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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第2章 讃美歌パフォーミング
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第2章 第13話 聖歌独唱

〇環奈


「ごめんなさい、店長さん。急にみんな来られなくなっちゃって」

「別に大丈夫ですよー、どうせお客さんなんて一人もいないんだし」


 主役のいない歓迎会の会場はいつものごとく喫茶花美。田舎特有の広い店内に人はあたしと梨々花先輩、店長さんしかおらず、小さく流れるラジオの音がはっきりと聞こえる。


「明日はみんな予定ないらしいのでたぶん全員で来られると思います」

「あ、そうなの。明日新しいバイトの子が入ってくるからちょっと迷惑かけちゃうかもしれないけど勘弁してね」


 入店直後にパフェを二つ注文し、あたしだけ先に席に着かせてもらっていると、カウンターの方からなんかやばい発言が聞こえてきた。こんな閑古鳥が鳴いてるお店でバイトなんて雇って大丈夫なんだろうか。


「あーそれはかわいそうですね。いきなりピークの忙しさを知ることになっちゃって」

「小野塚ちゃんたちは知らないと思うけどうちって昼がメインだからね? ランチタイムは結構繁盛してるんです。じゃなきゃやってけないよ」


 ……梨々花先輩とこの喫茶店の店長さん結構仲良いんだなぁ。まぁ少なくとも去年からこの店を贔屓してるんだし仲良くもなるか。それに店長さんまだ二十代中盤くらいで若いし話が合うのかもしれない。


「おまたせー。話聞いてた? 明日新しいバイトの人来るんだって。どんな人かなぁ」

「……さぁ。別にどうでもいいです」


 梨々花先輩がニコニコ笑いながらあたしの前の席に座ったけどおまたせーだけでいいと思ってるんだろうか。あたしを置いて別の女と話してたんだよ? まずごめんなさいでしょ。


「バイト募集してたなら日向もここで働けばいいのにね。そうすれば学校から近いからもっと部活来れるのに」

「……あの人はバイト先が近いからって活動日数増やすつもりはないんじゃないですか」

「あーそう言われたらそうか。環奈ちゃんも結構日向のことわかってきたね」


 そりゃ入部して三カ月も経てばある程度はわかってくるよ。でも今は日向さんのことなんてどうでもいいじゃん。


「はいおまたせー。イチゴパフェはどっち?」

「あ、わたしです。チョコは環奈ちゃんで」

「……ありがとうございます」


 あたしたちの目の前に彩り豊かなパフェが運ばれてくる。彩り豊かと言っても田舎町の普通の喫茶店のものだから特別感はないし、味もザ・普通のパフェって感じ。でもだからこそ普通においしいし、気軽にシェアできるからあたしはこの店に来た時は決まってこれを頼むようにしている。


「んー、やっぱりこの味だよねぇ」


 顔を上げてみるとさっそく梨々花先輩がメインのイチゴを口に含んで頬を手で触れていた。かわいい。


「環奈ちゃんって紗茎出身だったんだね」


 次にソフトクリームにスプーンを伸ばし、梨々花先輩はそう口にした。


「全然知らなかったよ。教えてくれてもいいのに」


 梨々花先輩はおいしいものを先に食べるタイプなんだな。あたしは下のフレークも途中で食べちゃうタイプ。そうすれば最後に悲しくならなくてすむから。


「……昔のことなんてどうでもいいじゃないですか」

「まぁね」


 たぶん梨々花先輩はあたしの気持ちが理解できない。こういうことがあるから話さなかったんだ。小出しに短くばらしていきたかったのに。


「……環奈ちゃんさ、紗茎時代に何かあった?」

「別になにもないです」


 それもこれも全部新世のせいだ。新世のせいで見せたくない部分が出てきてしまった。


「でも環奈ちゃん紗茎出身の人には妙に厳し……」

「そんなことより。あたしは怒ってるんですよ?」


 新世のせいで見たくない部分を出させてしまった。


「なんで瀬田さんのことで梨々花先輩が怒るんですか? もう梨々花先輩と瀬田さんは関係ないのに」


 自然と視線が下を向いてしまう。もし今梨々花先輩の顔が新世との時みたいになってたらあたしは耐えられない。


「あたしといるのに他の女と話して、他の女の話をして、あたしは梨々花先輩のためのバレーをしてるのに!」


 チョコレートでコーティングされたソフトクリームが溶けていく。それが室内の温度のせいか、あたしの熱のせいかはわからない。


「梨々花先輩はあたしのためになにをやってくれるんですか……?」


 それでもあたしのソフトクリームは溶けていく。話すよりすぐに食べてしまうのが正解だろう。あたしはスプーンを手に取り、


「環奈ちゃん」

 呼ばれ、すぐに梨々花先輩を見た。


「りりかぁっ」

 名前を呼ぼうと口を開けた瞬間、口に何かが突っ込まれた。


「ぁ……ぁむ。んぅ……」

 柔らかな口触りと粒々のある果実、そして円形の固い物体。


「ごめん、今わたしにできることはこれくらい」


 あたしの口からスプーンをそーっと引き抜き、梨々花先輩は少しも悪びれずにっこりと微笑む。


「おいしい?」


 甘い。


 卑怯なほどに、甘すぎる。


 ソフトクリームとイチゴの甘さがあたしを心から溶かしていく。


 これじゃあチョコのほろ苦さを味わうことができないじゃん。


「……もう一口、ください」


 あたしのパフェは原型をとどめないほどに崩れてしまった。

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