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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしのおわりとはじまり
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第1章 第24話 繋がった二人のバレーボール

 コートの中はいまだラリーが続いているが、状況はかなり緊迫していた。紗茎の選手のスパイクをなんとか上げたものの、相手コートにただボールを返すだけで終わってしまった。そして紗茎の選手の動きを見るに、次の攻撃は蝶野のバックアタック。このスパイクをどうにかしなければ、その時点で花美の敗北が決まる。



 紗茎のセッターがボールを蝶野に上げる。それとほとんど同じタイミングで蝶野も跳び上がった。思わず見惚れてしまいそうになるほどの綺麗なトスと跳躍。このバックアタックは決まる。悔しいがそう思ってしまった。



 でもここで終わるわけにはいかない。終わりたくない。負けたくない。コートに立ちたい!



 そう心の中で叫んだ時、わたしの口は勝手に動いていた。



「わたしに繋げぇぇぇえぇっ! ばかぁぁぁぁあぁぁああぁっ!」



 なぜか出た暴言に、裏返ってしまうほどの大声。次にわたしが出ることになったことを知らないコートの中の選手にしてみれば、なんのことかわからないだろう。



 それでも確信を持って言える。わたしの想いはコートの選手にも伝わっていた。



「止めますっ!」

「……うん」



 蝶野の打つ方向にいた絵里先輩ときららちゃんがブロックに跳ぶ。しかしなぜか絵里先輩のジャンプはいつもより低い。その穴を見逃さなかった蝶野は絵里先輩の頭上にスパイクを打つ。ボン、という轟音と共にボールは絵里先輩のブロックの上を抜け、尋常じゃない速度で床へと迫っていく。ボールの落下予測地点は後衛にいる美樹の顔の正面。後ろに下がってアンダーハンドで取るか、腕を上げてオーバーハンドで取らなければならない場面だが、あまりのボールの速さに腕が追いついていない。



 間に合わない――。そうわたしが目を瞑りそうになった瞬間、



「っぁ!」


 美樹はボールを顔で受けた。



「っつぅ!」

 バレーボールは床にさえ落ちなければ、身体のどこにボールを当ててもいい。美樹の額に当たったボールは、強い勢いのまま打ち上がっていく。



「ナイス! レシーブッッッ!」

 会場が美樹のミラクルプレーに湧き上がる。しかし喜びも束の間、高く上がったボールは相手コートに返っていきそうになる。しかも向こうのミドルブロッカーは返ってきたボールを直接打ち返す、ダイレクトアタックをしようと跳び上がっている。



 美樹はボールを顔で受けた衝撃で倒れているし、おそらくダイレクトを打たれたら誰もレシーブできない。



 やっぱりだめなのか。わたしが諦めてしまいそうになった時、座ってプレーを見ていた環奈ちゃんが立ち上がり、思いっきり叫んだ。



「きららあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「はいっ!」



 環奈ちゃんの声を聞き、ハッとした。さっきまでブロックに跳んでいたきららちゃんが素早く横に動き、ボールを相手コートに行かせないようジャンプしていたのだ。



「お願い、しますっ!」


 ボールがネットを超える直前、きららちゃんは最後の一撃を託すように右手の指だけでボールをレフト方向に弾いた。



「任せんしゃいっ!」


 きららちゃんの動きを読んでいたかのように、前衛レフトにいた日向は跳び上がっていた。ボールはネットの手前の上空を平行に移動し、日向の頭上へと差し掛かった。そこを逃さず日向は最高打点でボールを叩く。まさかのプレーに紗茎はまったく動けず、日向が打ったボールは相手コートに叩きつけられた。



 つまり、花美の得点。



「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」



 奇跡のようなプレーの末の得点に、わたしと環奈ちゃんは思わず抱き合う。



 繋いだ。繋がったんだ、次のプレーに。わたしたちの出番に。



「選手交代お願いします」

 徳永先生が副審にそう告げ、わたしは6と書かれた選手交代ボードを手に取る。次のローテのサーブは日向。わたしは日向と代わって出ることになる。



「それじゃあ行きましょうか」

 同時に環奈ちゃんも後衛センターにいる胡桃さんと入れ替わるためにコートに向かう。



 本来わたしと環奈ちゃんが同時にバレーをすることはない。二人とも身長が低く、リベロ以外では活躍できないからだ。だからわたしと環奈ちゃんのバレーボールは、決して繋がることはない。



 だけど今。繋がらない、二人のバレーボールが繋がる。わたしはリベロじゃないけれど、それでも一緒にコートに立てる。



「勝つよ、環奈ちゃん」

「はい、梨々花先輩」



 コートに入る直前、どちらが先に手を伸ばしたのかわからないが、わたしと環奈ちゃんの手が繋がった。汗でベタベタになった環奈ちゃんの温もりがなぜか心地良い。



 わたしと環奈ちゃん。二人のバレーボールが、今始まろうとしていた。

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