心の闇は誰にでもある
そいつは闇の中に潜んでいた。
「だれ?そこにいるのは誰なの?」
暗闇に目が慣れてくると、そいつの異様な姿が徐々に浮かんで見えてきた。
手足が逆さまに付いたような、股の間に頭がついていて逆立ちをして、こちらに近づいてくるように見えた。
「脅かしてすみません、決して怪しい者ではございません」
「どこからどう見ても、その姿かたちは怪しいだろう」
「それで、私に何か用でも有るんですか?」
股の間に付いた、ラッキョの様な頭を足の指でカキながら
「氏に神から、是非あなたに渡して欲しいと頼まれた物をお持ちしました」
「死に神?」
「はい、神様が、あなたは木偶が必要になるからと頼まれまして」
そいつは、30センチ四方の資格活き箱を、頭の脇から生えた足に挟んで手渡した。
「木偶ってなんだ?」
木箱の蓋を開けてみると、木彫りの操り人形が入っていた。
「なんだ、木偶ってマペットじゃん、あれ?この人形に頭が無い」「あの~頭は?」
そう尋ねると、そいつは、一抱えもありそうな大きな壺を何処からともなく出してきた。
「頭はこの中に入っています」
恐る恐る、差し出された壺の中を覗きこむと
「キャー!なにコレ」
壺の中には、人間のドクロが入っていました。
次の瞬間、ベッドの布団を足で思いっきり蹴飛ばして
「はっ!夢か・・・」
時計は午前3時40分を指していた。
「は~なんて中途半端な時に目が覚めたのだ、まだ一寝しようっと」
ピンポーン!ピンポーン!玄関のドアホンが鳴る
「う~ん、なによ、こんな時間に」
枕元のスマホを見ると、時刻は午前7時をすぎていた。
「あっ、いけない、寝すぎた」
慌てて起きると、玄関のドアホンのモニターを見ると、玄関に宅配業者の人が立っていた
「はーい、待たせちゃって、すみません」
1m四方の宅配便の段ボール箱を受け取り、差出人を見ると、ドリーム・コーポレーションと書かれてあった。
日頃から、通販を良く使って買い物をしていたので特に疑いもしなかった。
少し前に注文をした、洋服が入っているのだろうと、段ボールを開けると、そこには白い操り人形と、人の頭ほどある黒い壺が入っていた。
「えっ!やだ、なにこれ、気持ち悪い操り人形」
そして、黒い壺の中には、取扱説明書が入っていた。
その、取扱説明書には、壺の中に人の顔写真を入れて、操り人形に取りつけると、写真の人物のコピーが出来るという事だった。
その、コピー人間は、育成プログラムに従って育てて行くと、あなた好みの人物に成って行くと云う物だった。
しかし、取扱説明書には、赤い太文字で注意と書かれた一文が、そこには、顔写真を入れた壺を割ってしまうと、コピーも写真の人物も死んでしまうという、恐ろしい内容が書かれていた。
恐ろしい注意書きより先に、好奇心に負けた私は早速、ガールズバンド、CATZのメンバでギター担当のSAYAKAちゃんの顔写真を壺の中に入れて、人形に装着してみた。
すると、黒い壺を付けた白い操り人形が、全身から噴き出る水蒸気に包まれたかと思うと、裸のSAYAKAが現れました。
「スッゲ~、本物みたいに柔らかい肌、全身が濡れたように光っている」
「SAYAKAちゃん、濡れているみたいだから、お風呂に入れてあげるね」
彼女の手を取、お風呂場に連れて行き、湯船に入れてあげた。
「ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ、気持ち好いでしょう、チャプチャプ」
「あっそうだ!洋服を買いに行かないと、取あえず、私の下着を着ていてね」
そう言うと、自分の下着を彼女に着せ、椅子に座らせると
「買い物に行ってくるから、待っていて」
彼女は身じろぎもせず、黙ったまま椅子に座っていた。
車に乗り街に在る、洋服のファストストアーに向かった
彼女に着せる洋服と昼食の材料を買い、来た道を車で戻って行くその途中で、いつも嫌がらせの様に、幼い子供を乗せたベビーカーを道路の真ん中で押して歩いている、ファッション雑誌を読み過ぎたような出で立ちの、コゲや色のハットを被った男の人と出くわした。
「もう~いい加減にしろよ!道の真ん中を歩いているんじゃねーよ、危ないだろう」
車のホーンを鳴らしても、その人は、歩行者優先だから道の真ん中を歩いても良いんだ。と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべていた。
「まったく!チョー腹が立つ、あっそうだ」
良い考えが浮かんだと思い、スマホで奴の顔をパリャリと撮影した。
「みていろよ、懲らしめてやるからな!」
家に着くと、さっそく先ほど撮った奴のかを写真をプリントアウトして、黒い壺の中に入れることにしました
「SAYAKAちゃん、本当にゴメンね」
そう言うと、私は彼女の頭をクイット外した。
すると、彼女の体は首の無い人間のままで、頭だけが黒い壺に変わっていた。
先ほどプリントした奴の顔写真を、壺の中に入れると、庭の石の上に叩き付けた。
「お義母さん、車の運転大丈夫なの?」
孫娘に会いに来た姑と嫁が、道路に面したガレージで話していた。
「心配いらないよ、この車にはエマージェンシーストップとか云うのが付いているから、いざと云う時も大丈夫だから」
「本当、この道路は危ないから気を付けて帰ってね」
姑は、車をガレージからバックで道路にゆっくりと走らせた。
その時、原付バイクが車の真後ろを通り抜けて行った。
それに、驚いた姑は、慌ててブレーキを踏んだつもりが、アクセルペダルを踏み続けて、車はバックで急発進した。
そこへ偶然、道の真ん中をベビーカーを押して歩いていた男性が通りかかり、勢いよく車と衝突してしまった。
「キャー!お義母さんが、人を撥ねちゃった」
「あぁぁ、どうしましょう」
慌てて、車の外へ出て、跳ね飛ばした男の人へ駆け寄ると、男性は頭がつぶれていて顔さえ判別できなかった。
事故を見て駆け付けた近所の人が「おい、観ろよ、この男の人は人間じゃない、人形だぞ」
「赤ちゃんが・・・どこ、赤ちゃん?」
ベビーカーの中を覗くと、頭の無い幼児の体だけが乗っていて、近くには粉々に割れた黒い壺と、女性の顔写真が落ちていた。
人を呪えば穴二つ、死神の思う壺なり。