第3章 第1話 自分のおわりとはじまり
〇きらら
「部活もないしこのあとスイーツでも食べいかない?」
じめじめとした空気が落ち着き、確かな夏の訪れを感じるようになった六月末。授業が終わり、帰り支度をしていた自分にそうお声がかかりました。
「だめですよっ。部活がないのは期末試験が近いからですっ。遊ぶためじゃないんですよ?」
来たる期末試験は七月一週目から。つまり来週から試験が始まるというのにこの人はなにを言っているんでしょうか。椅子に座ってようやく見上げられるようになった水空環奈さんに自分は注意しました。
「でもきららって確か学年一位でしょ? あたしもギリ一桁だったしちょっとくらいサボったっていいじゃん」
あっ! これはダメな考え方ですっ!
「いいですかっ!? そういう考えが油断を生むんですっ! そもそも自分が一位なのは花美がとっても頭が悪いからですっ! こんなおばかな学校で一位をとっても意味なんてないんですっ!」
「オーケー。みんな聞いてるから静かにね?」
はっ! しまったです。思わず大声を出してしまいました。みなさんに失礼な発言でしたね。
「というかなんで今日なんですか? 再来週にはもう実質的な夏休みだというのに」
まだ教室に残っているクラスメイトのみなさんに頭を下げ自分はそう訊ねます。試験が終わっても答案返却などあってまだ正式な夏休みだとは言えませんが、採点などの都合でお休みにはなっています。それなのになぜ今日突然なのでしょうか。
「んーとね、きららに会いたいって人がいるんだ」
環奈さんの返答はずいぶん曖昧なものでした。そんなことを言われたら掘り下げるしかありません。
「その方はどなたですか?」
「んー、内緒にしといてって言われてるんだ。いや別に言ってもいいんだけどちょっと負い目もあってあんまり逆らいたくないんだよね……」
そう言う環奈さんの顔は本当に気まずそうです。ならこれ以上詮索はできませんし、断るのも忍びないです。
「そういうことなら構いませんが……どうして自分なんですか?」
お友だちなので信用していないわけではないのですが、さすがに少し警戒してしまいます。自分なんてどこにでもいる普通の高校生です。そんな自分を名指しするなんて怪しいです。
「心配しないで。信用できる……いやあれを信用できる……? 信用できないけどいい人……いい人じゃないよな……とにかく悪いようにはしない……ううん、あいつのことだからそんなはずないか……」
「とっても怪しいですっ!」
なんですかその人! 当時嫌っていた珠緒さんのこともそこまでひどく言っていなかったですよっ!?
「とにかく行ってみたらわかるから」
「えー……」
その後十分かけて説得された自分は、渋々環奈さんに連れられて彼女たちに会うことになりました。
それが自分の人生を変える出来事の発端になるとは、この時思いもしませんでした。




