第2章 第28話 天国・特別な時間
〇環奈
調子がいい。
かつてないほどに調子がいい。こんなのはじめて。
でもなんでこんな調子がいいんだろう。
あ、梨々花先輩に頼まれたからか。そっか。そりゃ本気でやらなきゃだめだもんね。
余計な情報が全部流され、必要な情報だけが目に入ってくる。
思考も綺麗に流され、まっさらな状態。とっても心地いい。
この思考が余計な情報な気もするけど、でもあんまり関係ない。
なんか身体が勝手に動くし、すごい楽しい。
たのしーなー、バレーボール。こんなに楽しいのはひさびさだ。うれしいな。
あ、スパイク綺麗に拾われた。誰に上がるかなー。
他の人が助走始めてるけどたぶん風美だろうな。でも今のブロッカーじゃ止められない。
まぁ狙うならたぶん身長の低い扇さん。だとしたらブロックアウトじゃなくて振り下ろしてくるか。じゃあ風美の体勢と視線からしてたぶんここにいれば拾える。
「ふぅっ」
やった、当たった。腕がじんじん痺れる。これぞバレーボールの快感。きもちいーっ!
たのしーなーたのしーなー。バレーはこうでなくっちゃ。うん。
あ、こっちのスパイク決まった。交代は……うん、さっき交代したばっかだしまだコートにいられるな。よかった。
あれ、気づいたら逆転してんじゃん。十八対十四。まぁどうでもいいけど。
やっぱり勝ち負けなんてどうでもいいよね。こんなに楽しいんだもん。なんで勝敗なんてくだらないことで一喜一憂するんだろう。ほんとみんな馬鹿だなー、バレーをわかってない。
ん、朝陽さんの攻撃ブロックに捕まるかな。近くにはブロックに間に合ってないきららが。
あ、そうだ。梨々花先輩がやってたやつやってみよ。おもしろそう。
「きらら、ジャンプして」
なんかきららが言ってるけど聞こえないしまぁどうでもいいよね。
さて、どうやるのかな。腕の角度と位置を調整して、と……。ボールの勢いを利用するんだから朝陽さんのスパイクの勢いならたぶんいけるはずだけど……。
「っぅ」
あ、いけた。
ブロックに跳ね返ってきたボールをレシーブ、そしてそれをトスの代わりにする超速攻。梨々花先輩と扇さんがやってたやつのブロック、アーンド前衛バージョン。
なんだ、やっぱり梨々花先輩の言った通りたいしたことないじゃん。
こんなの、誰でもできる。
さてさて、これでなん対なんかなー。あ、別にどうでもいっか。だってこれ練習試合だし、まだ何試合もできるし。
あー、たのしーなー。
こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。
「何やってんだお前らぁっ!」
――あ。
終わった。




