ざまぁヒロインは独りになりたい!
『ざまぁヒロイン69日目』
先日の【アリアローズ令嬢監禁事件】の捜査が秘密裏に行われていた
しかも、担当はマルク
宰相閣下の息子で、私とは相性が悪い
こないだも取り調べめいたものをされ気分は最高に悪い
しかも、昨日に至ってはキリオと一緒にお昼ご飯後に新商品の話合いをしていたのを何処かで見ていたのか
「あんな事件があったのに気楽ですね」
と、嫌味を言われた
確かに、アリアの事は心配だけど
キリオと談笑すらしちゃダメとか……
折角、落ち込んでいる私に対してキリオが気分転換に誘ってくれたのに……
まるで汚いもののように感じる人がいる事に泣けてきた
兄が度々言う
【人は人 自分は自分 相手にはなれないし 100%信じることのできる人間に会えることは奇跡】
それは、育ちや立場ではなく
ましてや血でもないという
私にとってのその立ち位置はキリオ、アリア、フラーの3人だ
だけど……やっぱり不謹慎だったのかなぁ
独り落ち込みながらトボトボと歩いていると
学園内にある教会の跡地へと着いた
此処は、学園の建設当初使われていた場所で
過去には卒業生の結婚式も挙げた事が有るらしい
どんだけ愛校心が強いのか
私にはこの学園の魅力が分からないので、一生の謎になる事だろう
しかし、人気の無い場所を探すとなると数は少なく
しかも、学園の奥にあるので校舎や寮から遠いため利用する人も少ない
私にとっては最高の空間ともいえる
鞄の中に入っていたお菓子と紅茶の水筒を出し
ノンビリとティータイムを楽しんでいたら
ふと、人影が出来た
(独りになりたくて来たのに……誰だろう……)
そう思って顔を上げると、瞳に涙をいっぱい溜めた皇太子殿下がソコに立っていた
見た瞬間
全身に言いようのない恐怖が走り廻ったが
グッと堪えて見つめていると、声も無くハクハクと口を開け閉めする姿がソコにあった
(……?何だか様子がおかしい?)
観察していると口の動きが言葉を発している事に気がついた
た…… …… ……て……
その瞬間、本当に無意識だったと思う
ポシェットに手を入れ注射器を出す
ソコにはキリオお手製の万能薬を5倍濃縮した緊急用の薬が数本入っていたのだ
迷いなくその内の1本を取り出し、素人でも使える注射器を皇太子殿下の太ももに押し当て注入した
「ぐぅ……ぐぐぐぅぅぅぅぅ」
苦しそうに数回呻いた後、皇太子殿下はその場にへたり込んだ
そして、激しく嘔吐した
吐瀉物には固形の者は無く飲み水だけが何度も出ていたが
何かを出したそうに皇太子殿下は藻掻き続ける
どうしていいか軽いパニックを起こしていると
ポシェットの中にもう一つ使えそうな物があったのを思い出す
「殿下……すいません!お叱りは後で何度でも聞きます!!!」
そう言って殿下の顔を掴み
口を大きく開けさせて3㎜程の粒を5つ投げ入れた
その後飲み込んだ殿下は顔を真っ青にしたかと思うと
体が大きく仰け反るほどに数回のた打ち回った後
口の中から何かを吐き出した
(逃がしてたまるか!!!)
商会でも販売しているキューブ型の捕獲機を吐き出した物へ瞬間投げつける
命中したソレは煙を上げながら小さくなって箱の中に封印されるのだ
箱が落ち着いたのを見計らって手に取ってみると
ソレは思わぬモノを捕獲していた
「これって……何でこんな所にあんの?」
困惑しながら手の中のモノを見つめる私はしばらくその場を動く事が出来なかった
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あれから何時間経ったのだろう
少し肌寒くなってきたので、教会の外に簡易テントを出して
暖をとりながら皇太子殿下の目覚めを待ってた
テントの外には焚き木がしてあり、小腹が空いたので簡単なスープを仕込んでおいた
出来上がりはもうすぐだろう
皇太子殿下は教会の中に結界を張って置いてきた
ウチの商会の商品で高額だが、王族の命には代えられないから仕方ない
後で宰相閣下に請求してやろうと心に決める
いつもならそろそろキリオから定期連絡がバングルから入るはずなのに
此処では魔力が無効になるのか
全然音沙汰がない
「魔力ってより電波障害みたいな?」
そんな考えを巡らせていたら、テントの外から声がした
「あの……カルラ・ハイネリーク令嬢起きていらっしゃいますか?」
驚く程の低姿勢な呼びかけに慌ててテントの入り口を開ける
そこには、まだ青白い顔をしているが先程とは違い
落ち着いた様子の皇太子殿下の姿があった
「……単刀直入に聞きます。殿下は命を狙われていませんか?」
真っ直ぐに見つめて間髪入れずに聞く
相手は気の抜けた様に笑うと「座っていい?」と聞き
テントの外にある石に腰かけた
私は、少し離れた場所にある丸太に座ると何が面白いのか皇太子殿下は笑みを更に深めた
「何処から話したら良いかなぁ」
「好きなところからで良いですよ」
そっけない返事にも「ありがとう」とお礼を言った皇太子殿下は静かにここ数か月の話をしてくれた
思い返してみると
事の始まりは学園の入学前に行われたパーティーだったらしい
特に何かしたワケでもないのその日を境に謎の体調不良が続いたのだとか
心配した国王様や家臣、その他の関係者が一様に原因を探してくれたが一向に落ち着く事なく学園生活がスタートしてしまった
「体調不良といっても、頭痛が酷いとか、体が熱っぽいとか……風みたいな症状が大半だったんだ」
「でも、何してもスッキリとは治らなかった」
「うん。でも、そんな時、君に会った。そして、君と一緒に居ると何故だかその体調不良が治るんだ」
だから、皇太子殿下は必死に私と距離を縮めたかったらしい
「僕は君の魔力が僕の魔力に適合して、何かの変化によって体調が良くなったのではないかと考えていたんだ。だから、2人で話したくて何度も君に話しかけたんだけど……迷惑だったよね?ごめんね」
何とも毒の無い彼の様子に逃げ回っていた自分が恥ずかしくなった
ただ、体調不良を治したかっただけだという彼の話を聞いていたらもっと早く何かできたかもしれないと悔やまれる
意を決して、皇太子殿下に先程の箱を見せる
「殿下が先程苦しんでいた時に吐き出した物です」
手の中のソレを軽く振ってみる
カコン
と軽い音がして、箱の中でまた静かに納まる
「コレは……あの日パーティーで貰った飴玉だね。《雫星》という新製品で、君の商会で扱っているんだろ?」
「なるほど。失礼ですが、どなたの贈り物ですか?」
「?君の商会って事は分かっているだろう?」
「……どちらの家紋の方ですか?」
「私の筆頭婚約者候補として有名な彼女だよ。アリアローズ令嬢さ」
「……本当ですか?」
「間違いないよ。彼女、君の家の商品を愛用しているって話だし包み紙も君の家の物だったよ。メッセージカードも確認した」
手の中の雫の形を模したソレをもう一度しっかり確認する
そして、大きく溜息をついてから真っ直ぐ皇太子殿下を見つめて話しかける
「皇太子殿下。コレはウチの商品《雫星》ではありません。見た目は似ていますが、そもそも色も大きさも違います。本物は此方です」
「……もっと大きいし、こちらは透明だが私が吐き出した物は少しピンク色をしているな」
「はい。こちらはただの飴ではありません。正確には飴ではありません」
「……では何だというのだ?」
私は震える気持ちをグッと持ち直して皇太子殿下を見つめ直す
此処で頑張らないとダメだと本能的に感じたからだ
「コレは《バンシーの涙》といって、妖精のバンシーの涙を混ぜて作った呪いのアイテムです」
「《バンシーの涙》?」
「はい。しかも、コレはこの国で作ることはできません。隣の大国しかその製造技術を知りえない品物なのです」
「……何故君はその事を知っている?」
「……私は数年前に罪を犯しました。隣の大国で罪人の人間を匿ったのです。彼等は私に酷く感謝し、お礼にこの呪いのアイテムの作り方を教えてくれたのです」
「まさかと思うが……」
「……私は商人の娘である前に1人の職人でもあります。私は家族に内緒で材料を手に入れ作ったことがあるのです」
そう言って私は徐に箱から《バンシーの涙》を取り出し炎に照らした
熱を加えると雫の形をしたソレの中心に文字が浮かぶ
《K&K》
「コレは数年前に手元を去った私の作った《バンシーの涙》です」
「……そんな」
「そして、皇太子殿下が私の側で気持ちが楽になったのは、私の魔力に反応したからでしょう。作る時に多少魔力を込めますので」
「……コレは犯罪だぞ」
「えぇ、しかし私は製作者ではありますが大分前にとある方にお渡ししたのです。商品を買い付け納品したという形で」
「もしかしてソレは……」
私達は見つめ合う
それは恐らく数秒の事だったと思う
しかし、私も彼も恐らく何時間も見つめ合っていた様な感覚だった事だろう
「皇太子殿下に申し上げます。私がこの商品を納品したのは王城です」
「相手は誰だ?」
「……皇后陛下です」
沈黙が続く
墓場まで持って行った方が良かったのかもしれない
でも、言わずにはいられなかった
過去の懺悔のつもりだったのかもしれない
静寂の中、炎の音だけがその場に響き続けた