出立の日
初投稿です。まったりと書いていけたら良いなと思います。
「ラナン、お前の役割はわかっているな」
「……ええ、当然ですわ、お父様」
薄らと期待のこもった、自分と同じ赤い瞳を見据える。
ざわつく胸の内を隠すまでもない。自分の見たいものしか見えていない父は、己が娘の憂鬱も知らないままだった。
「さすが我が娘だ。私の育て方は間違っていなかったな」
「……」
言葉は返さない。ただそっと微笑んだ。
この人は母しか愛していない。無論、母も父だけを愛している。
これから政略結婚というよくある話に身を投じる私としては、両親が少しばかり羨ましくもあるのだ。
少しくらい私に目を向けて欲しい、なんて。幼子の頃に願ったこともあったけれど、それは昔の話。
「では……」
行って参ります、と。そう言おうとして躊躇った。
帰ることなどきっと無いのに、行くだなんておかしな話だと思ったからだ。
一体どんな言葉であれば、この場に似つかわしいのかと思案しつつ、待ちぼうけを喰らっている御者に視線を投げた。馬車の扉を開いて待つ彼は、ただ与えられた仕事をこなす為だけにそこに立っている。
ちょうど今の私と同じだと、悪戯な風に煽られた薄いピンク色の髪を耳に掛けて唇を開いた。
「さようなら、お父様、お母様……お元気で」