自分の暗器を5人の影に命中させた

次にコリンが魔法球を飛ばし

そこへ剣を片手にデニスが突っ込んでいく

マルクは外へ信号を送った


「コリン!絶対こっちに来るな!!!」


そう言われても止まれるワケがなくマルクを連れてフラーとデニスの後を追う


「ミハエル!絶対助けるからな!!!」

「くそっ……分からず屋め……!」


そう言い捨てたミハエルはカルラを抱き上げてその場の全員から距離を取る


「……殿下?どうしたのですか?」

「ミハエル?」

「殿下。その手に居るのはハイネリーク令嬢ですが、この暗殺者といい、何があったのですか?」


先程の5人は突っ込んでいったデニスの手により捕縛が完了していた

彼はハイネリーク家の捕縛のアイテムを使用していた

5つも持っているなんて驚きだった


「……コリン」

「なんだ?早くこっちに来い。手当をしよう」

「……コリン聞いてくれ!コレは大切な話だ」

「……分かった」


そう答えると、ミハエルは泣きそうな顔をしながら真っ直ぐにコリンを見つめる

そして、腕の中のカルラをギュッと抱きしめてから何かを決意した顔をする


「コリン。お前のタイムリープの原因はこの世界の女神【テュケー】のせいだ」

「……女神?」

「彼女はお前を愛している。この場所は空間遮断されているから女神も干渉できないはずだった。なのに裏切り者のせいでカルラは襲われこの状況だ」

「……どういう事だ?」

「私も毒の付いたナイフで刺された。後しばらくの命だろう……カルラ」


ミハエルはカルラに話しかける

カルラはボンヤリと目を開けるとミハエルに頷いた

その瞬間、魔法陣の術式が展開される


「……殿下!?」


マルクが絶叫する


「コリン!来世でちゃんと説明する!!!コリン忘れるな!私達は親友だ!!!」

「ミハエル!!!!!!!」

「っっ殿下!!!」


2人を魔法陣が包む

呆然と立ちすくむコリン、マルク、フラーを横目にデニスはそこへ突っ込んでいく


「殿下!!!」

「デニス……お前もう脳筋キャラやめとけ」


そう言って笑えば糸の切れた人形の様にミハエルとカルラは息を引き取った

魔法陣は確かに2人を包み光が失われた瞬間、教会を守っていた空間遮断が解かれた


呆然と立ちすくむ4人は暫く動く事が出来ず

マルクの信号に気が付いた王家の捜索隊に声をかけられるまでずっと2人の遺体を見つめていた


この後、コリンはアリアと結婚し帝国を治めた

ただ、今までと違ったのはマルクが帝国へ来て、コリンの下で働いた事とデニスが放浪の旅へ出た事、そして予定よりも早くフラーが誰かに毒殺された事だった


今世でもコリンは思いを叶える事は出来なかった

しかし、間違いなく此処から歯車は予定外の方向へと回り始めたのだった


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