14話 新たな乗り物
「また早紀は何かしようとしておるぞ」
ミカエルが呟く
「まぁ…そうだな」
ウリエルはもう突っ込む気はなさそうだった。
「皆さん~ただいま戻りましたぁ」
とガブリエルが現れる
「おぉ!どうだった?ガブリエル」
ウリエルが興味津々で覗き込む
「『私は眠いの!後にして!』だって断られました」
「ガブリエルがセラフ様のものまねをするとこんなにも違和感があるのじゃな」
ミカエルが笑う
「とりあえずお疲れさまでしたガブリエルさん」
とラファエルが水を持ってきた
「まぁ早く見るぞい!楽しみが無くなってしまうからの」
と4人はまたモニターを覗き込んだ。
「…」
「…」
「……」
「‥‥‥‥」
2人は目の前の巨大な乗り物に目を見開き10分ほど口を開けていた。
「……ねぇ?早紀?何をしていたのかなぁ?」
マリが横目で早紀の顔を見る
「乗り物作り?」
早紀は半笑いで答える
「これは……またものすごく大きいな……」
朧月も見上げた
「あはは…今までだと遅いし座り心地も悪かったからね…」
「まさか!座り心地良くなってる!?」
マリが目を輝かせている
「ふふん!」
と早紀が運転席の扉を開けボタンを押した。
空気の抜ける音がした後右前についている扉が開くと車体が少し沈む
「うわ!勝手に開いた!?」
マリが驚いている
「私は何が来ても驚かんぞ……」
といいつつ朧月も目を丸くしていた。
そう…目の前にあるその乗り物とは……。
「バスという乗り物だよ!一応大きさは中型の最大27人乗ることが出来るよ!」
無論そんな大きな乗り物はこの世界にはなく…魔動車の大きな乗り物でもせいぜい軽トラより少し小さめくらいの大きさだった。
この時の早紀は気づいていなかった…このバスが普段乗っていたバスとは全然違うということが…。
「はぁ!?てか鉄あるでしょ!それに何なのよこの素材は!」
マリは外観に触れる
「プラスチック…だけど分からないよね…」
無論マリと朧月は頷くこの世界の鉄はとても貴重で魔動車のほんの一部に使われているくらいだった。
2人は一時間程バスの周りを観察する。2人からは素材やら作り方やら早紀が分からないことまでも質問してくるため内心疲れ切っていた。
「とりあえず中入ろうよ……」
早紀がため息交じりに呟く
「忘れてた!これ乗り物だ!」
マリがはしゃいでいる。
中に入ると2人の興奮は最高潮になる。
「待て主!これが椅子なのか!?ふわふわしてるぞ!」
朧月が座席をたたく
「これ何?」
マリがシートベルトを引っ張っている。
「順番に説明するから落ち着いて!」
と早紀は運転席後ろの2人席にマリと朧月を座らせる。
「まず!そこの横にあるやつはシートベルトと言って……急に止まったときに怪我するのを防ぐためにあるの!」
2人は意味が分からないように頷く
「何で?魔動車ならそんなスピードでないし……いらないと思うけど」
「私も同感だ魔動車は大きければ大きいほど速度が出ないからな」
朧月も呟いている
「まぁ……実際走らせた方がいいかな……」
早紀が運転席に座ると扉を閉めた。
「一応シートベルトしといて…私もどれだけ出るのか分からないから」
早紀の言葉に意味深な顔をするも2人はシートベルトを引っ張る。
「これはどこにつけるの?」
「ここの赤いところじゃないか?ほら2つあるマリ側のやつがマリのやつだろう」
「入った!ありがと!」
そんな会話を早紀は嬉しそうに聞いている。
(ふふっまるで子供たちを乗せているみたい……ふしぎだなぁ……)
「ちなみにこのバスも動力は全部魔力だからね!」
と早紀がボタンを押す
「上が明るくなった!」
「これはいいな!夜も明るいぞ!」
そうバッテリーもなければエンジンもないのだ。
早紀は鍵を差し込むと軽く右に回す……特に何も起こらないがこれで走る準備は出来る、これをしないと走らない仕組みにした。なぜなら誰でも乗れると奪われる可能性があるからだ。一応ミッションではなくオートマ仕様にしたので乗り方は自動車と全く同じだった。
「行くよ!」
「はーい!」
「任せたぞ!主!」
早紀は初めなので少しだけアクセルを踏んだ……。
ものすごい後ろに張り付く感覚の後、砂埃を上げ走り出す。
「ちょっと待って!」
「きゃっ!」
「うわ!」
早紀が慌ててブレーキを踏んだためまた砂埃をあげて止まる。
「何今の…」
「寿命が2000年縮んだかと思ったぞ主…」
どうやら2人も整理できていないらしい……
「このシートベルトとやらがなければ吹っ飛んでいたな…」
朧月がシートベルトに感謝している。
(サキエル…どうなったのか説明できる?)
(はい…この魔動車…バスですが…動力である魔力はあなたの魔力量と同じになっていますので…パワーは…魔動車の約1000倍以上のパワーとなっていますので1秒のうちに時速600KMさらに最大では1000KM以上出すことが出来ます)
(はぁ!?なにそれ…一応超速再生をバスに付けたから壊れることはないけど…新幹線より倍は速いってことか…中型バスで…もはや軽トラにジェットエンジンついたような感覚なのね)
「ごめん!想定の1000倍くらい速いかもしれない」
自転車よりも遅い魔動車と比べればもっと変わるのだが……
「でしょうね…ひっくり返るかと思った」
マリがまだ息を荒げている
「ゆっくり頼むぞ主…」
早紀は頷くとゆっくりアクセルを踏んでいく…もはや踏んでいるのか分からないほどだが。
「それにしても全然ガタガタ揺れないね」
マリが話す
「一応スライムがあるからね…」
マリ達にはサスペンションなんて言葉は通じないとわかっていたためスライムで代用した。
「しかし…これでもかなり早くないか?」
朧月が外を見る
「ほんとだ!初めてこんな速さの乗り物乗ったよ…」
まぁ…これでも40KMなのですが…魔動車で40KMを出そうとするとバラバラに破壊されるためここまでの乗り物はこの世界にはなかったのである。
早紀は操作にも慣れたため、ばれない程度に速度を上げていく…てかそもそも道なんてものはないので草原を駆け抜けているのだが……
「ねぇ?速さ増してない?」
さすがに100KMまで出したら気づくようだ。
「うん!もう少し上げるよ!」
とさらに加速していく
「ちょ…すごい景色…」
「あぁ…あまりに速すぎるが故での景色だな…」
時速はもう300KMに迫ろうとしていた。
「でもこんなに早いのに中では結構快適だよね」
マリが椅子を倒す
「これ倒れるんだ!寝れる!」
マリは座席が倒れることにとても興奮したらしくすぐに眠ってしまった。早紀はこんな2人の会話をしみじみと感じ運転をしているのであった。
「なんか山が見えてきたけど…」
3時間ほど走ると早紀が目の前に見えてきた山を見る。
「あれって精霊の森じゃない!?」
マリが覗き込む
「精霊の森だとすれば危険じゃないか?」
朧月が悩むような顔をする
「なんで危険なの?」
早紀が朧月に聞く
「あぁ…昔はそんなに人間と妖精の仲が悪かったことはなかったんだが…ある日一つのギルド国が来たことによって妖精たちを捕まえて売りさばくという事件が多発してな…そこから妖精たちは人間に対して攻撃をするようになったのだ」
朧月が答える
「じゃあ行こうか!」
「ちょっ…早紀!?今の話聞いてた?」
マリが慌てて前を向く
「まぁ主ならそういうと思ったぞ!私は主の契約竜だ…主の為ならどこにだってお供する」
「はぁ…まぁいいか」
朧月もどうやら行く気満々でマリはため息をつくしかなかった。
「はぁ…はぁ…」
緑のワンピースのような服を着た女の子が森の中を走っている。
「いたぞ!捕まえろ!」
後ろからはたくさんの男たちが追いかけている。
「ウインドストーム!」
と走りながら女の子が後ろに右手を伸ばすとその手から暴風が男たちに襲い掛かる。
「うわあああ」
男たちは軽く吹き飛ばされるもどんどん追いかけてくる。
「ひるむな!早くとらえて金をいただくんだ!」
男の言葉にまた立ちあがた。
「はぁ…はぁ…しぶとい…」
女の子はそのまま山を駆け降りた。
3人を乗せたバスはそのまま妖精の森に入っていったとき不意に早紀はバスを止める。
「早紀?」
「ここからは歩いたほうがよさそうだね」
3人はバスを降り目の前の獣道を見る
「何か音が聞こえない?」
マリが耳を澄ます
「あぁ…今まさに妖精との争いが起こっているな」
朧月が刀を装備する
「私妖精と戦わないよ?」
早紀が朧月を見る
「あぁ…だが早紀は妖精たちを助けるつもりなんだろ?」
「うっ…」
早紀は思わず口をつぐむ
「確かに!人間相手なら早紀が手を下す必要ないもんね」
とマリも剣を持った
「じゃあ…行こうか」
3人は山の中に入っていった。
「…!?」
女の子は男たちから逃げながら山の空気が変わったことに気づいた。
「何この感じ……とんでもない魔力を感じる……」
「おい!早く追いかけろ!」
と男たちは何回も女の子に魔法を撃っている。
「くっ…あっ…」
と女の子は足を滑らせそのまま山の下に落ちてしまった。
「ちっ…おい!早く追いかけろ!ケガさせたら商品価値が落ちる…早くしろ!」
と男たちは迂回道を走っていった。
「いたた…」
女の子はゆっくり起き上がるとそのまままた歩き出す…とすぐに後ろから声が聞こえ…女の子は慌ててまた走り出した。
しばらく走っていると大きな広場にたどり着く。
「しまった…」
と後ろを振り返る…ちょうど男たちの頭が見え始めると同時に女の子の体が光る。
「え!?」
女の子は目をつぶり目を開けるとどうやら広場の奥にある木の陰にいた。
「いたっ!これは…転移魔法…」
女の子は目の前の木に当たる
「おい!どこに消えた!?」
男たちも慌てて広場に集まってきた。そこの広場には3人の女の子が歩いている…が女の子は直感で感じた…。
「あの人たち…つよい……まさかさっきの感覚って……」
女の子は陰でのぞき込んだ。
「早紀どう?」
マリが早紀のほうを見ると早紀は目の前にモニターらしきものを見せる。
「やっぱり…大人数で一人を追いかけてる」
早紀は索敵スキルにより周りの人物の行動や様子をマップとして点で見ることが出来る、かつ仲間にも見せることが出来るのだ。
「この1人が進んでいる先は広場だ…分が悪いな」
朧月がマップを覗き込む
「マリって転移魔法使えなかった?」
早紀がマリの顔を見る
「あぁ…なるほどね」
マリはすぐにわかったように頷いた
「じゃあ私たちも広場に向かうよ!」
と3人も慌てて広場に向かった。
3人が広場に出ると後ろを向いている女の子が見えた。
「あの服と羽…間違いなく妖精族の一人だな…」
朧月が呟く
「私たちの事は気づいてないらしいね…」
「マリ頼んだよ」
早紀の言葉にマリが頷くと両手を女の子に向けると女の子は白く光りそのまま消えてしまった…
「いた!」
という声が横の奥で聞こえた
「ちょっとマリ?」
早紀がマリの顔を見る
「ごめんごめん!少し木に近すぎたみたい」
マリが舌を出す
「まぁ…どうやら無事なようだ…行くぞ」
と朧月の言葉に3人が広場に歩きだした。
「あなたたちが女の子を襲っていた人たちですか?」
早紀が男たちに聞く
「あぁ?なんだお前ら俺たちにたてつこうってのか」
と男がいきなり早紀に剣を振り下ろす
「朧月」
「任せろ!主!」
と朧月が素手で剣を受け止める
「なんだと!?」
男たちもさすがにやばいと感じたのかみんな戦闘態勢に入る。
「たかが3人だ…やれ!」
と男たちが突っ込んでいく
「ここは私がいくぞ…」
と朧月が前に出る
「龍圧」
と周りの人が一斉に倒される
「なんだ…これは…体が」
唯一耐え残った男も膝をついている
「なんだ?こんなものか?ただの龍圧で気絶するとは…」
朧月が剣を抜き歩いていく
「朧月!待って!」
早紀が慌てて止める
「お前たちは一体誰だ!」
男が叫ぶ
「私たちはただの新米冒険者です…でも追いかけられている人を見過ごす程私たちは薄情ではありません」
早紀が歩きながらつぶやく
 
「あいつは人間じゃねぇ!妖精だ!売れば金になるんだ!どうだ?お前たちも一緒に金をもらわないか?」
男が笑っている。
(この男…怒らすの上手いね…)
早紀は軽く朧月の顔を見る
「いいのか?早紀」
「殺さなければ」
早紀とマリは後ろに下がる
「なんだ?お前は…それ以上近づくと容赦はしないぞ!」
と男が立ち上がる
「この姿を見ても同じことが言えるのか?」
と朧月の周りから黒い光が現れ体が変形していく。
「な…お前は…ドラゴン…」
「ちなみに私の強さはこの中でも3番目だ…お前らに勝ち目はない諦めろ」
「ちっ…」
と男はそのまま消えてしまった
「転移魔法か…情けない…」
朧月がそういって人型に戻った。
「良かったのか?主まんまと逃がして」
朧月が早紀の方を見る
「うん!ちゃんと追跡であの人たちの住処が分かったから」
と早紀がモニターを見せる。
「ここから近いね」
マリが呟く
「どうする?助けに行くか?」
朧月が早紀の方を見る
「いや…相手が国相手なら私達3人では分が悪い…ちょっと待ってて」
と早紀が森の中に走っていった。
「主の事だから何か作戦があるのだろうな…」
「さてと…朧月…この人たちをどうする?」
マリが倒れている人たちを見る
「ラミさんが引き受けてくれるって!」
早紀が手を挙げて戻ってきた
「この人数の転移魔法使える?」
「約30人…やってみる」
マリが手を伸ばす
「私も一緒にお願いね」
早紀が笑う
「えっ?でも…」
 
と早紀がマリにボタンを渡す
「これって…」
「うん!魔力通信機だよ!ラミさんがもらったものを解析して新たに作ったんだよ!私がこれで連絡するから転移魔法でここに戻してほしいの」
早紀の言葉にマリが頷いた
「じゃあ行くよ!」
と白い光が現れそのまま消えてしまった。
「行っちゃったな」
朧月が広場を見渡す
「2人だけってなんか新鮮だね」
マリが朧月の顔を見る
「ところで大丈夫なのか?確かに転移魔法は居た場所ならどこでも転移できるが…ラミ帝国はかなり遠い…転移を使うのは至難の業だぞ…」
「確かに…私もこの距離での転移魔法は初めてかも…」
マリが呟く
「まぁ…」
と朧月が言ったときボタンから声が聞こえる。
「マリ?聞こえる?」
「聞こえるよ!」
マリもボタンを押し話す
「良かった!とりあえず引き渡しが終わったから私を飛ばしてほしい!」
「分かった!」
とマリがボタンから手を放すとポケットに入れた。
「じゃあ…」
とマリが四角い線を引く
「何してるんだ…?」
「ここに転移させることが出来たら成功だね!」
とマリが両手を広げ目を閉じた。
「さてと…」
とマリが目を開けたとき目の前に早紀が現れる
「ただいま!っと…何この線」
早紀が周りに引かれている線を見る
「まさか本当に成功するとはな」
朧月が笑っていると後ろから一人の女の子が現れた。
 




