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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第2章 讃美歌パフォーミング
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第2章 第11話 第二楽章・無伴奏曲

「では私たちはこれで……」

「ちょっと待て」


 今度こそ帰ろうと飛龍たちが挨拶しようとするが、再び止められてしまった。しかも相手は徳永先生。無視できる相手ではない。


「おらはバレー経験がねぇから指導ができねぇ。だから練習見させてやる代わりにアドバイスぐれって言ったでねぇか」


 へーそんな約束してたんだ。なんも考えないで偵察を許可したわけじゃなかったのか。


「アドバイスだなんて偉そうなことできませんよ。花美のみなさんは先生が思っているよりずっと上手い。春高予選ではかなりいいところまでいけるはずです」


 偉そうなことはできないと言った割にはずいぶん偉そうな発言だけど、飛龍の爽やか営業スマイルと話し方のせいでそれに気づくのに時間がかかってしまった。飛龍は人差し指を立てて顎に触れることで考えているアピールをしながら話を続ける。


「ただそうですね……。あえて言わせてもらうなら、やはり先生がおっしゃった通り指導者の不在が問題だと思います」


 飛龍の言ってることはもっともだ。今の練習は朝陽さんが中心になって行ってるけど、全員を見れるわけじゃないし、理論より感覚派の朝陽さんはそもそも指導に向いていない。


 受験勉強で忙しいもう一人の三年生、真中胡桃さんも時々指導してくれるけど初心者のきららを鍛えるので精一杯だし、さっきコーチの真似事をしていた新世は戦術の解説とかはできてもメンタル面のサポートはできないだろう。


「優れた指導者はいるだけで導になりますし、一人のコーチが入っただけで無名校が全国クラスになった事例もあります。……逆に選手が優秀だったのにコーチが屑だったせいで伸びなかったというのも珍しい話ではない。それほどに指導者は大切なんです」


 そう話す飛龍の表情は珍しく神妙で、いまだあの問題は解決できていないことを悟らせる。


 あたしが紗茎を離れることとなった、直接の問題が。


「いい指導者がいればわざわざ私なんかに教えを請わなくてもよくなりますよ。……では私たちはこれで」

「か、環奈ちゃん、珠緒ちゃん、またね」

「ええ。次は勝たせていただきますわ」

「…………」


 手を振って帰っていく飛龍たちにあたしは何も返さず見送る。


 もうこれ以上話したくもないし、会いたくもない。


 心の底からそう思ったから……いや、そう思いたかったから。


「じゃあおらもちょっと席外すな。たぶん帰ってこれないと思うから後は一ノ瀬さん頼んだ」

「ほーい」


 その後何か予定があるのか、すぐに徳永先生も体育館から出て行った。


「んー今からまた練習しても微妙だな……」


 朝陽さんの言葉を聞いて壁に掛けてある時計を見てみると、気づけば時間はもう六時。下校時刻まであと三十分ほどしかない。あたし的にはまだまだ練習したりないから解散しても自主練してたいな。梨々花先輩も残ってくれるかな。


「よし! じゃあ少し早いけど珠緒の歓迎会やるか!」


 ……ほんとに自主練してたいな。


「朝陽さん、あたし居残りれんしゅ……」

「何言ってんだ! 歓迎会ってのは全員でやらなきゃ意味ないんだぞ! 環奈も強制参加だ!」


 なんか朝陽さんテンション高い! まるで嫌がる部下を無理矢理居酒屋に連れて行く中年部長みたい!


「……でも胡桃さんも日向さんもいないしまた後日……」

「あ、もちろんそれはそれで別日にやるぞ」

「なんでっ!?」


 いるよねこういう上司! 家に居場所がないからって会社の人間を巻き込む人!


 ……えー。どうしよう、ほんとに行きたくない。なんであたしのバレーライフを新世なんかに邪魔されなきゃいけないんだ。まぁこればっかりは新世なにも悪くないから八つ当たりだけど。


「その件ですがわたくし今日は予定があるので参加できませんわよ?」

 新世に恨みの念を送っていると、それが届いたのかきょとんとした顔で新世はそう断った。


「朝陽さんごめん、みきも今日用事あるからパスで!」

 新世に続いて扇さんまでも不参加を表明。これは勝ったのでは?


「えーマジかー……。じゃあしょうがない、ウチら四人だけでやるか」

「それは最早歓迎会じゃない!」


 どんだけ遊びに行きたいんだこの人! どうせいつもの喫茶店でしょ!? いつでも行けるじゃん!


「実はな、もう予約してあんだよ着替えの時に。キャンセルってなるとマスターに迷惑かかるだろ?」

「あの店いつ行ってもガラガラじゃないですか……」


 なんで今日に限って予約なんてしちゃったんだ。繰り上がりで部長になったから張り切ってるのかな?


 くそー、今日はほんとにみんなでごはんってテンションって感じじゃないんだよな。色々なことを全部忘れてられるバレーをやってたい。


 あーあ、朝陽さんにも急に用事が入ってくれないかなー。


「あ、そうそう。面談やってないからって担任の先生が一ノ瀬さんのこと呼んでたよ」

「ぎゃあっ!」


 あ、徳永先生が急に戻ってきて朝陽さんに用事ができた。


 ……ていうか、え? あたしが念じたらその通りになったんだけど。なに? もしかして超能力に目覚めた?


「仕方ありません! 自分たち三人でごはんにいきましょう!」

「…………」


 きららにも急用が入りますように。


「それと翠川さん、説教中に逃げ出した件で権田先生が話あるって」

「ふぎゃぁっ!」


 ……やばい。今のあたし、最強。


「り、梨々花先輩は用事とかありませんよね」

「うん。わたしは全然大丈夫だよ」

「じゃ、じゃあしょうがないですね。店主さんにも悪いですし二人っきりでごはんに行きましょうか」

「うん。いいよ」

「しゃぁっ!」


 梨々花先輩とデート! デートだ! やったー!


 なにか他にやりたいことがあった気がしたけど、ま、どうでもいっか。

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