第2章 第0話 序曲・わたくしの登場ですわ!
〇?
「ようやく終わりましたわね」
つい数秒前までコートを縦横無尽に動いていたボールが不意に床へと落ちた。たったそれだけの出来事が彼女たちの全てを終わらせる。三年間の努力だとか、先輩と過ごすことのできる時間だとか、遥か遠い夢だとか。
床に倒れ込み辛そうに顔を歪める彼女たちの気持ちはわたくしにはわからない。それでもおおよその検討をつけることができる。それができるのはわたくしだけではない。きっとこの観客席にいる全ての人が今彼女たちがどういうことを感じているかを推し量ることができるでしょう。
「くだらないですわ」
悲しさ。悔しさ。苦しさ。今彼女たちを襲っている感情は誰もが一度は覚えがあるものですわ。そんなありふれた気持ちに押し潰されるなんてとんでもない時間の無駄としか言いようがありません。そんな暇があるなら次何をするかを考えればいいのに。
「凡庸な人間にはここらが限界ですわね」
後はわたくしが導いてあげましょう。それこそがわたくしが選んだ道。凡庸な未来を捨て特別な一瞬を手にするための決断。
「お待たせましたわね環奈さん。満を持してわたくしの登場ですわ!」




