表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第2章 讃美歌パフォーミング
54/157

第2章 第10話 消えない旋律

〇環奈



「いい試合だったね、環奈」


 試合にもならなかった試合を終え、飛龍が爽やかな顔で近づいてきた。爽やかと言ってもその過程は全てを手の上で転がせて満足したというもの。爽やかとは真逆の結果だ。


「あれがいい試合なら悪い試合なんてないよ」


 試合内容は非常に圧倒的なもの。でもいいわけみたいで嫌だけど、この結果は始まる前からわかっていた。


 いくら三枚のブロックを揃えたとしても、それはどんなことがあっても崩れない壁にはならない。

 きららのブロックは高いだけでまだ未熟だし、新世のブロックは低い上に締めることしか意識していなかった。


 弱いブロックと止めるつもりのないブロック。その二枚のブロックは明確な穴となり、スパイクに完敗するという結果を生んだ。


「ていうか六対二とか言うのやめてくれる? きらら……身長の高い子とか無駄にショック受けちゃうじゃん」


 確かに人数で見るとその通りだけど、たった一プレー、短いラリー。これがもっと長かったら人数差が如実に現れてくるはずだけど、こんなので人数差があったにも関わらず完敗しただなんて言いたくない。そして何よりこれで初心者のきららにバレーを勘違いしてほしくない。


「まぁどっかの馬鹿も気にしてるっぽいけど」

「あはは。やっぱりまだ私たちを許してないんだね」


 心底楽しそうにそう言うと、飛龍はゆっくりあたしに顔を近づけてくる。


「ちょっ」


 少し身体を屈ませ、飛龍の顔はあたしの耳の隣へ。そして生暖かい風と共に一言。


「嫌うなら、もっと徹底的にやらないと」

「っ」


 飛龍の官能的な声が耳を伝い脳にまで届く。そして思い起こされるのは、新世が二対二を申し込んだ時に思わず飛び出してしまった言葉。


 壁があることを示すために決めていた苗字呼び。それが咄嗟のことで崩れてしまった。


「ふふっ。じゃないと、」


 小さな笑い声が耳元で聞こえたかと思ったら、熱くなった耳にぷにっと柔らかな感触が触れた。


「ひゃぅっ」


 思わず手で払おうとすると、それを読んでいたかのように飛龍は優雅にくるっと一回転してあたしの手を避ける。空を切った手でそのまま耳たぶを触ると、わずかに湿っていることがわかった。


「じゃないと、気づかない内に噛まれちゃうかもよ」


 飛龍は不敵な笑みを浮かべると綺麗な指を口元に持ってくる。


 こいつ、あたしの耳を唇で噛みやがった……!


「流火……!」

「ほらほら、そういうところ。まだ続ける気なら直した方がいいよ」


 あたしが掴みかかろうとすると、飛龍はひらひらと手を振り新世と話している蝶野の方に歩いていってしまった。


「ほんと嫌な奴ら……!」


 新世に蝶野に飛龍。久しぶりに会ったチームメイトたちは当時と何も変わっていない。


 あの時のことを何も悪いと思っておらず、それなのにどうしても憎めない。


 だからあたしはあえてそう口にすることであの日の誓いを再確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ