晴天と目が合った
最後の一行に目を通し、パタンと分厚い本を閉じた。先日の夜会で知り合った令嬢たちが話題にしていた恋愛小説の、その第一巻。
果たしてどんなものなのだろうと入手し、今読み終わった次第だ。
(うーん……)
せっかくオススメしていただいたのに、十分に楽しめなくて申し訳ない。できることなら彼女らと、共通の話題で盛り上がったりしたかったのだけれど。
それでも、この作品は私には合わなかった。
(だって……共感できないんだもの)
いくら恋をしたからと言えど、この身全てを捧げてもいいとだなんて、そんなこと思えるわけがない。
そもそもこのヒロインも、平凡な顔だと散々作中で描写されていたのに、登場人物……主に男性主人公から語られる描写といえば彼女の容姿を讃えるものばかり。
恋に落ちれば相手の容姿まで良く見えるのならば、それは紛れもなく視界の歪みだとしか思えない。
会いたくて堪らないだとか、側にいると胸が苦しいだとか、他の人と話していると嫉妬するだとか……どれもこれも病気だと思う。
ならば確かに、恋の病とはうまく言ったものだ。
「ラナン!」
「あ、シオン……」
噴水の側のベンチに腰掛けていた私に歩み寄った婚約者の彼は、その端正な顔でにこりと微笑む。隣に座っても良いかと問われて、もちろんだと頷いた。
……彼はしばしば、聞かなくても当然に許されるであろう問いかけをしてくる。まるで私に嫌がられていないかと、恐れているようにも取れる手続きだ。
まさか、そんなはずないけれど。
「少しだけ、貴女と過ごしても……?」
「ええ、もちろん」
ほらまた。
心の中で指摘しつつ、顔色は変えずに頷く。
ちょうど本を読み終わって退屈していたのだ。結婚式の準備という仕事は、全部ペトラが持っていってしまったから。
ドレスのデザインへの希望をいくら聞いても、私が何でもいいとしか言わないと悟った彼女は、早々に私を放り出した。「希望がないのなら、このペトラにお任せを!」と張り切っていた侍女の笑顔を思い出し、どうせ会話に困るだろうから、この話をしてみようと考えつく。
「今日、ペトラが……」
「さっき爺が……」
見事に重なった互いの言葉に、驚いて目を見開いた。気まずさに俯き、しばしの沈黙を味わう。
「お先にどうぞ」
「いいえ、貴女こそ……」
冷や汗が出そうなやり取りだ。それこそ先ほど読んだ小説のヒロインだったなら、もっとうまくお話ができるのだろうか。
面白味のない女だと、そう思われていたりするかもしれない。
それは避けたくて、何か新しい話題を探した。考えてみれば、ペトラは元々彼の家の使用人なのだから、私よりずっと彼女のことはご存知だろうし。
「今朝は天気が」
「気持ちのいい青空で……す、ね」
「……ええ」
タイミングの悪いところは、すぐには治ってくれないみたいだ。
なんだか気恥ずかしさを感じて、頬が熱くなっていく。彼もきっと気まずい思いをしているだろうと、途方に暮れて青い空を仰いだ。