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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしのおわりとはじまり
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第1章 第19話 蜜の味は無味無臭

「日向! なにやってんだべ、こんな所で!」

「なにって、ここひーのバイト先。二人こそなにやってんのさ」


「環奈ちゃんと遊びに来たんだよ。で、お昼ごはんタイム」

「あーなるほど。お昼時だとうち空いてるからねー」


 雑談してるけど梨々花先輩! この状況わかってるの!? 外川さんにあたしたちカップルです、って言わなきゃいけないんだよ!?



「あ、このカップルセット一つ。キーホルダーはバレーのやつで」


 言った! この人平然とカップルセット注文しちゃった!



「カップルセット…? あー、なるほどなるほどー」


 本当にカップルだと思われたらどうしようかと思ったけど、外川さんは少し戸惑った後に合点がいったようにうなずいてみせた。よかった、目的はこのキーホルダーだってわかってくれたようだ。



「すいませんそのセットの注文は二人で声を揃えて正式名称を言ってもらえないと受け付けられないんですよー」

「はぁっ!?」


 外川さんの言葉に思わず大きな声で叫んでしまった。他のお客さんの視線が痛いけど、でも、はぁっ!?


「そんなことメニュー表に書いてないんですけど!?」

「でも決まりですのでー」


 そう言うと外川さんはニヤニヤと笑いながらあたしを見下ろしてくる。さてはこの人、全部わかった上で楽しんでるな!?



「環奈ちゃんいくよー。せーのっ」

「いや! いやいやいやっ! おかしいでしょ絶対っ!」

「決まりですのでー」


 くそー、梨々花先輩は言う気満々だし外川さんは譲る気はないみたい……。ほんとに言うの? このラブラブ! あなたのことが大好きなのセットって……。しかも大声を出したせいで今店内中の視線はあたしに注がれてるし……!



「ではひーの合図の後にお願いしまーす。せーのっ」

 くそ、絶対あとでクレーム入れてやるからな……! 覚えてろよ外川日向……!



「「ラブラブ! あなたのことが大好きなのセットお願いします!」」



「はーい、少々お待ちくださーい」

 外川さんは満足そうに言うと、ニヤニヤしながらテーブルから去っていった。それと同時にお客さんの視線もあたしから離れ、代わりにひそひそとあたしたちのことを笑う声が聞こえてくる。もうだめだ、顔を伏せるしかない。なにこの辱め……死にたい……。



「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「あたし死ぬのでほっといてください……」


「死ぬの!? こういう時は……チューしたら生き返ったりする!?」

「もっと死にます……」


「もっと死んじゃうんだ!?」

「お待たせしましたー」


 あ、外川さんの声が聞こえる……。そうだ、外川さんを道連れにして死のう……。うん、それがいい……。



「まずはお飲み物でーす」


 視線だけテーブルの上に移すと、外川さんがハート型に曲がっているストローの付いたクリームソーダを運んできていた。真っ白のクリームの上に乗っている真っ赤に熟れたさくらんぼが美味しそう……。死ぬのはこれを食べてからにしよう……。

 そう思って顔を上げると、ニヤニヤ笑っている外川さんと目が合った。



「どうしたんですか? 飲まないんですか?」

「いつまでそこにいるんですか!」


「さくらんぼを一緒に口にくわえたりは?」

「しませんっ! 運び終えたのなら帰ってくださいっ!」


 「ちぇー」と舌打ちしてようやく外川さんがテーブルから去っていく。店員さんにあるまじき態度だ。マジでクレーム入れようかな……。



「じゃあ飲もっか」

 そう笑うと、梨々花先輩は片方の飲み口に口を付ける。ルージュどころかリップすら塗っていないようなのに、すごく綺麗な唇をしている。そのふっくらとした唇に目を奪われていると、梨々花先輩はストローをくわえたままなにか言葉を発した。



「ふぉふぁふぁふぃほぉ?」

 ……まったくわからないけど、たぶん飲まないの? かな……。って、



「飲むわけないじゃないですかっ!」


 別に二人一緒に飲めるとはいえ、わざわざその機能を利用する必要はない。代わりばんこに飲めばいいだけだ。


 でもいつまで経ってもドリンクの量は減らず、梨々花先輩はあたしが飲むのを待ってくれている。なんでこういう時に限って先輩らしく気を遣ってるんだこの人は……。



 ……これは……もう飲むしかないのか……!


 周りを見渡し、他の人の視線がないか確認する。……なんか他のお客さんがあまりにもわざとらしく目線を逸らしているような気がする。これ絶対盗み見してるやつじゃん。外川さんにいたっては隠れもせずに堂々と少し離れた位置からあたしたちの様子を窺っているし。



 うー……。うー……。いくしか、ないのかぁ……。


 意を決し、あたしはテーブルの中央に置かれたドリンクを飲むために身を乗り出す。そして梨々花先輩の反対側の飲み口に口を付けた。



 あたしが口を付けたのを確認し、梨々花先輩は笑顔でドリンクを吸い上げる。ちゅー、という気の抜けた音が今のあたしにはとても艶めかしく聞こえる。


 ていうか顔近い! あと数センチ近づいたら顔が触れ合う! ぱっと見はすごく子どもっぽい顔立ちなのに、近くで見ると確かな女性らしさがあって……ああ!



「おいしいね、環奈ちゃん」


 梨々花先輩がストローから口を離し、にっこりと微笑む。


 生憎だけどあたしには、さっぱり味はわからなかった。

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