ざまぁヒロインの攻略対象マルク・ルグローブは悩ましい!③
彼女が入学して72日目
私は、先日の事件の当事者であるアリアローズ・キンドレッド伯爵令嬢について調べている
彼女の身に起こった事件がどうも気にかかるのだ
それだけではない
ここにきて思わぬ噂話を聞いた
それは《アリアローズ令嬢を第2王子の婚約者にする》という話だ
しかし、令嬢は今現在我が殿下の《筆頭婚約者候補》として絶大なる支持を受けている
しかも、皇后陛下のお気に入りだ
最早、彼女で決定であろう……皆、口に出さないが思っていた
なのにだ
なのに此処へきて皇后陛下が自分の息子の婚約者にしたいと言い出したのだ
勿論、陛下は激高した
ありえないとバッサリ言ったと噂では聞いた
それもそうだろう
どんなに優秀だろうと彼女には沢山の疑惑がある
そこを無視して王家に取り入れるなどと考えられない
品位、品格、伝統
王家とは言葉以上の制約があるのだ
疑惑が晴れない限り、筆頭婚約者候補の看板はおろか王族の仲間入りは難しい
例え第2王子が継承権を放棄したとしても、アリアローズ令嬢は【傷物】の噂もある
簡単に事は運ばないだろう
今日は学園が休みなのもあり私は現在父の執務室を目指している
宰相の息子となると、城の出入りもしやすい
それは、騎士団長の息子のデニスも同じで
学園で会わないのに城で会うなどよくある話なのだ
「それに気になるんだよな」
それは我が殿下
少し前までは日に日に怒りっぽくなり、急に護衛も付けずに姿をくらませていたのだが
ここ2日程は落ち着いているように感じる
たまにカルラ令嬢を見つけて熱心に見つめていたが、以前の様に追い掛け回さなくなっていた
心境の変化が急激すぎてついていけないのが本音だ
デニスはそんな殿下を見て何やら考え込んでいた
どうしたのかと聞くと
「お前はさぁ……殿下を国王にしたいか?」
「はぁ!?何を言っている!?!?!?当たり前だろう!」
「俺も殿下を国王にしたい。でも、殿下は何を考えているんだろうな」
「……どういう意味だ?」
「殿下って人が好いだろう?」
「ああ。だから多くの家臣の心を掴んでいる」
「だからこそ不思議なんだ。あのお人好しの殿下なら王位継承権なんてとっくに第2王子に譲ってそうじゃないか?」
「……前皇后に申し訳ないとも思っているんじゃないか?皇后陛下にも恩を感じている様だし」
「そうなんだよ!そこだよ!恩を感じているんだよ!」
「?何が言いたい???」
「恩を感じてるなら、殿下なら譲るだろ?」
軽々しく言ってのけるデニスの腹を思いっ切りグーでパンチする
しかし、ヤツの腹筋は鋼の様だったのでこっちの手の方がダメージがデカかった
「急に何するんだ?」
「お前が軽々しく……!言って良い事と悪い事の区別がつかないのか!?」
「でも、お前だって考えたことがあるだろう?」
「でも殿下以上の人材はいない」
「そうだ。だからこそ、出来レースの《皇太子殿下の婚約者探し》が行われていたワケだ」
デニスの物言いに息を飲む
他家の事を考えると言えなかったが
あんまりにも他の2人に比べてのアドバンテージがアリアローズ令嬢だけ有り過ぎだとは感じていた
実は他の2家には言っていないが、殿下との2人きりのお茶会は彼女だけだ
後の2人は殿下と合わせて3人でしているか、妹君のマリアンヌ様がご一緒される
それだけではない
皇后陛下は自分の皇太子妃時代のアクセサリーやドレスをリメイクして彼女にプレゼントしているようだ
これでは誰が見ても次期皇太子妃は明らかだ
でも、殿下はアリアローズ令嬢を好ましく思っていない様だ
だからこそ、他家の令嬢達は自分のチャンスを虎視眈々と狙っている
「俺はさぁマルク。殿下はなんだかんだ言って国王になるつもりなんだと思う」
「そう教育されているしな」
「違う。そうじゃない。たぶんだが……そんな腑抜けた理由じゃない」
「……前皇后の事か?」
「ああ。殿下はきっと真実に辿り着いている。そして、その為に地位を必要としているのではないかと俺は思う」
「デニス……お前意外と考えられたんだな」
デニスは呆れたを顔しながら此方を見ると「ハハハ」と軽く笑った
脳筋の癖に……無理して色々考えさせたことを申し訳なく思う
「俺はさぁ。殿下が好きだ。だからこそ、あの日アリアローズ令嬢の姿を見つけるために学園中を走り回った」
「……やはり監視していたのだな」
「ああ。でも、アリアローズ令嬢は間違いなくシロだ。犯人はもっとヤバい奴だと俺は踏んでいる」
「心当たりがあるのか?」
「その心当たりに確信をつける為に城へ来た」
「私も一緒に行ってもいいか?」
何やら嫌な予感がしてデニスに確認する
しかし、デニスは困った顔をしてあっさり言い切った
「お前って、嘘つけないから今はパスだわ」
ムカつく!
次期宰相を目指している人間に対して何たる暴言!!!
ムキー!!!と怒っているとデニスは笑いながらその場を走り去った
「何か分かったらちゃんと報告しろよ!!!」
「ああ!」
そう言いながらニカッと笑ったのを見た5時間後
城の井戸の中から血だらけのデニスが発見された
デニスは重症
腹と背中を数か所刺されていた
意識は未だに戻らない
彼は気を失う直前に緊急用の救助信号の魔法球を3つも打ち上げていた
まるで、こうなる事を予測していたかの様に
現場に駆け付けた兵士たちは直ぐにデニスを助けたので一命は取り留めたが
もう少し遅かったら死んでいただろう
「独りで行かせた私のミスだ……」
後悔に押しつぶされそうになっていたら殿下が方に手を置いて軽く叩いた
まるで、子供をあやす様な……そんな優しい叩き方だった
「マルク。僕は賭けに出るよ。予定より早いが仕方がない」
「……殿下?」
「君は僕の代わりにデニスを守ってくれないか?多分、彼の命は今後も危険だ。城にいる間は君が守ってやってくれ」
「しかし……そうなると殿下は!?」
「護衛もいるから大丈夫だ。デニスの事は任せたよ?」
「……殿下。無茶はしないでくださいよ?」
「当たり前だろう。私達で新時代を築こうぞ」
そう言い残し、殿下何処かへ出かけて行った
私は何が真実なのか一旦考える事を放棄した
今は、大切な幼馴染の回復を祈る事しかできなかった
「こんな事で……次期宰相などなれるのだろうか……」
自嘲気味に笑っていると誰かの気配が消えた
ずっと監視されていたのだが此処へ来てようやく使い物にならないと判断されたようだ
(馬鹿な奴らだ……やはり私は侮られているのだな)
悲しい現実に少し泣けたが、今はコレが好機としか言いようがないので有難く思う
だてに宰相の息子なワケではないのだと思い知らせるいい機会だ
(単純バカって思われているのは癪だけどな)
他に監視の気配がないか気を配ってから、隠し持っていた通信機である人へ暗号を送る
(間に合ってくれると良いが……)
暗号を送り終わると、気が抜けたのか大量の汗が体中から出てきた
今出来る事は全てやった
後は、時期を見て改めて動くだけだ
瞼が急に重くなった
デニスの護衛をしないといけないのに……
何処からともなく件の令嬢の声が聞こえてきた気がした
「もう少し休んでから動いたらいいですよ。私も頑張りますから。おやすみなさい」
そんな事を言われたことが無いから妄想だろうが私の心は満たされた
数時間後
目覚めた私は慌ててデニスの病室に入ると
拘束用の四角い箱が12個程床に転がっていた
そして、デニスのベットは王家御用達の結界が張られていた
こんな事をする人は……
あの声は本物だったのかもしれないと
思わず口の端が上がってしまうマルクだったのだ