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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしのおわりとはじまり
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第1章 第20話 送辞

〇梨々花



「結局、なんだかんだ来ちゃうよねー」


 二時間近くスイーツショップでおしゃべりをしたわたしたちが次に向かった場所は、スポーツショップ。一口にスポーツショップと言ってもわたしの知っている必要最小限の道具しか売っていない小さな個人店ではなく、世の中にはこんなにスポーツがあるのかと驚かされるほどの広さと量を揃えているかなり大きなチェーン店だ。



「特に買うものもないんですけどねー。まぁ運動部あるあるですよね」


 店内を見渡しながらバレーボールコーナーを探す。バレーボールは専門の道具というのは他のスポーツに比べて少ないので、結構スペースは小さい。この大きなお店でも置いてあるのはボールやシューズ、サポーターくらい。ドリンクとか他のスポーツでも使うものはまとめてどこかに置いてあるようだ。



「環奈ちゃんのシューズってどういうタイプだっけ?」


 なにも考えずに訊いてみたが、返事がない。なにか地雷だったのかなと思って顔を見てみると、顔を紅くして俯いていた。



「……まだ名前呼びなんですね……」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「り、梨々花先輩がいいのならいいんですけど……」



 モゴモゴと口を動かし、さらに顔を低くする環奈ちゃん。なんかスイーツショップの時からどうにも様子がおかしい。突然大声を上げて立ち上がったり、ずっと顔を真っ赤にしていたり。てっきり照れているだけかと思っていたが、ここまでくると調子が悪いのかと疑ってしまう。



「そ、そういえばなんですけど! 梨々花先輩ってなんでジャンプフローター打てるんですか!?」


 明らかに話を逸らすように、環奈ちゃんが強い口調で訊いてくる。そんな気になることじゃないだろうに。



「ん? あぁ、わたしが試合に出られるとしたら後衛の時にレシーブが苦手な美樹とか日向と代わるレシーバーくらいしかないじゃん。だったらサーブも打つだろうし何か特殊な技でも覚えておこうと思ったんだ。でもわたしのこの小さな身体じゃ威力の強いサーブは打てないから、威力の関係ないジャンフロにしたの。この一週間放課後の時間を使って美樹と公園で練習してたんだよ」


 と言ってもまだまだ実戦で使えるレベルじゃない。インハイ予選までに間に合うかどうか……正直五分五分ってところか。



「一週間……ほんとに一週間しか練習してないんですか?」

 それなのに環奈ちゃんは愕然とした顔でわたしの言葉が信じられないかのように訊き返してくる。



「正確に言えばレギュラーを外された日からだから一週間じゃないんだけど……」

「でも……それでもあのクオリティは……」

 環奈ちゃんがなにを言いたいのかはわからないが、結局のところわたしが言えるのは一つだけだ。



「試合に出るには……絵里先輩にボールを繋げるチャンスを作るにはもうサーブしかないんだよ。だからサーブを練習する。それだけだよ」


 言い終わってからまたやってしまったと気づく。どうにも絵里先輩絡みのことになると話が重くなってしまう。話題を変えないと。



「そ、そうだ! 環奈ちゃんも格言Tシャツ買ってみない?」

「え? 嫌ですけど」

「即答!?」


 格言Tシャツかっこいいと思うんだけどなー。どうしてみんな着たがらないんだろう。美樹ですら着てくれないし。なんとか格言Tシャツを流行らせたいものだ。



「ならさ、わたしが環奈ちゃんに格言Tシャツを買ってあげるよ。着ても着なくてもいいから、もらうだけもらってくれない?」


 どうだ! 秘技、プレゼントをもらったら使わないわけにはいかないの法則! 昔この技を美樹に使われて、誕生日プレゼントでもらった派手な下着を着けざるを得なくなったことがある。あの時は大変だったな……。



「それならまぁ、いいですけど……。あ、でも一つ条件があります」

「条件?」

「はい。あたしも梨々花先輩にTシャツを選んでもいいですか?」


 言葉の響きで身構えてしまったが、そういうことならむしろ大歓迎だ。プレゼント交換というのもなんだかオシャレでかっこいい。



「でも環奈ちゃんからは一度誕生日プレゼントでもらってるよ?」


 あの日。わたしがリベロから降ろされた日にもらった、『努力は必ず報われる』と書かれたTシャツ。あの日からまた格言Tシャツを着るようになったが、結局あのTシャツだけはいまだに着れていない。色々と吹っ切れたつもりだが、やっぱりあの言葉はもう見たくなかった。



「あれを選んだのはきららちゃんなんで。今度はあたしが選んでみたいんです」

 そう言って環奈ちゃんは気恥ずかしそうにはにかむ。やっぱりただ照れているだけなのかな。まぁめんこいからいいか。



「じゃあ別々に買って、あとで見せ合う形にしよっか。そっちの方がお楽しみ感あってよくない?」

「オッケーです。じゃああたし待ってるんで、お先にどうぞ」

「悪いね。すぐ選んでくるから」



 環奈ちゃんをバレーボールコーナーに残し、お店の奥にある練習着コーナーに向かう。さすがは大きなお店だけあって、練習着と一口で言っても色々と種類がある。なにやら難しい機能があるやたらぴっちりとしたものや、ただの無地のもの。その中からも弾かれるように、格言Tシャツはコーナーの端に追いやられていた。それでも近所のブティックよりも種類は多く、畳んであって文字が見えないものも含めれば数十種類もの格言Tシャツが置かれていた。中には四字熟語や文章になっているものもあり、非常に興味をそそられる。できれば全種類確認してみたいが、環奈ちゃんを待たせている以上そう時間はかけられない。開いた状態で飾られているものの中から選ぼう。



 数を限ったとはいえ、それでもまだ20種類くらいは残っている。この中から環奈ちゃんにふさわしいものを選ぶのは中々苦労しそうだ。


 まずは環奈ちゃんの性格を整理してみるか。そして性格に合って、なおかつわたしから環奈ちゃんに贈る意味のあるものを選ぼう。



 性格的には今時女子って感じで、オシャレなことをよく知っている。それだけだとキャバキャバしているように感じるが、先輩への敬意は忘れず、常に気を遣っているように見える。



 そして、勝ち負けに興味がない。楽しくバレーができればそれでいいと思っている。状況が状況とはいえ、わたしにレギュラーを譲ろうとするほどだ。



 そんな環奈ちゃんに、わたしが贈れる言葉はあるのだろうか。



 絵里先輩にボールを上げることだけを考え、絶対リベロになりたかったのに、そのポジションを奪われたわたし。



 正直気にしていないと言えば嘘になる。悔しくて仕方ないというのが本音だ。



 でも、どうあがいたってわたしはもうリベロにはなれない。



 絵里先輩にボールを繋げることはできない。



 だって環奈ちゃんがリベロなんだから。



 だったら、せめて――。



 答えは、出た。



 環奈ちゃんにわたしから贈る言葉。それはたった二文字でしかないが、わたしの想いが全部詰まっている。



 わたしはその言葉が書かれたTシャツを手に取ると、会計へと向かった。

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