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ざまぁヒロインの幼馴染は時を越え思いを叶えたい!②

自分が音をたてずに狂っていく姿は何とも不気味だとコリンは思っていた

何度目か分からないくらい時を越えたが、未だに幼馴染2人の運命を変える事が出来ない


何度目かになるタイムリープは自分の死と共に発動すると気がついてから

少しずつ前の時と違う事をする様にしてきた


そうする度に彼等との思い出は増えていく一方で

その思い出と比例するように孤独が増していった

彼等の居ない世界後は今までの流れに沿って暮らすことが多かった


伴侶はとても素晴らしい人で沢山の子宝にも恵まれた

国は栄え、民は皆幸せそうだった


隣国の脅威も感じることなく

万が一脅威になりそうな物は事前に全て芽を摘んだ


毎度、早々に息子に王位を譲り隠居してからは、魔法の研究に勤しんだ

伴侶はその頃から口には出さないが自分の事を少し恐れているように感じた


来る日も来る日も魔法の研究に明け暮れ

来る日も来る日もあの薔薇園へ足を運んだ


ようやく今までの中でも最高傑作の魔法陣を完成させた時

今世で既に10年以上の月日が経っていた


気がつけば伴侶と最後に会話したのは何時なのか思い出すことが難しく

知らない内に孫が増えていた

しかし、言葉に出来ない充実感があった


気分が良くなったので、後は魔法陣の起動をするだけと思っていた矢先

私の心を抉る事が起きた


何と聖域である薔薇園を勝手に壊したのだ


刈り取られている薔薇の木々と

所々掘り返された土を見て呆然とその場に立ち尽くしていた


「どうかされたのですか?」


そう、背後から声をかけてきたのは伴侶だった


「……この薔薇園は何故こんな事になったのだ?」


私が地を這うような声で彼女に問いかけると、少し緊張した様に彼女は答えた


「私が薔薇園を取り壊し、新しく東屋を建てる様に命令しましたの。貴方も御歳ですし、此処がお好きでしょう?薔薇園の世話も大変ですし、ならいっその事、東屋にして憩いの場にすればと思いましたの。そうすれば私達家族との会話も楽しめますでしょう?」


呆然と伴侶を見つめる瞳は黒く濁って光を映さず話を聞き続けた


「貴方が王位を譲ってから、魔法の研究をされるのは良いのですがここ10年以上、あまりにも家族を蔑ろにし過ぎなのではと思いますの。私達が会話を最後にした日を覚えてらして?一番下の孫が何時産まれたのか記憶にございますか?皆、貴方が取り付かれたかの様に打ち込む姿に最早ついていけないのです」


伴侶の言葉の意味は分かる

しかし、この薔薇園に触るなとアレほど言ったのにも拘らず

悪びれる事なく『家族のため』という大義名分でこの場を荒らした事実に心底軽蔑した


「……私は其方に申したはずだ。此処は私にとっての聖域だと」


そう言って伴侶を見ると彼女は目に涙を浮かべていた

遠くから息子である皇帝が走って此方へ来ている様だった

何か叫んでいるが、知ったこっちゃない


「此処に何があるのか其方は知っているのか?」

「……私は何も知りません。貴方は私に何も仰ってくださらなかったですもの」

「そうか……なら教えよう。其方は知っていたと思うが、此処にはミレーニア王国の皇太子だったミハエルとそのパートナーのカルラが埋まっていたのだ。2人は私の友人だった」


友人という言葉に、伴侶は目を見開いて驚いた顔をした

死体が埋まっている事は知っていても、関係性は知らなかったのだろう


「幼馴染だったのだ。いつか3人で世界を旅する約束をしていたのだ。そんな中で君を断罪するという可笑しなショーが行われた。どう考えてもあの2人らしくない。調べた結果、2人は当時薬を飲まされ、まともな人間と呼べる状態になかった。私はこの2人が嵌められたと知ったのだ。そして沢山の人間を始末した。君はいつ2人が始末されたか知っているかい?」

「……存じ上げません」

「君が我が国に保護された時だ。彼等は回復した意識で真実を話す為に我が国へと向かっていた。その道中に志半ばで命を落とした」

「……そんな……私は何も知らなかったわ!」

「そうだ。皆が其方を気遣い、隠したからだ。そして、当時、私が此処に2人の死体を埋めた事を知って罵倒した人間は全て私が粛清したから暗黙の了解となった」


伴侶はただ茫然と自分の夫を見つめていた

息を切らせながら皇帝である息子が到着すると、彼は母親を守る様にその身の後ろへ隠した


「父上!話を聞いてください!!!」

「私は冷静だ。其方の方が落ち着きなさい」

「……母上はただ、寂しかったのです。父上がこの世で一番愛するのが、この薔薇園という事実が辛かったのです」

「辛いのなら、何をやっても良いのか?」

「そうではありません!しかし、父上は余りにも家族へ思いを向けない事が多すぎるのではないでしょうか?薔薇園だって別の場所にある庭園の中に造り直せばいいだけではないですか。此処に拘り、囚われ続ける意味など無いのです」


浅はかな息子の発言に唯々薄ら笑いを浮かべるしかなかった


「何がおかしいのですか?」

「いや……其方は温室育ちだなぁと思ったのだ」

「父上……言い過ぎですよ」

「母の顔を見てみろ」


そう言われた瞬間、伴侶はビクリと肩を震わせた

振り返った息子は怪訝そうに母を見つめる


「……母上?」

「あっ……あの……私は……」


涙をポロポロと零しながら言葉を紡ごうとするが声にならない様だった


「其方達のいう家族とは随分ぬるま湯の様な関係なのだな」


そんな問いかけに困惑する伴侶と息子を見てから薔薇園の跡地へ歩き出す


「私は血の繋がりではないと思っている。ましてや寂しいからという理由で簡単に人の大切な物を踏みにじっても良い物とは思はない。思い遣り?私は十分自分の出来る限りの思い遣りを持って、其方達にこの薔薇園の秘密を打ち明けなかったまでだ。まぁ……何処かの御喋りが話すかもとは思っていたがな」


薔薇園の中心地には2人の死体がある

ゆっくりとその上に立ち、出来たばかりの魔法陣を繰り出す


「其方達は私の事を狂っているのだと思っているのだろう。しかし、私からすれば其方達の方が正気とは言えまい。何が大切かは人其々なのだからな」


術式はこの庭園に居る人間にしか見えない

つまりは伴侶と息子にしかこの後の展開は見えないだろう

固まったままの2人の姿は実に爽快だった


術式はゆっくりと体をすり抜け、地面へとしみ込んでいった

きっと、彼等の場所へも行くだろう


「私はこの世界には未練など無い。その後は其方達の好きするがよい。そうそう、余談だが、其方が愛していた従者だが、私の共犯だったとだけ伝えよう。彼は私の秘密を共有する仲間だったのだ」


伴侶は大きく目を見開く

何の事かと息子は首を傾げて母親を見るが返事は出来そうになかった


「其方は私に聞いたな?『私はアナタの痛みに寄り添えましたか?』と……感謝はしているが、それは君にも言えるのではないだろうか?まぁ……私がまともな人間ではないから最初から無理な話なのだがね」


ニヤリと笑ったその顔は、まるで子供の様で

2人にとって初めて見る表情だった


その瞬間、コレが今生の別れなのだと悟る


「まって……待ってください……話を……」


そう声をかけた瞬間、辺りは眩い光に包まれた

彼は自分の作った新しい術式をちゃんと完成させていたのだ


そして、彼の立っていた場所には

魂の抜けた彼の人の抜け殻だけが横たわっていた


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