第2章 最終話 序奏・新たなはじまり
〇環奈
「大変です環奈さんっ」
練習試合の翌日。いつものように授業終わりに練習が行われる第三体育館へと向かっていると、真正面からきららが爆走してきた。デジャヴ三回目。
「どうしたの? きらら」
以前と同様きららはあたしとぶつかる直前で急ブレーキをかけると、膝に手をついて激しく息をする。
「大変です……! ぜぇ……大変なんです……! はぁ……」
「なに? また新入部員が入ってきた?」
「違いますっ。とにかく来てくださいっ」
なにがなんだか。
まぁとりあえず向かえばわかるか。
「行くよ、珠緒」
「ええ、環奈さん」
隣を歩いていた珠緒に声をかけ、あたしたちは歩き出す。
一年生三人。仲良く、と言うにはまだ早いかもしれないけど。
とにかく歩き出した。
「おい、遅いぞ一年!」
体育館には既にあたしたち以外の全員が揃っていた。
「どうしたんですか? こんな早くから」
「徳永先生が重大発表だって」
重大発表? なんだろう。なんかあったっけ?
「みんなおまたせー」
聞き返そうとした瞬間、体育館に徳永先生が入ってきた。
「今日はみんなに紹介したい人がいます。じゃあ、入ってけろ」
「うす」
徳永先生が合図をし、一人の女性が入ってくる。
赤メッシュを入れた、黒のジャージを着た女性。彼女は一度頭を下げると、大きな声でこう挨拶した。
「今日から花美高校女子バレーボール部のコーチになった小内未来よ。大学とバイトがあるから毎日は来れないかもしれないけど、ビシバシいくから覚悟を……って、全然驚いてなくない?」
いや……そりゃそうでしょ。
「もうあたしたちはとっくにあなたをコーチだと思ってましたよ」
あたしがそう答えると、小内さんは少しはにかむ。
「何よ、偉そうに」
そして最初の指導を始めた。
「まずあんたたちの目標を教えて。大きな夢でもよし。小さな現実でもよし。それに合わせたコーチングをするわ」
目標。今まで考えてこなかったことだ。あたしとしては結果はどうでもいいけど、それは個人の話。部としての目標は決めておいた方がいい。あたしたちは円になってそれぞれの意見を言い合う。
「そりゃ全国優勝だろっ!」
「あまり高い目標を設定すると後が辛いわよ」
「じゃあオレンジコートは? ひー、あそこ立ってみたいっ!」
「それって全国じゃなかった? とりあえず県ベスト十六とかがいいとみきは思うな」
「環奈ちゃんがいるんだしもっと上いけるんじゃない?」
「そうです。梨々花先輩がいるんだからもっと上目指せますよっ」
「でも現実は厳しいですわよ。一勝もできていない花美には過ぎた目標ですわ」
「大丈夫ですよっ! 勝っていけばいつかは見える景色ですっ!」
「そりゃそうだな。よし、決まりだっ!」
朝陽さんが小内さん……いや、小内コーチの前に立ち、こう宣言する。
「ウチらの目標は勝つことですっ! まずは一勝……その後も勝つ。そんで気づいたら全国制覇だっ!」
「ふふっ。いい目標なんじゃない?」
「おらもできる限りサポートしていくからがんばっぺっ!」
コーチたちの後押しをもらい、朝陽さんが円に戻ってくる。
これが花美高校女子バレーボール部の新たなスタートだ!
「花美ー、ファイッ!」
『オーッ!』
懐かしい運動部っぽい響き。熱苦しいこの感じ。
どれも苦手だったけど、不思議と今は嫌じゃなかった。
第2章 了




