ざまぁヒロインは解決策を見つけたい!
耀晶は焦っていた
兎に角暗闇を見つめながら考え込んでいた
只今、トイレ休憩で立ち寄ったSAでカップうどんを啜りながら出来る事を考え続ける
しかし、何も思いつかない……
(そもそも、夢小説の世界が全て反映されているわけでもないもんな)
粗方読んだ結果、似たり寄ったりの所もあるが、全てが物語の通りというワケでもなく
何処かしら、綻びはあった
まるで、何か見えない力が無理やり力業で最後の死に方だけ合わせている様な内容もあった
(フラーが味方……コレは今の前、私の初めてのタイムリープの世界……そしてこの後は……)
この後、私は確実に死ぬ
雪崩に巻き込まれて死ぬのだ
それは明日
(今日、ホテルに着いて1日オフで明日撮影だよね)
タイムリミットは近付いている、そこで何かできないか
いつの間にか食べ終わった器を見つめながら考えてみても答えは出なかった
その後、1時間程した休憩を終え
再びロケバスは走り出した
相変わらず、噂の女優は私達の側で『マテリアルワールド』の話を嬉々として語っていた
「私の押しは隣国の皇子なんです!」
「あぁ~アリアと引っ付きそうで引っ付かない皇子ね!」
「あの人、絶対好きな人が居て、その人が死んだとかの裏設定がある気がするんです」
「えぇ~最終的にはアリアとくっつくでしょう?原作今は何処まで進んでるの?」
「最終章です。でも、何か今までと作風が変わってしまって、今回は本当に終わると思います」
「終わりそうで終わらない物語が?」
「はい。なんか強い意志みたいな物を感じるんです」
そう言って、彼女はその原作者のSNSを私達に見せてくれた
「こんな投稿があるんです」
「どれどれ?」
「アキラッチ!なんて書いてあるの?」
「う~んと……」
そこにはこんな言葉が書いてあった
《この作品は作者の手を離れ日々皆さんの中で進化し続けている。私の物語はこの章で終わりますが、皆さんの物語の続きは皆さんで紡いでください。最終話は今夜23時にアップします》
「ヤバ!ホテル着いてから読めちゃうじゃん!」
「はい!楽しみですね」
「んじゃ、明日感想大会しましょか!」
「良いですねぇ!!!」
キャッキャしている2人を横目に、私はその言葉を反芻していた
(物語を紡ぐ……)
そうこうしている内にホテルに無事着いた私達はチェックインし、予定の確認が終了後解散となった
シングルルームに入った私は、諸々の確認が終わって一息ついた頃には日付は変わり午前2時前を指していた
(そういえば……物語の最終話見なきゃ……)
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物語は最終的にアリアと隣国の皇子が盛大な結婚式を挙げ、沢山の祝福を受けるシーンから始まる
沢山の歓声と花弁の中でアリアは去っていった仲間や故人に思いを馳せる
そして、自分の為に死んでしまったフラーの事を忘れないと心に誓うのだった
そんな、アリアの心の痛みや葛藤を全て愛で包む隣国の皇子は
優しく死を迎える日まで寄り添いながら支え続けたんだそうだ
最後にアリアは夫に問う「私はアナタの痛みに寄り添えましたか?」と
彼は優しくアリアに微笑みを返すと
その物語は幕を降ろした
補足として書かれていたが
その後、2人の冒険や愛の物語は【マテリアルワールド】と言う小説になり
後世に伝えられていったらしい
勿論、彼等の子孫はその後も賢王と呼ばれる素晴らしい人材ばかりで
長く豊かな国を治め続けたんだそうだ
『王家の秘密の庭には今も尚、沢山の赤い薔薇の庭園が咲き誇っている』
物語の最後はそう締めくくられていた
*************************
………………
……………………えっ?
その文章を最後まで読んで耀晶はフリーズした
本編を最初から最後までちゃんと読んでないから仕方がないが
フラーまで死んでいるとは思って無かったのだ
(しかも、アリアを守って死ぬって……?)
ヤツの性格ならあり得るが、アリアがその後も冒険を続けられたのが不思議でならない
思わず、過去の投稿を見直す
私は第1部しか読んっでいなかったから第2部から続きを読み漁っていく
物語は全部で第13部まである
所々流し読みをしながら進めていくと
フラーは何と中盤の第6部の最後の方でアリアの盾となり死亡していた
第7部はフラーを失ったアリアが立ち直り
第8部ではそんなアリアに思いを寄せるイケメン達の葛藤の物語だった
第9部でアリアは件の隣国の皇子と思いを通わせ
第10部で救済の旅の最後の戦いへと向かう
その後は……裏切りや新しい仲間や救済の方法に甘酸っぱい恋物語を終始織り交ぜて
最後は結婚式で終わったわけだ
確かに……続けようと思ったら続けられそうだとも思ったが
明らかに最終章である第13部は文章がガラッと変わった
作者の決意みたいなものが感じたが、それ以上に……
「そもそも……私の居た世界と大分様子が違う?」
そうなのだ
文化や文明の速度が明らかに遅いのだ
例えば、私が今の前までいた時代は【列車】が走っていた
しかし、物語は結婚式の直前に線路が開通し
多くの遠方の来賓が来たと書かれている
それだけではない
アリアが第7章でフラーを失った悲しみから立ち直るきっかけとなった
地方都市で起こる伝染病
実はもう既に私の実家の商会で特効薬が完成している
何故知っているかというと、私もその開発に携わっていたからだ
何かがおかしい……
〘見えざる手〙
という言葉があるが、それ以上の物を感じる
「何だろう……気持ち悪い……何て言葉が合うんだろう……」
天井を見ながら思いつかなくて、仕方がないので一旦クールダウンを兼ねてホテルの自販機コーナーへ行く事にする
小腹も減ったので大盤振る舞いで何か食料も買ってやろうと財布を握る
カードキーを持ちながらフラフラと別フロアにある自販機へ行くと
直ぐ側で覇気の無い男性が缶ビールを購入していた
見覚えのある人だと直ぐに気がつき声をかける
「こんばんは。マネージャーさんも大変ですね」
そう話しかけると、相手は気を抜いていたのか
肩を大きく揺らして反応した
「お疲れ様です。耀さんは、まだ撮影の準備中ですか?」
その男性は、件の人気女優のマネージャーだった
何度も顔合わせをしているので、挨拶程度の関係だ
「いやぁ~。仕事はさっき一段落着いたんですが、そのせいか目が冴えっちゃって」
「あぁ~わかります。軽いランナーズハイみたいなもんですよね」
「そうなんです。だから、気晴らしに自販機に来たってワケです」
「なら……コレどうぞ」
そう言って、マネージャーさんは持っていたビールを差し出してきた
「えぇ~賄賂ですかぁ?」
「ははは。それも良いですねぇ」
「タダより怖いモノは無しって言いますからねぇ……」
「なら……今度2人で飯でも行きません?」
「……いいっすねぇ。なら、時間がある時にでも」
「耀さん、これ、社交辞令じゃなくて、純粋なお誘いですよ?」
軽く流していた所での爆弾にギョッとする
ポカンと相手を見るとスマホを目の前で軽く振って見せる
「だから……この撮影後に一度連絡入れますね。食べれないものとか無いですか?」
「……あの……仕事関係の人とは極力プライベートで会わない様にしているのですが……」
「はい。なので、コレは内緒で例外って事で」
「内緒で例外……」
堂々と子供みたいな事を言う相手に思わず笑みが零れる
「やっぱり。笑ってる顔、良いですね」
「……キザですね」
「いえいえ。職業柄の褒め上手です」
何だか楽しくなってたので有難くビールは貰って部屋へ帰る事にする
「また、連絡入れますね」
何だか熟れているのは気になるが、何となく騙されても良い気がしてきた
軽く笑るだけにとどめて
ビール片手に部屋へ戻る
そして、夜から朝へ向い始めた外の景色を見て閃いた
「そうか……一か八か……」
そう、心に決めた瞬間
耀晶は何かに取りつかれた様にPCの前に座り込みながら只管タイピングを始めた
ソコには何の憂いもなく
真っ新なキャンパスにジワリジワリと色が滲んでいく様な風景だった