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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第2章 讃美歌パフォーミング
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第2章 第7話 接続曲・チョウノ来襲

〇環奈



「ナイスレシーブですわ、環奈さん!」


 扇さんのスパイクを綺麗に拾ったあたしに助走体勢に入った新世が叫ぶ。現在の得点状況は九対七。あと一点取ればあたしたちの勝利というタイミングで新世は通常のスパイクであるオープン攻撃でのツーアタックを試みようとしていた。


 まぁ、そう見えるだけかもしれないけど。


「舐めんじゃねぇぞゴラァッ!」


 その攻撃に対して扇さんと一ノ瀬さんのブロックが付いてくる。新世のスパイクの能力は中の上程度。完璧に付いてきた二枚ブロックに確実に勝てるとは言い難い。だから、


「残念はずれ! ですわっ!」


 宙に跳び、ボールを叩く寸前。新世は腕を引っ込め、ボールをきららのいるレフトへと運んだ。


「とりゃぁっ!」


 不完全な体勢でのトスはただでさえ打ちづらく、ましてや初心者のきららでは完璧にミートすることができず、手にかするだけに留まる。でもそれが深くで守っていた梨々花先輩の裏をかくことになり、ボールは誰もいないコートへと落ちた。つまり、


「わたくしたちの! 勝利ですわっ!」

「やりましたーっ!」


 一年生チーム対上級生チームは十対七でまさかの一年チームが勝利を収めることとなった。


「くそー! 完敗だ!」


 向こうのコートで悔しそうに朝陽さんが叫ぶ。確かに結果だけ見ると結構差をつけているように見えるけど、内容としてはかなりの接戦。というよりこっちの方が不利だったと思う。


 序盤こそ新世のツーアタック、ツーに見せかけてトス、ツーに見せかけたトスに見せかけたスパイク攻撃なんかに苦しめられて五対一くらいだったけど、後半になるにつれ向こうも慣れてきて段々追いつかれてきていた。これが正規の二十五点マッチだったら確実に相手の勝ちだっただろう。


「どうです!? わたくしの実力、わかっていただけましたか!?」


 それに気づいてるのか知らないけど新世は自信満々に一ノ瀬さんに握手を求める。


「ああ。かんっぜんに参った! 次は負けないからな!」


 それに対して朝陽さんは眩しい笑顔で大人の対応。あたし的には負けたって感じがすごい。


「環奈ちゃん、握手しよー」


 そう梨々花先輩に呼ばれてきららと扇さんも握手をしていることに気づいた。梨々花先輩の手を握れる……うれしい!


「いやー、やっぱ環奈ちゃんうまいねー」

「いやいや梨々花先輩こそ。ぜんっぜん新世なんかより上手かったですからね」

「うーん、それはどうだろうね……」


 梨々花先輩は謙遜してるけど、実際単純なトスの技術だけを見るなら梨々花先輩の方が新世より勝ってる。でもセッターとしての能力と考えるとすぐには答えを出せない。


 セッターはトスを上げるだけのポジションじゃない。ブロック、サーブ、時にスパイク。そしてその時その時の最適な攻撃を選ぶセンスが求められる。


 もちろんサーブとセンスはトス以上に梨々花先輩の圧勝だと断言できる。でも身長がモロに実力に関わってくるブロックとスパイクはなんとも言えない。


 梨々花先輩のブロックは手がネットの上に出るか怪しいし、スパイクも同様。そしてトスに見せかけたツーアタックは身長のせいで完全にできない技術になる。


 総合的に考えた時に朝陽さんが梨々花先輩をセッターに選ぶとは限らない。でも、


「やっぱり梨々花先輩の手って綺麗ですね」

「え? それほどでもねぇべー」


 あたしに褒められてうれしそうに身体をくねらせる梨々花先輩。握手を交わした手のひらはまったく湿っていないし、汗だってついていない。


 つまりこの試合中梨々花先輩は全然本気じゃなかったんだ。


 本気の梨々花先輩の全てをねじ伏せる実力。それを思うと新世ごときがセッターになれるなどありえない。それに、


「別に試合になんて出られなくたって……」

「みんなおつかれさまー」


 あたしの言葉を遮るように体育館に一人の女性が入ってきた。


「いやー、外から見てたんだけどもいい試合だったな。まぁおらにバレーはわからねーんだけども」


 その人は女子バレーボール部の顧問、徳永桃子先生。今年教師になったばかりで未経験なのにバレー部の顧問を押しつけられたかわいそうな先生、らしい。あたしも一年生だからよく知らないけど。


「見てたなら入ってくればよかったのに」


 フランクな口調で朝陽さんは話しかけたが、先生は気にも留めてない様子でニコリと笑う。


「ごめんごめん、ちょっとお客さんが来てたんだ。ほら、入ってこい」


 先生がそう入口に向けて言うと、二人の人影が体育館へとゆっくりと足を踏み入れた。


「え!? あの人って……!?」

「見間違えでねぇよな梨々花ちゃん!?」

「なんでここにいるんですか!?」

「おいおいマジかよ……」


 その人たち、いやおそらくその内の一人を見て彼女たちをよく知らない四人が慌てふためく。

 そしてあの二人のことをよく知っているあたしと新世は、梨々花先輩たち以上の衝撃を受けていた。


「ほんと、なんでここに……」


 思わず一歩後ずさってしまう。今日は会いたくない人によく会う日だ。本当にやめてほしい。


 先のインターハイ予選で花美を下した紗茎学園高等部のスーパーエース。


「うぇ、その、あの、ご、ごめんなさいっ」


 蝶野風美(ちょうのかざみ)が大きな身体で慌てふためいていた。

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